チャプター2
「どう思う?」
健斗は空振りに終わった村から出て、すぐさま別のターゲットへと対象を変更してそちらに向かって駆けだした。彼は走りながら通信を開き、魔族兵を倒した人物への疑問をアルバートにぶつけてみた。
≪わからん。が、証言では瞬く間に殺したと言っていた。数が少ないとはいえ魔族と正面から戦って勝てる人間はあまりいない。さらに10人以上を相手にして瞬く間に殺せるものなどさらに少なくなる≫
「敵じゃなさそうじゃない?魔族だけ殺して村人には手つかずだったし」
≪現状では何とも言えん。そういうことは本人に会った時に聞けばいいさ≫
「敵だったら?」
≪君のほうが強いさ≫
そうこうしているうちにターゲットの町が見えてきた。その道中魔獣の死体と魔族の死体が点々と続いていた。十中八九村で魔族を殺した者の仕業だろう。町へ近づくにつれ死体の数はどんどん増えていた。
健斗は走るスピードをさらに上げた。町まで一気にたどり着いた健斗は哨戒を殴り殺し、一息に防壁を上り、町の中を見た。
町中は怒号と破砕音でやかましく、誰かが大勢の魔族兵相手に大立ち回りを演じていることが読み取れた。魔族兵と戦っているものが敵か味方かはまだ判断できないが、この混乱に乗じれば比較的妨害が少なく支部長を相手にできそうだった。
そうと決まれば善は急げ。健斗は防壁から飛び降り、支部長を探しに町の中を疾走した。立ちふさがる魔族兵を次々殺害しながら、通信から受けた支部長への最短ルートで一気に支部長への背後へと降り立った。
健斗は支部長がこちらに気づいて回し蹴りを撃ってくるよりも早く、その背中に飛び蹴りをめり込ませた。
飛び蹴りを受けた支部長は砲弾のごとき勢いで民家に突っ込んだ。民家が音を立てて崩れ、その中から傷だらけの支部長が憤怒の表情で歩み出た。その間にも次々と爆発が起こり、そのことが余計に支部長の怒りをあおった。
「き、貴様!貴様シルバーナイトだな!」
「そうだな。お前が支部長で間違いないな」
健斗は冷静に目の前のすでに手負いの支部長を観察し、その怪我は自分より早くこの町で魔族兵相手に戦っている者の仕業と断定した。
「貴様!シルバーナイトにまさか仲間がいたとはな。所詮群れねば我々魔族に対抗すらできない弱小種族!」
「その弱小種族にいいようにやられているお前は魔族の面汚しになるな」
「黙れええええええええええ!」
激昂した支部長は飛び上がり、回転踵落としを繰り出した。手負いとはいえ相手は支部長。凡百の魔族兵と違いその動きは手負いとは思えないほど俊敏。
シルバーナイトはバックステップで回転踵落としを回避すると間髪入れずジャンプパンチを繰り出した。支部長は側転でジャンプパンチをかわし、回し蹴りを繰り出す。
シルバーナイトは地面すれすれまで身をかがめて回し蹴りを回避し、水面蹴りを繰り出した。水面蹴りを受け体勢を崩した支部長の顎にシルバーナイトの素早いジャブが決まった。
顎から伝わった振動により脳を揺さぶられ、支部長は一時的な脳震盪に襲われた。
「グフ…何をしている!こいつをハチの巣にしてやれ!」
付近で攻撃する隙を窺っていた魔族兵が、支部長に命令を下され一斉にブラックバレットを撃ってきた。何名かがブラックマシンガンを撃ってきたのでシルバーナイトは支部長から離れざるを得なかった。
代わりにシルバーナイトは撃ってくる魔族兵に狙いを変更し、怒涛の勢いで魔族兵を殺していった。
「オォ!」
「ギャアッ!」
支部長の援護射撃をしていた最後の一人を殺し終えたところで、脳震盪から回復した支部長が手にした大剣を横なぎに打ち振るってきた。
シルバーナイトはその斬撃を上体をそらして回避。上体をそらした勢いでバク転をうって距離をとった。
「ぐわははは!食らえい!ダークムーンエッジ!」
支部長は大剣に闇をまとわせ、三日月状の衝撃波を放った。シルバーナイトは衝撃波をサイドステップでかわして一気に接近しようとしたが、三日月状の衝撃波が何度も放たれ、近づくことが非常に困難だった。
「ヌウッ!」
「どうしたシルバーナイト!来ないならこっちから行くぞ!」
衝撃波をかわし終えたシルバーナイトに支部長は踏み込んでから振り下ろし攻撃を繰り出した。シルバーナイトは振り下ろし斬擊を横に飛んでかわし、剣の側面を蹴り飛ばした。
「ぬうっ!?」
蹴り飛ばされた大剣は支部長の手を離れ放物線を描いて地面に突き立った。支部長は放物線を描いて地面に突き刺さった自分の獲物を目で追ってしまった。それが致命的な隙となった。
