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シルバーナイト!  作者: 三流
シルバーナイト ビギンズ
17/55

チャプターEX アースのお食事事情

「なージェシカよー。ちょっと料理教えてくれよ」


 健斗はキッチンで食事の用意をしているジェシカにそんな言葉をかけた。


「えー何で?」


 ジェシカはまな板の上に野菜を乗っけてザクザクと切りながら健斗に顔を向けた。


 これは過去の話。健斗がジェシカとアルバートの二人に宣言し、本格的に鍛錬を始めてだしてから半年ぐらいたった時の話。




 アースのお食事事情




「いやさ、今日の分の鍛錬終わっちまって暇なのよ。それでなんかやることないかな~って思ったわけ。そんな感じであちこちウロチョロしてたら君の姿が見えて、そういや飯のしたくジェシカにばかり任せてるな~って思って。でも俺料理なんて全然したことないから、ならいっそ教わろうかなって思ったわけでございますよ」

「ふ~ん」


 ジェシカは食材を切る手を止めて頬の手を当てて少し思案したのち、健斗に向き直り口を開いた。


「う~ん。ま、せっかくそう言ってもらったんだし、いいよ。ジェシカさんが教えてしんぜよう」

「さすがジェシカ。話が分かる」

「ふっふ~ん!感謝してよね」


 ジェシカは腰に手を当てて得意げな様子でその話を了承した。


「健斗はあんまり料理はしたことないんだね?」

「ああ。向こうにいたときは両親がいない時くらいしか料理なんてしなかったな」

「うんうん。そういう場合はとにかく回数を重ねることが大事だよ!あとそれと同じくらい重要なことは慣れないうちは変にアレンジを入れないでレシピの通りにやることが重要だよ!」


 そう言ってジェシカはごそごそとレシピが書かれてある本を取り出し、パラパラとめくって机に置いた。健斗はジェシカの横でパラパラとめくられるレシピ本を一緒になって眺めた。


「う~んそうだなぁ…。初心者でも作りやすい料理は~っと……、生姜焼き?ハンバーグ?う~ん……」


 そうつぶやくジェシカの横で、健斗はパラパラとめくられる料理本の中から目についたものを読み上げていった。


「マルゲリータピッツァ、ロールキャベツにオムライス、キノコとチキンのグリル甘辛ダレ?」


 健斗はパラパラとめくられる料理本から目に映る料理名を読み上げていく中で、ある疑問が浮かんだ。今の時代は向こうの世界で当てはめるとするならば中世くらいの時代だろうか。その時代の料理にしてはいささか近代的すぎないか?という疑問である。


