EP 2
毒舌の獅子、ガオン現る!
「……変ね。森の動物たち(お友達)の声が、全く聞こえないわ」
薄暗い西の森。
世界樹の杖を構えたルナが、周囲の異常な静けさに眉をひそめた。
「匂いもおかしいわ。獣の匂いじゃなくて、もっとこう……鉄が焼けたような、嫌な匂い……ッ!」
キャルルがウサギ耳をピクピクと動かしながら、ダブルトンファーを強く握りしめる。
先頭を歩く優太は、周囲の木々を観察していた。
(木が不自然に切断されている……刃物じゃない。超高速の振動か何かで『切断』されたような跡だ。それに、地面が酸のようなもので溶けている場所もある。普通のモンスターの痕跡じゃないぞ)
元SEALs教官直伝の索敵術が、この森に潜む存在が「未知の脅威」であることを告げていた。
その時だった。
「――チィッ! しつこい野郎どもだぜ……ッ!」
上空から、金属が激しく軋むような声と、凄まじい爆発音が響き渡った。
「なんだ!?」
優太たちが空を見上げた瞬間。
木々の天蓋を突き破り、炎と黒煙を吹き上げながら、『巨大な鋼鉄の塊』がズドォォォォォンッ!! と凄まじい地響きと共に墜落してきた。
「きゃあああっ!?」
「くっ……シールド!」
ルナが咄嗟に魔力障壁を展開し、飛び散る土砂と衝撃波を防ぐ。
砂煙が晴れたクレーターの中心。
そこに倒れていたのは、全長10メートルを超える、全身が黄金と白銀の装甲で覆われた『巨大なライオン型の機械』であった。
「ロ、ロボット……!? なんでこんなファンタジー世界に、スーパーロボットみたいなのがいるんだよ!」
優太が驚愕して叫ぶ。
「へっ……見てらんねえな。また、不細工な死蟲機の増援か……?」
メカライオンが、バチバチと漏電しながら、赤いセンサーアイを光らせて首をもたげた。
「いや……ただの、ひ弱な人間かよ。お前ら、ここは危ねえ。さっさと逃げな……っ、ガハッ!」
メカライオンは前脚に力を入れて立ち上がろうとしたが、右肩の装甲が大きく破損し、そこから黒いオイル(血液)が止めどなく吹き出していた。そのまま力なく地面に崩れ落ちる。
「おい! 大丈夫か!?」
優太は反射的にクレーターへ飛び込み、巨大なメカライオンの傍らに駆け寄った。
「バカ野郎、近づくんじゃねえ……! 俺様は聖獣ガオン……世界の調停者だぜ? 四神の奴らが『有給取って温泉行ってくるわ』とか抜かしやがるせいで……たった一機で、死蟲軍の連中と三日三晩ぶっ通しで戦って……もう、マナタンクも装甲も限界なんだよ……っ」
ガオンは毒づきながらも、その声は途切れ途切れで、システムのダウンが近いことは明白だった。
「……しゃべる巨大ロボで、しかも過労死寸前かよ。……キャルル! ルナ! 周囲を警戒してくれ! 俺がこいつの応急処置をする!」
「優太、大丈夫なの!? 相手は機械よ!?」
「人間も機械も、壊れた箇所を直す(オペする)って意味じゃ同じだ!」
優太はリュックを下ろし、目の前に半透明の『電子ボード』を展開した。
優太のチートスキル、【地球ショッピング】である。
「(……日頃、ルナキンで皿洗いを手伝ったり、村のゴミ拾いをしてコツコツ貯めた『善行ポイント』……ここで使わせてもらう!)」
優太は電子ボードの検索窓に、必要な物資を素早く入力した。
『――ピロリン。善行ポイントを消費し、地球からの物資を転送します』
光と共に現れたのは、ポーションでも魔法の杖でもない。
地球のホームセンターで売られている最強のアイテムたちだった。
「よし! まずは青と黄色の缶、超強力防錆潤滑剤【WD-40】! 関節の軋みと焼き付きはこれで抑える! 次に【ダクトテープ(軍用強度)】と、【ポータブルアーク溶接機】!」
「お、おい人間……? なんだ、その見慣れねえ筒(スプレー缶)は……」
怪訝な顔をするガオンに対し、優太は「動くなよ、すぐ楽にしてやる」と声をかけ、WD-40のノズルを、火花を散らしているガオンの関節部や駆動部に一気に吹きかけた。
プシュゥゥゥゥゥッ!!
「……ッ!? な、なんだこれは!? 軋んで動かなかった左脚が……まるで油を差したように(※油です)スムーズに動くじゃねえか!!」
ガオンが驚きの声を上げる。
「次は装甲の破れだ。内部の配線を繋ぎ直すぞ!」
優太は元SEALs教官から学んだ『野戦での車両修理技術』と、外科医志望としての『精密なメス(工具)さばき』を完全に融合させていた。
「ルナ、溶接の火花から目を守ってくれ! キャルル、そこの装甲板を押さえてろ! これはオペだ!」
「は、はいッ!」
「わかったわ!」
バチバチバチッ!!
優太はポータブル溶接機で切断された配線を神業の速度で繋ぎ合わせ、軍用ダクトテープで装甲の破れを応急的に塞いでいく。
その手際は、ファンタジーの魔法使いでも、ドワーフの鍛冶師でもない、純粋な『現代地球のメカニック(外科医)』の凄みがあった。
「……へっ。信じられねえ手際だ。お前、ナマモノ(人間)の医者じゃねえのかよ?」
ガオンの赤いセンサーアイに、再び力強い光が戻り始める。
「俺は外科志望の医学生だ。患者(お前)が助かるなら、魔法のポーションだろうが、ダクトテープだろうが何でも使う。……よし、応急処置終了だ!」
優太が溶接機の電源を切った、まさにその直後。
ギチギチギチギチ……ッ!!
森の奥から、無数の木々をなぎ倒しながら、赤黒い金属の装甲を持った巨大な蟻の怪物たち――『死蟲機(アント型)』の群れが、クレーターを取り囲むように姿を現した。
「……来やがったな、サルバロスの手駒ども」
ガオンが立ち上がり、黄金のたてがみからプラズマを放電させて低く唸る。
「おい人間。お前、名前は?」
「優太だ。中村優太」
「そうか。……お前のその『甘すぎる正義感』と、謎の工具……嫌いじゃねえぜ。俺は聖獣ガオン。よろしく頼むぜ、相棒」
ボロボロのメカライオンと、白衣の代わりにパーカーを着た不器用な医学生。
全く異なる世界を生きる二人が背中を合わせた瞬間、森を揺るがす死蟲軍の咆哮が響き渡った。




