チャプター1
健斗は薄暗い森の中を進み、目当ての村へ近づいていった。
「ギャース!」
「ギャース!」
その最中で彼の背後から2匹の怪オオカミが飛び出してきた。一体はとびかかり攻撃。もう一体は体当たり攻撃を繰り出した。
健斗は落ち着いて迎え撃ち、まず初めに到達するとびかかり攻撃をしてきた怪オオカミの頭部に手刀を繰り出して迎撃する。
「ギャッ!」
手刀を受けた怪オオカミの頭部が陥没して即死する。体当たり攻撃を仕掛けてきた怪オオカミの側面へと回り素早く拳を叩き込んだ。
「ギャッ!」
怪オオカミから爆発したように臓物が周囲に飛び散り、あたりに血と臓物の臭いが漂った。それを皮切りに彼に向けて怪オオカミが襲いかかかってきた。
「「グラアア!」」
とびかかってきた怪オオカミを叩き潰し、踏み殺し、少しずつ村へ向けて前進していった。だがさすがに騒ぎすぎたようで、こちらに向けて数名の魔族兵が近づいてきていると通信から警告が聞こえた。
≪健斗早くしないと合流されるぞ!≫
「待って!もう少しで…」
大口を開いて喉笛にかみつこうとしてきた怪オオカミの首をつかんで捩じ折り、左腕にかみついている怪オオカミを引きはがし地面にたたきつけて踏み殺した。
踏み殺した瞬間、彼めがけて闇の弾丸が飛来してきた。
「ヌウッ!」
健斗は飛来する計十二のブラックバレットをすべて叩き落し、それが飛来した場所を鎧の中からにらみつけ、警戒した。
「「「うおおおおおお!」」」
ブラックバレットが飛来した方向から勢いよく3人の魔族兵が武器を構えて突撃してきた。その後ろから6匹の怪オオカミが追随して飛び出してきた。
「おおおお!」
健斗は大ぶりに振り下ろされる剣を受け流し、その顔面に裏拳を叩き込んだ。
「がもっ!」
「うおおおおお!」
たった今顔面を破壊されて死んだ魔族兵の後ろから別の魔族兵が殺された仲間ごと健斗を貫こうと剣で突き攻撃してきた。健斗は突き攻撃を回避すると同時に魔族兵の腕を殴りつけて剣を取り落とさせ、その剣を素早く奪い取り魔族兵の首をたたき切った。
そして健斗は手に持った剣で6匹の会オオカミを切り殺し、こちらに向けてブラックバレットを撃ちまくる魔族兵に向けて勢いよく投げつけた。
「オラぁ!」
「ごあ!」
投げつけられた剣は過たずの魔族兵の胸を貫き木に縫い留めた。魔族兵は痛みでバタバタともがいたが、縫い留めている剣は木に深々と突き刺さっており外れることはなかった。健斗は縫い留められた魔族兵につかつかと歩み寄り、手刀で首を切り落としてとどめを刺した。
「クソ!なんだか当たり前のように魔獣が混じってくるようになってきたな」
≪魔獣もついに使用可能段階に入ったということだろうな。気をつけろよ≫
「了解」
健斗は足止めを食らった時間を取り戻すように勢いよく走り出した。走り出してすぐに目的の村が見えた。村の入り口を守っている魔族兵と入り口を固めてあるバリケードごと跳ね飛ばして、健斗は村内に豪快にエントリーした。跳ね飛ばされた魔族兵2名は頭から落下し、首をあらぬ方向へひん曲げて絶命した。
エントリーした健斗は間髪入れず驚いて固まっている魔族兵のがら空きの胴体に正拳突きを叩きこんで殺す。
我に返った魔族兵たちは両腕を前方に浮き出し固定砲台のように手を合わせた。
「食らえシルバーナイト!ブラックマシンガン!」
魔族兵隊長が叫び、それを合図に生き残っている隊長含め10人の魔族兵が一斉に闇の弾幕を張った。
ズガガガガガガガガ!