「…なあジェシカ?」

「う~ん無難に肉じゃがかなぁ……ん?なぁにケント?」


 健斗に呼びかけられ、考えていたことをいったん止めて彼の方へ顔を向けた。


「あのさ、一応俺も向こうで何かしら料理を作るときにこういうレシピ本見るわけじゃない?」

「うんうん。そりゃあそうだよ。だってなくちゃあいろいろと不便だもの?それで?どうしたの?」

「その時見たレシピ本の内容とさ、今ジェシカが見てたレシピ本と内容があまり変わらないんだよね。それってなんでだろうってちょっと疑問に思ったんだ」

「え?それっておかしいことじゃなくない?だってレシピ本なんてこういうものでしょう?」

「いや。そういうわけじゃなくてさ。なんて言ったらいいんだろう。とにかくなんというかあまりにも向こうと同じすぎるっていうか何というか」

「その疑問には私が答えよう」

「おおう!?」


 いきなり背後から声を掛けられ驚いた健斗は変な声を発しながら勢いよく後ろを向いた。


「あれ?お父さんご飯はまだだよ」

「何、用事を終えてここいらを歩いていたら何やら君たちの声が聞こえてな、つい入ってきてしまったんだ」


 声の主はアルバートだった。彼はジェシカにここへ来た経緯を説明し、机に開かれているレシピ本を覗き込んだ。


「ちょっとアル!気配消して背後に立つのやめろよ!驚いたじゃないか!」

「まあまあそう怒りなさんな。それにそれくらいのことにも気が付けないとこれから先生き残れないぞ」

「ぬっ」


 健斗はアルバートへ怒りを露わにしたがアルバートにそのように窘められ、しぶしぶといった様に口をつぐんだ。


「…で?どうしてあっちの世界とこっちの世界の料理のレパートリーがおんなじなのさ?」


 健斗は若干むっとした様子で唇をとがらせてアルバートに疑問を口にした。


「特別なことは何もないさ。だってこれらのレシピは転移者がこちらの世界に持ち込んだものなのだからね」

「まじか!やっぱそうなのか!」

「そういえばお父さんが前にそんなこと言っていたような無いような」

「健斗も説明を受けている通りに我々の歴史では何度か異界より勇者を招いておる。また招かれたのではない、いわゆる野良の転移者という者がたびたびこの世界に現れ、君たちが見ているレシピ本のような物を残していったんだ」


 アルバートはそう言ってレシピ本を手に取り、二人の前に振って見せた。


「ほ~ん。通りで向こうと同じわけだ。てかなんでこんなにいろいろと詳しく書かれてあるんだ。まさか料理のプロでも連れてこられたんだろうか?」

「そこまではわからんさ。ただ、そういう知恵ある異界の人々から我々の生活は多大な影響を受けているのだ。そのおかげで私たちは熊肉のシチューが食べられるのだ」

「ああ。あれはサイコーだね。ジェシカの作る飯の中でも最高にうまいものの一つだぜ」

「いやぁ褒めたってなにも出るもんじゃないよぉお二人さん」


 ジェシカはそうは言うが、まんざらでもなさそうな顔ではにかんでいた。


「アル。もしかして影響を受けてるものって料理だけじゃないよね?」

「ああもちろんだ。彼らの持ち込んだ知識は私たちの世界を生活をだいぶ豊にしたんだよ。最も私が一番影響を受けたのは生活とかではなく私が作る武器や防具だがね」

「そんなんあったか?」

「君が一番初めに見たものだよ」

「え?それってもしか?」


 健斗はすぐにアルバートが言ったことを察した。


「え?チャリオッツナイトが?いったい何に影響を受けたってのさ」

「それはこれです!」


 健斗からの疑問にジェシカが飛び込むように割って入り、手に持っている分厚い本を机の上にドスンと置いた。


「これだよ!」

「それって…おいまじか!メカニカル・パワードじゃないか!」


 健斗はジェシカが持ってきた本を見て非常に驚愕した。それは彼も持っていたアメコミの一冊で、ロボスーツを着込んだゴツイ男が敵を虐殺しまくる痛快娯楽漫画であった。


「え!うっそ!これアメコミ入門に最適だって言われて買ってすごいハマったモンなんだよ!」

「私たちはこれに感銘を受けて、それで何とかそれに似たものが作れないか試行錯誤したもんさ。その結果生まれたのがチャリオッツナイトだが、まあこの話は今はいいか。ともかくそんな風に異界人はこの世界に結構な影響を与えているのだよ」

「だからチャリオッツナイトはあんなSF的なロボ的な外見だったんか」


 健斗は納得がいったようにポンと手をたたいた。


「転移者の多くがこの世界で向こうの世界の知恵を披露して人々を驚かせたと言われているな」

「ほへぇ~。ようやるわ」

「では私はこれにて。ジェシカ飯ができたら呼んでくれ」

「はいは~い!」


 そう言ってアルバートは手を振ってダイニングルームから出て行った。


「じゃっ気を取り直して始めよっか!」

「アイアイキャプテン」


 アルバートがダイニングルームから出るのを見届けたジェシカは手をたたいて健斗の注意を寄せてきびきびと動き出した。健斗はそれに従い彼女の指示に耳を傾けた。


「じゃあまずはね」

「あ~い」




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