EP 4
アイドルの意地! リーザの凱歌
「ヒャハハハハッ!! どうしたァ、医者の卵! 怒りで顔を真っ赤にして、そんな薄っぺらい板(電子ボード)を出して何ができるッ! 人間の盾ごと俺を撃ち抜く度胸もねェくせに!」
ポポロ村の広場。
操り人形と化した村人たちを盾にする魔人ギアンが、優太の怒りを嘲笑う。
強固な装甲を持つアント型の群れが、ジリジリと防衛線を押し込み、村の建物が次々と酸で溶かされ、破壊されていく。
「くそっ……! 何か、村人を傷つけずにあの糸だけを切るアイテムはないのか……!」
優太は【地球ショッピング】のボードを高速でスクロールするが、ファンタジーの魔法の糸をピンポイントで切断するような都合の良い現代アイテムなど、そう簡単に見つからない。
「無駄だぜ、優太! あいつの糸はマナで編まれた特製品だ。物理的な刃物じゃ切れねえし、俺様の出力じゃ村人ごと吹っ飛ばしちまう!」
メカライオンのガオンが、悔しげに爪で地面を削る。
「ヒヒッ……さァ、もっと絶望しろォ! お前らのその無力感に染まった顔、最高の極上の魂になりそうだぜェ……ッ!!」
ギアンの歪んだ哄笑が広場を支配し、村人や自警団の顔に暗い絶望の影が落ちかけた、まさにその瞬間だった。
「――うるっさいわねェェェェェッ!!!」
ドンッ!! と。
広場の中心、優太たちの前に、ミカン箱(どこから持ってきたのか)が勢いよく置かれた。
「ぜつぼう、ゼツボウって……アンタ、パンの耳に塩振って三日しのいだことあるの!? 炊き出しの豚汁の列に2時間並んだことあるの!? 絶望ってのはね、特売日のタイムセールで目の前でお肉を取られた時に使う言葉よォォォッ!!」
ミカン箱の上に仁王立ちしたのは、普段は茹で卵と雑草サラダを主食にする人魚の地下アイドル(兼 貧乏神)、リーザであった。
「な、なんだァこの小娘は……?」
突然の乱入と、あまりにも所帯染みたタンカに、ギアンが面食らう。
「リーザ!? お前、危ないぞ!」
「優太! アンタは医学生でしょ!? 患者(村人)を助ける方法、絶対に諦めないで考えなさい! その間、アタシがこの胸糞悪い空気をぶち壊してあげるわァ!!」
リーザは胸に手を当て、大きく息を吸い込んだ。
極貧生活で培った逞しすぎるサバイバル魂。そして、人魚の王族として本来持っていた『歌声で海を凪がせる魔力』が、リーザの闘志と完全にリンクする。
「聞いてちょうだい! 絶望より五円(ご縁)! アタシの歌で、みんなのテンション(ステータス)を爆上げしてやるわァッ!! ――【戦神の凱歌:スパチャ・オブ・ウォー】ッッ!!」
『♪ 銅でもない! 銀でもない! 狙い打つのは真鍮のゴールドォォッ!!』
リーザの口から放たれたのは、いつもの『絶対無敵スパチャアイドル伝説!!』――しかし、それは宴会の余興のような生ぬるいものではなかった。
腹の底から響く、魂を震わせるような激しいロックアレンジ(戦場仕様)。
『♪ 穴の向こうに未来が見える! 絶望をぶっ飛ばせ、私とキミのディスタンスゥッ!!』
「こ、これは……ッ!?」
キャルルが驚愕に目を見開く。
リーザの歌声が広場に響き渡った瞬間、キャルルの体から凄まじい闘気が雷光のように迸り始めた。
「すごい……! 体の底から、マナが無限に湧き上がってくるみたい……っ!」
ルナが世界樹の杖を掲げると、周囲に展開された魔力障壁が通常の数倍の厚さと輝きを持った。
『♪ スーパーのレジじゃ嫌な顔ッ! お賽銭箱ならドヤれるのォォッ! だったら私の歌声で、みんなの命を支えてみせるわァッ!!』
人魚の魔力を乗せた『戦神の凱歌』。それは、味方の筋力、魔力、そして防御力を極限まで引き上げる、最高クラスの広域バフ魔法であった。
「な、なんだァ!? この小娘の歌……耳障りなだけでなく、ネズミどもの魔力が跳ね上がってやがるッ!?」
ギアンが焦りの声を上げる。
「ウォォォォォンッ!! すげえぜ! 冷却系から駆動系まで、エネルギーが限界突破しやがる!!」
ガオンの黄金の装甲が眩い光を放ち、赤いセンサーアイが爛々と輝いた。
「(……いける! リーザのバフがあれば、今のガオンの出力とスピードなら、村人を傷つけずに糸だけを切断する微細な機動ができるかもしれない……!)」
優太は電子ボードを閉じ、鋭い眼光でガオンを見上げた。
「――お前の絶望のショーはここまでだ、三流ピエロ」
『♪ 絶対無敵のスパチャアイドル! 五円が積もれば山となる! 悪党の野望も、ここで強制ログアウトよォォォォッ!!』
リーザの熱唱が最高潮に達する中、優太はリュックの横に差していたタクティカルナイフを抜き放ち、ガオンの横に並び立った。
「ガオン! お前のスピードと俺の戦術で、一気にあの糸を断ち切るぞ!」
「へっ! やってやろうじゃねえか、人間!」
アイドルの意地と歌声が、最悪の絶望を打ち砕く。
ポポロ村の反撃の狼煙が、ついに高々と上がったのであった。




