第2話
店と工房の再建は保険が下りる事になっていたので、時間さえあれば問題はなかった。
だが、問題はその時間だ。コンクールの予選会まで残り一週間を切っていた。
「コンクールまで日にちがない。今から作ってももう間に合わない」
ウィルスが言うのに、リットは食卓に肘をつきながら口を開く。
「火をつけたのって、絶対ジョバンニだと思うんだけど」
リットに、ウィルスは肩を下げた。
「証拠がない。ジョバンニがやってっていう証拠が」
「……本当に、どこまでも汚いヤツ!!」
憤慨して言うリットに、ウィルスは力なく笑った。
「どんなに汚いことをしても、証拠がなければ警備隊は動かない。それに、ジョバンニの背後には王室がついている。滅多な事では捜査されないさ」
リットはそこで、思い出したように短く声を上げた。
「そういえばさ、ジョバンニに珍しく悪い噂が立ってるんだ」
そこで目を輝かすリットは、獲物のしっぽを捕らえたとでも言うように口調を弾ませた。
「アーティクトの元店員からの情報なんだけど、ジョバンニのやつ、王室への経費を水増ししてるっていう噂。経理をやってた店員だから間違いないと思うよ」
ウィルスは口端をひきつらせる。
「一体どこからそんな噂……」
「ふふん、あたしの情報網を甘く見ないで。これでも街中のショップの店員間にはネットワークがあるんだから」
得意げにリットが人差し指で宙に描く。ウィルスは顎下に手をあててふむと頷いた。
「それなら……何かあった時役に立つかも」
「ん? 何か言った?」
「いや、何も」
ウィルスのいつもの笑顔に押し通され、リットはさして気にすることもなく話題を変えた。
「んで、コンクールは……残ったおもちゃでなんとかならないの?」
「予選は通るかもしれないけど、本選を通過出来る自信がない」
そして溜息をつくウィルスに、リットも同じように息を吐く。
「じゃあ……コンクール、諦める? また四年後を待つ?」
「…………」
コンクールの記事を見つめる。賞金うんぬんよりも、今は職人としての意地が騒いだ。なんとかならないか……
その時、ウィルスの眼に飛び込んできたものがあった。それを手に取る。リットはまさかと思ったが、一応尋ねてみた。
「ね、ねぇ……それを出すの?」
それは相変わらずいつものように微笑んでいる。丸い黒目と目があった。ウィルスは瞳に力を宿して頷いた。
「うん、テディ、君にがんばってもらおう」
その時のテディの心境といったら言わずもがな、だが、傍から見ればいつも通り普通のくまのぬいぐるみなので二人には分からない。
「本当に……そのぬいぐるみで大丈夫なの? ぬいぐるみくらいならまた新しく作る時間あるんじゃないの?」
「いや、テディは僕の魂を込めて作った作品なんだ。こんな作品二度と出来ないさ」
食卓の真ん中に置かれたテディは二人の視線を浴びながらも微笑み続けた。若干微笑みが引きつっていたが二人の目には分からない。
「で、予選会場にはあと何が必要なの?」
「うーんと、エントリー用紙だなぁ……燃えちゃったからもう一度書かないと。用紙もおもちゃ協会に取りにいかないとなぁ」
「予選、無事に通るといいんだけどねぇ……」
テディを見つめながら、リットは呟いた。




