第1話
テディは眠たげな目を擦りながら身を起こした。
なんだろう……胸騒ぎがする。嫌な予感がする。
と、その時。
テディの耳におもちゃ達の悲鳴が聞こえた。同時に、焦げた臭いも。
テディはただ事じゃないと思い、急いでウィルスの頬を叩いて起こした。
「! これは……」
ウィルスは真剣な顔つきになって瞬時に気配を窺うと、テディを腕の中にいれてからベッドから飛び降りて、一目散に階段を駆け下りた。
そして、自宅のドアを開ける。
そこには、炎がちらつく店と工房があった。
「火?! どうして……!」
ウィルスが工房の中を覗くと、シンナーに引火してもう熱波で入れないような状態だった。
テディを地面に置き、ウィルスはバケツを持って急いで井戸に走った。そして、繰り返し水をかけるが、もうどうにもならない。自力で逃げ出したおもちゃ達とテディはその火柱を見ていることしか出来なかった。
街の消防団が来て消火にあたった時には、店も工房もほぼ全焼していた。自宅だけがなんとか火の手から逃れていた。
「僕がもっと早くに気づいていれば……」
ウィルスは己の勘の鈍りようを悔やんだ。だが、起きた時、気配があったのは覚えている。三人ほどの気配……しかしそれを言ったところで直に見ていないし、警備隊に実は本職が盗賊だったとも言えるはずもなく、悄然と肩を落とすだけだった。
深夜の騒ぎを聞いてリットも駆けつけてきた。急いで服を着替えてここに来たのだろう、髪は普段おさげに結っているのと違って一括りにされていた。
「ウィルス! 怪我はない?!」
「あぁ……僕に怪我はないよ」
それでもウィルスの声のトーンはこの世の終わりとも思える低さだった。
「お店も……工房も、ダメだったの?」
「うん……それに、おもちゃ達も」
ペンキを塗っていたのが災いした。大半のおもちゃが逃げ遅れて火の中に散って行った。残ったおもちゃはテディを入れて半分もない。
「あ……まさかコンクール用のおもちゃも……?!」
リットは口に手を当てた。ウィルスは首をゆっくり縦に振る。
「全部燃えた」