シルバーナイトは一瞬の隙をついて支部長の懐へもぐりこみ手刀を肩に叩き込んだ。肩甲骨粉砕破壊。
「が…あ…!」
肩を抑えて飛び離れようとする支部長の足を踏んずけ、その場に固定したシルバーナイトは支部長の顔面を殴りつけた。支部長は後ずさろうとするがシルバーナイトは決して拘束を解かない。
「ぐっ!この!」
支部長が放った苦し紛れのパンチをシルバーナイトは最小限の動作でさばき、支部長に向けて連続攻撃を叩き込んだ。腹に三打、胸に四打、そして顔面に左フックが決まった。
連続攻撃を受け、もはや抵抗する余力すらなく立っているのがやっとな支部長にシルバーナイトは足の拘束を解き、一歩下がって必殺の一撃を繰り出すためにタメを作った。
もはや彼の周囲には魔族兵はいなかった。さっき殺した魔族兵以外はすべて別の侵入者を迎え撃つために出張っているようで、それゆえにシルバーナイトは妨害されることなく安心して隙をさらすタメを行うことができた。
「アッ…アッ…」
支部長は眼前で行われる自分を殺す一撃を繰り出すためのタメを、口をパクパクさせて呆然と眺めていた。
「おおおおおおおおらああああああ!」
「ぐああああああ!」
シルバーナイトは爆発的に踏み込み強烈な両手掌打を支部長の胸に叩き込んだ。両手掌打を叩き込まれた支部長の胸は陥没し、その衝撃で心臓や重要な臓器背骨を完全に破壊した。行き場を失った衝撃が体内を蹂躙し、背中から爆発したように衝撃が突き抜け血の雨を降らせた。
支部長は口からゴボゴボと不明瞭な声を発し、仰向けに倒れた。シルバーナイトは支部長が完全に絶命したことを確認し、走り出した。
大立ち回りを演じている者と合流して一緒に魔族兵をせん滅し、あわよくば仲間に勧誘しようと考えていた。いかにシルバーナイトが強力とはいえ一人戦うには限度があり、協力者が一人でも欲しかったからである。
通りに人影はなく、その代わりに魔族兵の死体やその死体から出たであろう肉片や血液、臓物があたりに飛び散る地獄のような有様になっていた。
喧噪の音が近い。シルバーナイトは屋根から屋根へと飛び移りながら、喧噪の発生源である街の真ん中にある広間にエントリーした。
広場では村人の証言その通りの格好をした者が、魔族兵に燃え盛る剣を胴体に突き刺していた。どうやらそれが最後の一人だったようで、周囲に魔族の気配はなかった。
≪健斗。どうやら今のが最後の一人だったらしい。もうその街に魔族の反応はない≫
「マジ?全員殺せたってことか?」
≪いや、何人かは負けを悟って早々に逃げて行ったようだ≫
健斗は目の前にいる黒いコートの人物を見た。向こうもこちらに気づいたようで、両手に電気でできた剣と炎でできた剣を持ったまま、体をこちらに向けた。
しばし両者は黙ったまま見つめ合った。
健斗は声をかけようとして、後ろから話しかけられた。振り向くと町民たちが駆け寄ってきて何が起きたのか彼に尋ねてきた。
彼は町民に少し待ってほしいと言い、正面を向いて改めて話しかけようとしたが、黒コートの人物ははもうそこにはいなかった。
「げっ!逃げられた!」
≪君が振り返った瞬間ものすごい勢いで去っていくさまがレーダーに映っていたよ!≫
「おいジェシカ!わかってたなら知らせてくれよ!」
≪無茶言うなよう。あんなの教えたところで追いつけないよ≫
≪ともかく今は帰投するんだ。さすがに疲れたろう≫
「あ、ああ。そうだな」
それから健斗は町民たちに国のから軍がいずれ来ることを伝え、そそくさと帰投した。
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あたしだけが生き残った。あたしだけが死んでいない。その事実が、どうしてもあたしを責め苛む。2年も経ったっていうのに、その思いは変わらない。
わかってる。一人じゃどうにもならないことくらい。わかってる。いずれ限界が来ることくらい。あの銀の騎士は快くあたしを迎えてくれるだろうことは少し見ただけで理解できた。それでも、あたしは、他者を信頼するのが怖い。
太陽が沈み、月明かりが照らす夜に駆ける者あり。その者は次第に走る速度を落とし、足を止めた。びゅう、と強く風が吹き、その者が深くかぶっていたフードが外れ月明かりにその顔が照らされた。
黒い髪のショートヘアーで、その髪と同じ色の黒い瞳。端正な顔立ちだが、その顔は不安げに沈んでいた。
「……ハァ…」
彼女は溜息を吐いて頭を振って、それからまた走り始めた。魔族を殺すために。どうすればいいのか未だ悩んだまま、彼女は夜を駆けだした。




