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シルバーナイト!  作者: 三流
シルバーナイト ビギンズ
13/55

チャプター12

「では軽くおさらいから」


 現在健斗は作業兼作戦会議場の一角にある作戦卓の席について、アルバートの話に耳を傾けてた。ジェシカは健斗たちのすぐそばでシルバーナイトの点検を行いながらアルバートの話を聞いていた。


 作戦卓には大きな紙に大雑把に描いた魔族兵の概要とその軍の仕組みが殴り書きで書いてあり、アルバートは指示棒で話に関連した絵を示しながら話し始めた。


「魔族軍の階級は、まず君が戦った魔族兵。これが一番下で、強さもシルバーナイトを着た君には大した強さではないだろうが、それでもわれわれ人間よりずっと強い。次いでその魔族兵の部隊をまとめる役目の魔族兵隊長。少数とはいえ部下を束ねるのだからそれなりの強さを持ってはいるが、君からすれば通常の魔族兵に毛が生えた程度にしか感じんだろう」

「まあ、そうね」

「で、これが今日君に相手をしてもらう予定の支部長だ」


 アルバートは魔族兵と魔族兵隊長の横に大きく書いてある絵に指示棒で示した。そこには魔族兵と魔族兵隊長よりも面構えが凶悪な魔族の絵が描いてあった。


「こいつは君が戦った魔族兵やその隊長とは比較にならん戦闘能力を持っている。そのうえ身体能力も通常の魔族のざっと五倍くらいはある。その身体能力が研ぎ澄まされた身体強化武器強化、魔法強化を使ってさらに底上げされる。いくら君がシルバーナイトを着ているとはいえ、彼らの攻撃を食らったらただではすまんぞ。注意しろ」

「魔族隊長の五倍……、ちょっと想像できないな」

「最低五倍だ。支部長の戦闘力はピンキリだ。魔族兵隊長より少し強いくらいの者もいればそれこそ幹部に比肩しうる強者もいる。一概に強さを語れるものではないな」

「幹部……」

「そう、幹部だ」


 アルバートは支部長の横に書いてある支部長の絵よりのさらに大きく書かれている四人の魔族の絵を指示棒で示した。


「幹部は今話した支部長と隔絶した強さを持つ者がなる。魔王を除く魔賊軍でトップの実力を持つ魔族たちだ。幹部は今のところ四人いて、それぞれ占領した四国に身を置いて暴虐の限りを尽くしている」

「ぬ?四人?じゃあもしアイフ王国が占領されちまったら?」

「そこに新たに選抜した幹部が身を置くことだろう。とは言っても幹部クラスの者などさしもの魔族でも早々育つものではない、と考えておる。それに、まさか君が敗北するとでも?」

「まさか!そんなことに絶対させないとも!誓って」


 アルバートはうなずき、書いてある幹部の四つの絵に指示棒を戻した。


「幹部は四人。いずれも人間が比較すらできない強者ばかり。まずは一番端っこのがマスターフレイム、通称獄炎のフィーアじゃ」

「マスターフレイム?」

「そうだ。彼らは魔王直々にその者にちなんだマスターの名を与えられておる。フィーアは闇魔法と炎魔法が得意と聞く。奴らは当たり前のように複数属性を持っている。異名の獄炎もそこからだろう」


 そこでアルバートは口を閉じ、そういえばといったように顎に手をやった。


「ケント。そういえば君に魔法は基本的には一人一属性ってこと言ったことあったかな?」

「いんや、聞いてねえな」

「わかった。じゃあ簡単にいこう。魔法というスキルは基本的に一人一つだ。その理由は複数持っていたって使いこなすことが難しいからだ。複数持っているものは才能があるか、もしくは死ぬほど努力しているかのどちらかだな」

