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女神の箱庭  作者: 空野 氷菓
appendix
37/37

序章:はじまらざりし


 帝都の秋は、黄金をしている。


 世界で最も美しい景観の街をと願った、先代皇帝によって配された街路樹は、秋に、最もその願いに近付いた。


 石造りの豊かな家々の軒先に掲げられた、色とりどりの洗濯物、商家の旗。

 透き通るような青い蒼い空。


 それらを背景に、ふわりと広がる黄金に燃えた街路樹の葉達。


 風が吹くたびに、金色の葉が舞い上がり、赤茶色の石畳の上に、柔らかな音を立てて降り積もる。


 故に帝都の秋は、その天も地も、黄金によって麗しく飾られる。


 その黄金の街を、煌びやかな濃紺色の外套を纏った銃士達が駆けて行く。


 「今日は駄目だ!今日だけは、何としても残業はナシだぜ!」


 「ホントにな!見回り急いで済ませるぞ!」


 焦ったような声とは裏腹に、彼等の表情は明るい。


 「今日は定時で帰らせないと、隊長、マジでブチ切れるぞ!」


 明るい笑い声に、あらまぁ、と通りすがりの婦人が振り向いた。


 「隊長さん、今日はお急ぎなの?私、後で相談があったんだけど……」


 それに、慌てて青年達は立ち止まてから、ええと、と互いに顔を見合わせる。


 「あの、隊長じゃなくても良いなら俺達が後で聞きます!」


 「隊長、今日、結婚一周年なんですよぉ!」


 「早く帰らないと奥さんの料理が冷める、花屋が閉まる、って、三日前から凄い急いで仕事してるもんだから……」


 「まぁ!それなら明日で全然いいわ。おめでとうって伝えておいて」


 頬を抑えて笑う婦人に、はぁい、と青年達は手を振って、再び黄金の中を走り出した。


 「大通り問題なし!」


 「帝城周辺も問題なし!」


 走り抜ける帝都の秋は、かつての皇帝が願った通りに美しく、そして、穏やかだった。


 世界は平和で満ち足りている。


 帝都を守る銃士隊は、迷子の子供や、街路樹に登って降りられなくなった猫の為に存在するのだ。


 「隊長、見回り終わりました!」


 「片付けしとくんで帰って下さい!」


 詰所に駆け込む隊員達に、驚いて書類から顔を上げた隊長は、それから、困ったように眉尻を下げて。



 「アリスティド、迎えに来ちゃった」



 息を切らせる部下の背後から顔を覗かせた最愛の声に、更に困った顔で、笑うのだった。


 神は既におらずとも。

 勇者達が守り通した世界は、遂に平和に辿り着く。


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