斬!
オビト
「こうなったら、もうやるしかない! この蚊人と勝負する!」
蚊人
「カーカッカッカ! 勝負スルゥ? 貴様ガァ? 守護霊使イデモナイオ前ガコノ俺様ト戦ウダト? カーカッカッカ!」
オビトは、妖精守護霊『蚊人』の真名を言い当てることができなかった。このため、蚊人の戦闘力は倍加し、大きさもコガネムシほどに成長している。
オビトは、陰陽2本の短剣で二刀流の構え。
その正面空中、蚊人がホバリングして静止している。
ジリジリと、足の指を進ませて、オビトは蚊人との間合いをつめる。
オビトに武術の嗜みは何もない。
迂闊に近づけば蚊人の先制攻撃を受けてしまう。
だから、陰陽劍が届く距離まで、少しずつ近づいていく。
アスカ
「無茶よ……オビトぉぉ」
ヒロミ
「シッ。 オビトが集中している」
部屋中央のゆりかごで寝ていた嬰児のシラク王子が泣き出した。
蚊人の突進。
オビトの顔面目掛けて飛んでくる。
やられる!
オビトはのけぞった。
同時に、剣に手応えを感じた。
だがそれは、蚊人が剣撃を避けようと、白刃を蹴飛ばした手応えだった。
蚊人
「オット! 危ナイ! 危ナァァイ! アト、モウ、チョッピリダケ油断シテイタラ、ソノ剣ニ真ッ2ツニ斬ラレルトコロダッタァ!」
アスカ
「惜しい!」
ヒロミ
「いや、よく見て――オビト、剣を持ってない――」
アスカ
「え? まさか?」
アスカとヒロミは見た。
それまで持っていた陰陽2本の短剣。今それを持つは、オビトのそれとは違う、もう2本の腕だ。
オビトの目の前に、もう1人、男の姿があった。全身黒装束の剣士の姿があった。
ナーニャ
「ママ、ママ」
ナーニャがオビトに近づこうとするので、アスカとヒロミが彼女に抱き着いて制止する。
アスカ
「ナーニャの、ママ――なの?」
ナーニャ
「ママ、ママ」
オビト
「違う。 これは、もっと強い霊気だ。 自分の中から、何かが飛び出したような!」
ナーニャ
「ママー!」
あれが私のママなのと、ナーニャが強く叫ぶ。
ヒロミ
「そうか! 最近オビトの霊感が高まってきたから、何かの守護霊が憑依しているのかとは思っていたけど――それがナーニャの『ママ』の霊と融合して刺激され、オビトの守護霊が覚醒したのよ!」
アスカ
「だったら、この勝負、やれるかもしれない!」
蚊人
「ナニヲ言ウゥゥ! オ前ガ守護霊使イニナッタカラトイッテ、ナニガデキルトイウノダ! 俺様ハ、スピードデハ誰ニモ負ケナイ! 貴様ノ小便ノヨウナ守護霊ニ負ケルハズガナイノダァァァ!」
また赤ん坊のシラク王子が泣き出した。
蚊人は、いったん、オビトと間合いを取る。
そして、突撃。
オビトの陰陽劍は、その守護霊の手にある。
迫る蚊人に、守護霊が剣を振るった。