序章:はじまらざりし
帝都の秋は、黄金をしている。
世界で最も美しい景観の街をと願った、先代皇帝によって配された街路樹は、秋に、最もその願いに近付いた。
石造りの豊かな家々の軒先に掲げられた、色とりどりの洗濯物、商家の旗。
透き通るような青い蒼い空。
それらを背景に、ふわりと広がる黄金に燃えた街路樹の葉達。
風が吹くたびに、金色の葉が舞い上がり、赤茶色の石畳の上に、柔らかな音を立てて降り積もる。
故に帝都の秋は、その天も地も、黄金によって麗しく飾られる。
その黄金の街を、煌びやかな濃紺色の外套を纏った銃士達が駆けて行く。
「今日は駄目だ!今日だけは、何としても残業はナシだぜ!」
「ホントにな!見回り急いで済ませるぞ!」
焦ったような声とは裏腹に、彼等の表情は明るい。
「今日は定時で帰らせないと、隊長、マジでブチ切れるぞ!」
明るい笑い声に、あらまぁ、と通りすがりの婦人が振り向いた。
「隊長さん、今日はお急ぎなの?私、後で相談があったんだけど……」
それに、慌てて青年達は立ち止まてから、ええと、と互いに顔を見合わせる。
「あの、隊長じゃなくても良いなら俺達が後で聞きます!」
「隊長、今日、結婚一周年なんですよぉ!」
「早く帰らないと奥さんの料理が冷める、花屋が閉まる、って、三日前から凄い急いで仕事してるもんだから……」
「まぁ!それなら明日で全然いいわ。おめでとうって伝えておいて」
頬を抑えて笑う婦人に、はぁい、と青年達は手を振って、再び黄金の中を走り出した。
「大通り問題なし!」
「帝城周辺も問題なし!」
走り抜ける帝都の秋は、かつての皇帝が願った通りに美しく、そして、穏やかだった。
世界は平和で満ち足りている。
帝都を守る銃士隊は、迷子の子供や、街路樹に登って降りられなくなった猫の為に存在するのだ。
「隊長、見回り終わりました!」
「片付けしとくんで帰って下さい!」
詰所に駆け込む隊員達に、驚いて書類から顔を上げた隊長は、それから、困ったように眉尻を下げて。
「アリスティド、迎えに来ちゃった」
息を切らせる部下の背後から顔を覗かせた最愛の声に、更に困った顔で、笑うのだった。
神は既におらずとも。
勇者達が守り通した世界は、遂に平和に辿り着く。




