表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフの旦那と変わった従業員  作者: さつき けい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/81

四日目の夕方・誤解


  タミリアは余程お肉が楽しみなのか、さっさと先を歩いて行く。


「ギードさ、ちゃん、早くー」


少し顔を赤らめて振り返る。


ギードは笑顔でそれに答えながら、ハートと二人で後を歩いていた。


「まるで子供みたいですね」


ハートも釣られて笑ってしまう。




 借家に着くとすぐにギードは調理を始める。


タミリアはすでに食卓に座って待っている。まるで、ギードの後ろ姿を見張っているようだ。


ハートはお茶の用意をして、タミリアの隣に座った。


「そういえば、昨夜は楽しかった?」


ギードは背後を振り返らずに話かける。


「うん」


タミリアの答えは簡潔だ。


「ええ、楽しかったですよ。 お料理も美味しかったです。 ありがとうございました」


ハートは食事を用意してくれたギードにお礼を忘れない。


「サナリさんも驚いていました」


ギードは楽し気なハートの話を聞きつつも手は休めずに、肉を切り、調味料をまぶす。




 やがて肉の焼ける匂いと音が部屋に充満する。


ほぉーとタミリアが歓喜の声を上げてくんくんと匂いを嗅いでいる。


子供たちがいれば「お行儀が悪い」とたしなめられる態度だが、


(ま、今はいいか)


と、ギードは大目に見ることにした。


「はい。 お待たせ」


タミリアがすぐに肉にかぶりつくだろうことは予想出来ていたので、肉は一口大に切り分けられている。


「はふはふ、うぐうぐ」


「そんなに慌てなくても誰も取らないよ」


ギードは食い意地のはった妻がのどを詰まらせないように注意する。




 すでにギードは次の調理にかかっている。


鍋に水を入れてスープを作っているところだ。


家庭の調理器具は火をかけるところが一ヶ所しかないため、焼きや煮炊きは一度に一品しかできない。


いつもならスープを先に作り、あとで焼きものにするところだが、今日は見張りがいたので肉が先になった。


「ハートさんも遠慮なく先に食べてください」


ギードの言葉に、若干タミリアの食欲に引いていたハートが動き出す。




「いただきます」


ハートが肉の乗った皿を目の前にして手を合わせる。


そして、あっと小さく声を出した。


「どうかしましたか?」


ギードは何か料理に不手際があったかと振り向いた。


「あ、いえ。 私、いつも食事のときに手を合わせたり呪文みたいなことを言うので、気味悪がられてるんじゃないかと思って」


最近は気をつけていたのだが、ここは人目があまりないので油断してしまった。


「ああ、そんなことでしたか」


ギードは鍋をかき混ぜながら微笑む。


「それ、おそらく宗教的なものでしょ?」


「そ、そうですね。 でももう習慣になってて」


記憶を失くしているハートにとってはっきりとは答えられないものだが、それでも宗教由来であることは何となくわかった。


ギードはあっさりとしたスープを配り、自分の分の料理を食卓に並べて座る。


 そして、手を組んでゆっくりと祈りの言葉を口にした。


「え?」


低く豊かな声量が部屋に響く。


「自分もたまに神に感謝の言葉を捧げたりします。 それと変わらないでしょう」


滅多にない大物が獲れたり、家族や国の記念日などで食卓が豪華な時は祈りの言葉を口にするそうだ。


「そ、そうだったんですね」


ハートはほっとすると同時に昨夜のことを思い出した。



◆ ◆ ◆



 昨夜の食事の時に犬の獣人であるサナリが


「ハートさんは変わってるのよ」


と言う話をした。


「どこが変わってるの?」


黒髪と黒い瞳は、人族でも獣人族でもあまり目立つ色ではない。 タミリアには種族以外の違いがわからなかった。


「常識がないというか。 例えば、そう!、蜂蜜で石鹸作っちゃったり」


タミリアはますます首を傾げる。


「蜂蜜石鹸は王都にもあるけど?」


「え?」


自分の話題に困った顔をしていたハートだけでなく、サナリも目を見張って驚いている。


「あるんですか?、蜂蜜を使った石鹸」


「うん。 普通に売ってる。 薬草入りとか花の香入りなんかもある。 まあ、買うのはお金持ちだけだけど」


「この町では珍しがられたんでー」


ハートは自分で苦労して作ったものだったので、それが普通だと言われて複雑な気分になってしまう。


「獣人さんたちって鼻が良過ぎるでしょ?。 だからこの町には今まで無かったんじゃないかな」


人族には良い香りでも獣人にはきつかったりする。


「あー、人族の町と獣人だけの町での違いかー」


ハートがしょげてしまったのを見て、サナリは元気づけるように話を続けた。




「他にも学校っていう話も初めて聞いたしー」


「学校は普通でしょ?」


タミリアはそれがどうしたの、と聞いて来る。


「村や小さな町には無いけど、王都とかそこそこの規模の町ならあるわよ」


王都には兵士の学校や、魔術師の学校もある。


「あ、じゃあじゃあ、指輪を紐でー」


「もういいですよ、サナリさん」


必死に言い募るサナリを止め、ハートは恥じ入るように笑った。


記憶を失っているタミリアでも知っていることなのだから、きっと普通のことに間違いない。


「そうですよね。 こんな小さな町で珍しがられたくらいで舞い上がって、恥ずかしいです」


王都には色々な所から様々な者が集まって来るので、もっと変わった物がいっぱいある。


そんな話をタミリアから聞きながら、ハートは王都や他の町にも行ってみたいと思った。



◆ ◆ ◆



 ハートは昨夜の食事会でそんな会話があったことを思い出し、ギードに伝えた。


ギードは肉を味見程度に二、三切れ食べた後、その残りをタミリアの皿の横に置いた。


「なるほど。 ハクローさんから、あなたは『常識知らずなところがある』とは聞いていましたが」


特に問題は無いような気がする。


ギードにしてみれば、もっと常識外れな者を何人も知っている。


それに比べればハートは素直な好青年だと思う。


「あ、でもー」


ハートは迷うように視線が揺れる。 ギードはその様子を黙って見ていた。


決心がついたのか、顔を上げたハートはギードとタミリアの顔を交互に見ながら話始めた。




「この町の神殿には『女神』様と、その代理で住人に言葉を伝える役目をしているエルフ様がいるのですが」


タミリアはギードの分の肉も頬張りながら聞いている。


「私はその方々に『どうやら違う世界から来たらしい』と言われていたのです」


「へー」


ギードもタミリアもあまり驚いた様子はない。


それはあまりにも実感の沸かない、突拍子もない内容だったせいだ。


「でもきっと何かの間違いだったんですね」


ハートは自分が特別ではないのだと聞いて、少し笑っていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