「ほーん………、てかさ、今までずっと疑問だったんだけど、スキルって何なんだ?」

「スキルとはその者の持つ才能や努力が形を成して現れたものだ。はるか昔はそれを知るのに非常に苦労したというが、今では先人たちが苦労して作り上げたステータスカードを見ればすぐに知ることができるのだ」

「ほへ~………」


 健斗はそう言って、自分のステータスカードをポケットから取り出し、改めてそこに書かれてある内容を見た。


 名:ウエイ ケント

 性別:男

 年齢18


 スキル 

 なし


 備考:訓練された戦士 シルバーナイト 


「なんも変わってね~……。つーかこの備考って何なんだよ!腹立つな~!」

「そのステータスカードは身分証の役割を持つから、まあ先人たちが持ち主のことを読み取ってどういう人物か簡潔にわかるようにしたんじゃろうて」

「てか才能とかは知らんけど努力が形を成したものってえなら身体強化の一つでも発現するもんじゃねぇのかよ!」

「私もそこは疑問に思ったのだが……。もしかしたらスキルというものはこの世界者だけが発現するのかもしれない」

「エッ!?それじゃもしかして?」

「うむ。君と一緒に召喚された者らはスキルを持っていることを鑑みるに……、もしかしたらこちらに召喚される際、こちらに合わせるように体が作り替えられたのかもしれんな。そして君は何でかはわからんが一切作り替えられなかった。だからいくら頑張ったとしてもスキルは得られない。こちらの人間ではないからな」

「バカナー!」


 健斗は頭を抱えて机に突っ伏した。


「まあそんなに気に病むことはないよ。だって今の君はスキルよりもすごいもの身に着けてんじゃん。気にするなって」

「そうじゃそうじゃ。スキルなど気にすることはない。君にはシルバーがある!」


 ジェシカは慰めるように健斗の肩に手を置き、アルバートは励ますようにそう言った。ちなみにアルバートとジェシカのステータスカードの内容はというと……。



 名:アルバート・グランドマン 

 性別:男

 年齢54


 スキル

 魔法:炎・土 魔法耐性 身体強化 剣術強化 身体防御強化 鑑定 痛覚遮断


 備考:歴戦の戦士 チャリオッツナイト 優れた鍛冶師 折れた英雄 復讐者



 名:ジェシカ・グランドマン

 性別:女

 年齢16


 スキル

 魔法:炎・土 回復 魔法耐性 身体強化 身体防御強化 魔術強化 鑑定


 備考:優れた鍛冶師 類稀なる鍛冶の才能


「おめーら俺のこと馬鹿にしてんだろ!当たり前のように複数属性持ちやがってよー!何が歴戦の戦士だ!何が類稀なる鍛冶の才能だバカヤロー!」




 閑話休題




「で、この二番目のこいつがマスターアクア。水泡のマリーネだ」


 アルバートは幹部の二番目に書かれている絵に指揮棒を当てた。


「こいつは幹部の紅一点で、得意魔法は闇と水じゃ。戦う際はあでやかな見た目に惑わされないようにの」

「どんな容姿かもわからん相手に惑わされるもくそもないだろ。そもそも相対するのはまだ先でしょ」

「どうだかな」


 アルバートはそう呟いてマリーネの横に書いてある影のように書かれている絵を示した。


「こいつはマスターシャドウ。残念だがコイツことはそれだけしかわかっておらん。本名さえもだ」

「マジ?どういうカッコしてんのとかも?」

「ああまるで分っておらん。一つだけわかっているのは影を使うってことくらいだ。マスターシャドウなんて名をしているのだからな」


 そしてアルバートは幹部の最後の一人を紹介しようとして、表情が一変した。まるで能面のような無表情となった。彼はいったん押し黙り、まるで感情が爆発しないよう抑え込めるように深々と息を吸いこみ、長く吐いてから最後の幹部の絵を示した。