健斗は闇の弾幕をジグザグに動いてかわそうとするが、単発のブラックバレットの連射と違い途切れなく射出される闇の弾はシルバーナイトを着込んでいても全てかわし切れるものではない。瞬時にそう判断した健斗は闇雲な回避をやめ、腕を掲げて頭をガードし、最低限の回避を挟みながら魔族兵目掛けて突っ込んだ。
闇の弾丸が鎧のところどころに着弾しチュインチュインという耳障りな音を立てた。着弾するごとに体に衝撃が走ったが鎧には傷一つついておらず、衝撃も無視できる範囲内のものだったので気にせず突き進んだ。
突っ込んだ健斗はまず初めに魔族兵隊長の頭部に突っ込んだ勢いで拳を突き出しパンチで殺害。その横で隊長が殺されてあっけにとられている魔族兵に裏拳を叩き込んだ。殴りかかってきた魔族兵の腕をつかみ、手刀で叩き切る。切断された腕を抑えて後ずさる魔族兵の胸にサイドキックを突き刺した。
「くっクソ!この!」
2人の魔族兵が苦し紛れに放ったブラックバレットを易々とはじき返し一気に懐に潜り込んでアッパーカットを放って魔族兵の首から上を吹き飛ばした。回し蹴りを放ちもう一人の魔族兵を蹴り殺す。
残った魔族兵がブラックマシンガンを放ってきたが先ほどよりも密度が明らかに薄い。そのうえ、ブラックマシンガンはよほど鍛錬していないと撃ちながら動くことができない。自分の動きを追えない敵がわざわざその場で固まってくれることはかえって好都合だった。
健斗は電撃的な勢いでジグザグに動き、攪乱して動きを決してとらえさせない。
「動きが速すぎる!」
「当たらないぞ!」
「うるさい!黙って撃て撃て!」
彼は激しく動いて射線上に立たないようにしながらゴルフボールほどの大きさのものを取り出し、5人の魔族兵が密集している地点へ目立たないように転がした。
「撃て撃て撃て!…ん?なんだこれは?」
死に物狂いでブラックマシンガンを撃っていた魔族兵の一人が、不意に足元に転がってきたものに気が付きそれに視線を向けた。
「なんだこれ」
魔族兵がいぶかしげにそう言った直後、閃光が走り轟音が鳴った。魔族兵は宙に高く舞い上げられた。その体はずたずたに引き裂かれており、ところどころが焼け焦げていた。他の魔族兵も似たようなありさまで、酷い者など体が完全に千切れていた。
「うへぇ~…すごい威力。えげつねぇ~」
≪一気に魔族の反応がなくなったね!さすが私。いい仕事するでしょ?≫
「おっかねぇやつ。こんなのポンポン作り上げるなよ。危ないなぁ」
≪フフン!≫
ジェシカ特性の小型グレネード。小型と銘打ってはいるがその威力はダイナマイト3本分ほどの破壊力があり、取り扱うときは特に注意するようにとジェシカは口酸っぱく言っていた。そう言うのも頷けるほどの威力だと、健斗はたった今理解した。
「アル。敵影なし。感覚でも敵性存在はなさそうだけど、レーダーではどうだい?」
≪こちらも確認したがしたがレーダーに敵影なし≫
「了解。じゃあ次に向かう」
≪わかった。気を付けて。通信終了≫
「通信終了」
健斗は次のターゲットへ向かう前にこの村の村長へ呼びかけた。
「近頃国が動き出し始めました。だから近々国から兵が送られてくるはずです。それまで何とか頑張ってください」
「おお!おお!わかりました!」
健斗は手を振って歓声を上げる村人たちへ別れを告げると勢いよく走りだした。
次のターゲットに向けて走っている途中、数度魔獣に襲われたがこれを易々と撃破した。健斗は目的の村へとたどり着いたとき、ある違和感に襲われた。それは道中で魔獣とエンカウントしたが魔族兵とは一切会わなかったことである。魔獣がいる場合はその近くで魔獣を制御する係がいるはずなのだが全くといっていいほど会わなかった。
さらに、いつもならいるはずの入り口を守っている魔族兵の姿が影も形のなかったことだ。それ以前に村内から魔族の気配が全くしなかった。
「おいアル。ちょっといい?」
≪ああ、君が思っている通りだ。村内には魔族の反応も魔獣の反応も無しだ≫
健斗は警戒しながら村内に入った。村内は破壊の後が見て取れたが、やはり魔族はいなかった。その代わりに村人たちが忙しそうに動き回っており、健斗は思わず警戒を解いてしまった。
訳が分からぬまま手近の村人に声をかけ、いったい誰が魔族を追い払ったのか聞いた。
「おお?!あんたももしや噂のシルバーナイトってやつですかい?」
「え、えぇ。一応は」
「ほへぇ~」
男は驚いたように口を開けまじまじと健斗の頭からつま先までじろじろと見た。それから村人は一呼吸おいてから魔族を撃退したものについて話してくれた。
いわく、その者は突然現れ瞬く間に村内で好き勝手していた魔族兵たちを手に持った燃え盛る剣とバチバチと音を立てる剣で皆殺しにして去っていったという。容姿は黒いフード付きのコートと短パンを着ており、深々とかぶっていたフードと仮面により顔はわからなかったという。それから村人は顔はわからなかったが背がそこまで高くなかったと付け加えた。
「すんません。おいらに言えるのはこんくらいでさぁ。力になれなくてすいません騎士様」
「そんな!十分です。ありがとうございました」
健斗は村人に礼を言い、せわしなく駆け回る村人たちを目じりに、煮え切らない思いのまま村から出た。




