プロローグ
プロローグ
からから……と木製の引き戸を動かす音が、まだ冬の寒さを残した廊下に響く。
職員室と書かれたプレートの扉から、一人の少女が出てきて、中に向かって深々と頭を下げた。
「失礼しました……」
そういって、扉を閉めると、彼女は困ったようにため息をひとつ。いつもは日溜りのような明るさを湛えているのだが、
今の彼女には、温厚に笑っていれるほどの精神的余裕は、それほどなかったのである。
「ひな、どうだったんだ?」
と、そんな彼女に向かって声がかかった。ひな、と呼ばれた少女が振り向くと、そちらには彼女の幼馴染が二人。
見知った顔を見て安心したのか、それとも緊張の糸が切れたのか、ひな、という名の少女の涙腺が決壊したのは次の瞬間である。
だば~、と、漫画のような目の幅サイズの涙を流し始めた少女は、二人の幼馴染に駆け寄りながら泣き出し始めたのである。
「ちえちゃん~、鷹くん~、どうしよう~」
「ひ、ひな!? おのれ、あのくそ教師、ひなを泣かせやがって、許せん!」
「おちつけ馬鹿ひろ。ま、その様子だと、おおむね予想通りといったところだったようだな。よしよし、泣くんじゃないぞー、ひな」
幼馴染の一人が、職員室に拳をふるって殴りこもうとする、もう一人の襟首を掴んで止めながら、泣きじゃくる、ひな、という女の子の頭をなでる。
片方は、襟首がしまったショックでおとなしくなり、もう一人の泣きじゃくっていた方も、落ち着いたのか、大泣きするのはやめたようである。
とはいえ、それで事態が好転したわけでは、これっぽっちもなかったのであるが。
涙は止まり始めたとはいえ、まだぐずった様子のひなという女の子は、幼馴染に頭をなでられながら、涙目で相手を見上げる。
「ねえ、どうしよう、ちえちゃん……このままじゃ」
「まあ、今はどうしようもないだろ。今から動いたところで、効果があるとは思えないしな」
その目は、廊下の窓の外に向けられていた。薄曇、雪でも降りそうな空模様は、冬の景色の一部を切り取ったもの。
暦の上では、2月にあたる昨今は、まだまだ春の足音は遠く、肌寒さが勝っていたのであった。
「動くのは、来年の春からだろ。それまでに、少し調べておかなきゃいけないやつもいるしな」
「?」
「ああ、ひなは気にしなくていいことだぞ」
何のことだろう、と首をかしげる、ひなという少女の頭を、幼馴染は優しくなでる、と、
「せ、せめて一太刀……」
まだ、気絶していなかったのか、襟首を引っ付かれたまま大人しくなっていたもう一人が、再び動き出したのであった。
「だから、止めろと言っただろう馬鹿ひろ。暴力沙汰にするつもりか」
「ぐえ」
もっとも、止めとばかりに再度襟首を引っ張られ、窒息したように沈黙したのであったが。
そんなことがあったのが、昨年の冬のことである。