「こいつが……、この男はパワーマスター、暴虐の、ヴィオテラー、だ……!」


 アルバートは言葉を荒げないよう何とか努力していたが、最後の最後で彼がため込んでいた怒りが、憎悪の一端が漏れた。


 背中が粟立った。冷汗が止めどなく出てくる。健斗は何度かアルバートが昔チャリオッツナイトを着て活動してい時のことを聞いたことがあった。過去の栄光の話。幹部を三人も倒したという勇ましい武勇伝を。わかっていたことだ。アルバートは今と違って魔族が毎日と攻めてくる中、たった一人で立ち向かっていった底なしの修羅だということも。


 今、健斗は修羅の一端を垣間見た気がした。想像ができないほどの地獄のような戦場で戦い抜いて、そしていかにして敗北したのかということも。


「あ、アル。もしかして……そいつが?そいつがアルを」

「ハァーッ………そうだ。パワーマスター。ヴィオテラー。私はそいつに叩き潰され、戦えない体にされた」


 アルバートは立ち上がり、うろうろと行ったり来たりしながら独り言のようにつぶやいた。


「あの頃の私は家族を殺された復讐のためにただただ魔族を殺すことしか頭になかった。自分が無敵だと思い込んでいた。若かった。復讐に目が曇っていた。幹部三人を屠ったことで、私は増上慢になっていたのだ。だから私は、いや、だからこそ私は戦えない体にされたのだろうな。引き際を、見極められなんだ……。そのせいで、国が、人々が苦しむことになってしまった」


 アルバートは重々しい溜息を吐きながら座り込んだ。健斗は何も発さなかった。発せなかった。自分のような薄っぺらい男が目の前で自責に苦しむ戦士に何か励ましの言葉を投げかけるにはあまりにも重かった。


「でもお父さんは私を救ってくれたよ。負けちゃって、ボロボロで何とか体を動かすので手いっぱいで、拠点に帰ることしかできなかったのに、私を拾って、助けてくれた」


 ジェシカがアルバートの手を握り、そう言った。


「お父さんは戦えない体になったよ。それでもお父さんはあきらめないで準備を進めた。計画を練り、どこでもジャンプできるようにマーカーを付けた。まだ残っていた国に武器を届けた」


 ジェシカは父の目を見ながらやさしく微笑んだ。


「お父さんはあきらめなかった。形こそ違うけど、今だって戦ってる。あがいてる。それに今はケントがいるんだよ!折れちゃだめだよ!」


 娘の言葉に、アルバートは眉間のしわを緩め、気持ちを切り替えるように頬を張った。


「ははは、すまないなケント、ジェシカ。少々取り乱してしまった」

「まさか!謝ることないさ」

「そうそう。謝るくらいならさっさと話し進めちゃお!今日はケント長丁場になるんだからね!」

「あいわかった」


 アルバートはうなずいて指揮棒を握り直し、宿敵が描かれてある絵を示した。


「ヴィオテラー。パワーマスターの名が示す通りすさまじいパワーを持っている。それに身体強化と闇魔法での強化が加わり信じられないほど脅威的な力を発する。そのパワーだけでこいつは幹部の頂点に君臨している」

「そんなの相手にアルは戦っていたのか……。勝てるかなぁ」

「そんなことはやってみなければわからんさ。もしかしたら勇者ではなく君がこいつを倒してしまうかも?」

「無茶言うな」

「さてえらく長くなってしまったが、おさらいはこれで終了だ。さあ魔法陣へ。ケントを跳ばすぞ」


 三人は立ち上がり、速足で魔法陣前へと向かった。


「え~と今回は村解放して、そのまま町の解放だっけ?」

「そうだ。初の長丁場だが、君なら大丈夫だろう」


 健斗は今回の目的を口に出して確認して、アルバートはそれに答えた。


「準備オッケー!いつでも跳ばせるよ!」

「わかった!とっとと跳ばせい!」

「ケント!長丁場になるぞ!気を抜かないようにな!」


 健斗は光に包まれて、転送されていった。











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