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エルフの旦那と変わった従業員  作者: さつき けい


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四日目の夜・発熱


「はあー、美味しかった」


ハートの重苦しい気持ちを察したのか、何の考えもないのか、タミリアが明るい声を上げる。


「やっぱ肉よね!」


ギードは幸せそうにお腹を摩る妻を笑顔で見ながら、後片付けを始める。


 海獣の肉は今までタミリアが食べてきた肉の中では、そんなに上位の物ではない。


おそらく魚ばかり続いたことと、以前の記憶を失っていることが彼女を満足させたのだろうとギードは思った。

 


  

がたっ。


食後のお茶を飲んでいたタミリアがカップを倒す。


「タミリアさん、大丈夫ですか?」


ハートが不思議そうにタミリアの顔を覗き込む。


「ん?」


片づけを終えたギードが振り向くと、タミリアが食卓に顔を突っ伏していた。


「タミリアさん、タミリアさん」


ハートがタミリアの身体をすっている。


「タミちゃん!」


ギードが慌てて近寄り、その手を握る。


「熱い」


ハートもタミリアの額に手を当てた。


「熱がありますね」

  



 ギードはハートと頷き合う。


ハートはタミリアの寝室へ入って寝台を整え、ギードはタミリアを抱え上げて運んだ。

 

 タミリアを寝台に横たえて毛布を掛ける。


「一体いつからでしょう。 具合が悪い様子は見られなかったのに」


ハートは狼狽うろたえ、ギードはあごに手を当てて考え込んでいた。


 タミリアはちゃんと意識はあるようで、


「だいじょーぶー」


と、ほんのりと赤い顔で辛そうに声を出す。


「無理しないでください。 何か欲しいものありますか?。 お水持ってきましょうか」


ハートが甲斐甲斐しく世話を焼こうとする。




 ハートがタミリアの額に乗せようと冷たい水で絞った布を持って部屋に戻ると、ギードはただタミリアの手を握っていた。


「ギードさん、何か病気を治す魔法とかないんですか?」


ハートが少しギードを責めるように言うと、


「魔法で何でも出来るわけじゃないですよ」


とギードは困った顔をする。


病気でも怪我でも、原因がわからなければ正しい対処は難しい。


「でもこれはー」


「何か、わかったんですか?」


「ええ、おそらく」


ギードは苦笑いを浮かべていた。


「申し訳ありませんが、今夜は自分が付き添いますので、ハートさんはもう休んでください」


ギードはいつもの笑顔でハートを部屋から追い出す。


「あ、え?」


ハートはいぶかしく思いながらも、ギードならタミリアに優しいことは知っているので引き下がる。


「何かあったら呼んでくださいね」


扉の向こうのハートの声はギードの耳には届かなかった。




「さて」


ギードは窓を開け、タミリアが寝ている寝台の位置を少し動かす。


家具や壁を傷つけないように部屋の中に結界を貼り、タミリアの側へ戻る。


「タミちゃん」


ギードは妻の顔を覗き込み、タミリアは返事の代わりに熱で虚ろになった目でじっと夫の顔を見ている。


「自分はこれから魔法を使う。 タミちゃんは眠ってしまうし、何が起きても夢の中のことだから心配いらないよ」


闇属性のハイエルフであるギードの周りから闇が生まれ、枕もとの淡い光さえ包み込んで暗闇に沈む。


「目が覚めたら熱も下がってて、気分も良くなっているはずだからね」


闇の中にギードの低く豊かな声が流れ、子守唄のようにタミリアの眠気を誘う。


ギードはタミリアから寝息が聞こえるまでじっと待った。




 やがて、ギードは片手でタミリアの手をしっかりと握る。


そしてゆっくりとタミリアの顔の横に空いている片手を置き、顔を近づけた。


熱に浮かされた唇に自分の唇を合わせ、ギードはゆっくりとタミリアの体内の魔力を循環させ始める。


 ギードはタミリアから溜まり過ぎている魔力を吸い上げる。


夫婦である二人は長い間にお互いの魔力を馴染ませ、拒否反応は出ないようになった。


でも今はタミリアの記憶がない。


「んー?」


自分の身体の異変に気付いたタミリアが薄っすらと目を開け、その胡乱うろんな気配を察知する。


「……んーー!」


大きく目を見開いて、闇の中で自分の唇に感触を感じて身体をよじる。


ギードが身を隠す。 その一瞬後に、タミリアから魔力が放出された。


「いぃーーーやぁーー」


ばんっ。


大きな音と共に家が震えるように揺れた。




 風呂場で身体を拭いていたハートが床に座り込む。


「な、なにっ。 地震?」


まだ濡れた身体に大きな布を巻いたハートが風呂場から飛び出し、家の中を見回すが何かが落ちたような気配はない。


しかし、窓の外には大きな異変があった。


「なにあれ」


タミリアの部屋の窓から、雑木林に向かって一直線に何かが通ったような跡が続いていたのだ。


「ギードさん、外がー」


ハートは慌ててタミリアの部屋の扉を開ける。




 明るいはずのタミリアの部屋は闇の中だった。


「ギードさんっ、タミリアさんっ」


ハートはふたりの名前を呼びながら明かりを探しているが見つからない。


「ああ、大丈夫ですよ。 今、明かりを付けます」


ギードの声がして、部屋に明るさが戻る。


 何故か少し疲れた顔のギードが、窓の下に座り込んでいた。


「あの、本当に大丈夫ですか」


ハートの言葉にギードが微笑む。


「ええ、あの通り。 静かに眠っていますよ」


寝台のタミリアはすぅすぅと寝息をたてている。 その顔はさっきまで熱にうなされていたとは思えないほど健康そうだ。 


「熱は下がったんですね。 って、そうじゃなくて!」


ハートはギードの側へ駆け寄る。


「一体どうしたんですか?」




 ギードはよろよろと立ち上がり、窓を閉めた。


「あれ、あの林の中。 何があったんですか」


外を指さして質問を繰り返すハートを、ギードは片手を上げて止めさせる。


「タミリアの魔力を放出させただけです」


一言そう言って、ギードはハートの姿を見た。


「えっと、その。 説明しますから、先に服を着てください」


「はい?、あああああ」


きゃあと男性にしては高い声を出しながらハートは自分の部屋へ飛び込んで行った。




 ギードはタミリアの様子を確認して、静かに部屋を出た。


お茶を入れ、食卓の椅子に座っていると、赤い顔をしたハートが戻って来た。


「すみません。 大変お見苦しい姿を」


「いえいえ、気にしませんよ」


ギードはそう言ってハートにもお茶を勧めた。


「こちらこそ、驚かせてしまいました。 魔法を使うことを説明すべきでしたね」


結界は張っていたが、家が揺れるほどとは思わなかった。


(それだけタミリアの中の魔力が溜まっていたということか)


今回、ギードは無理矢理にタミリアの身体から魔力を放出させた。


ハートが落ち着いたところを見計らって、今回のタミリアの症状を説明し始める。



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