逃げるのはそこに道があるから!
妖精守護霊『蚊人』に襲われた監禁部屋を脱出したオビト、アスカ、ヒロミ、ナーニャの4人。
ナーニャが「ママ」と呼ぶ霊気を追いかけるのでついていくと、別室でシキ皇子の子とみられる赤ちゃんを見つけた。また、その母親のトチ=ヒストリアとみられる死体も安置されていた。
ナーニャはその部屋に居た赤ちゃんを「シラク」、「オトート」と呼ぶ。
そこへ、再び妖精守護霊の『蚊人』が現れた。
蚊人
「秘密ヲ見タナァ! ドウシテクレヨウ! オ前タチノ生気ヲ吸イツクシテクレヨォォォ!」
蚊人が部屋の中を飛び回る。
アスカ
「皆! 密集隊形よ! オビトは先頭! 蚊人の動きを感知して!」
霊剣・陰陽劍に伝わる振動、オビトは剣先で蚊人の霊気を感じ取る。
ヒロミ
「ナーニャちゃん。 ママは今、どこ? こっちに来て」
ナーニャ
「オビト」
この部屋へ導いたのは、ナーニャが「ママ」と呼ぶ霊体だ。
ナーニャは、とにかく「ママ」という霊体についていく。だからいま、下手に動いてもらっては困るのだ。
そのナーニャの掌が、オビトの背中に触れる。
「ママ」と呼ばれた霊体は、今、オビトともにいるらしい。
オビト
「来る!」
アスカ
「紅蓮の戦士『不動の解脱者』!」
守護霊の手拳ラッシュ。
蚊人
「カーカッカッカッカ! 遅イ! 遅イ! 遅イィィィ! ドコヲ狙ッテイルゥゥゥ!」
蚊人がアスカの小胸に接着した。
ヒロミ
「白銅の獣聖『迷い犬』!」
その爪が、アスカの小胸をかすめる。
蚊人が素早く飛び立つ。
アスカ
「キャッ! 痛い!」
アスカの小胸に引っ掻き傷ができた。
ヒロミ「回復!」
『迷い犬』が能力を発動したので、アスカの小傷は瞬時に回復。
アスカ
「オビト……守護霊は真名を唱えれば弱体化するんでしょ? アイツの真名に心当たりはないの?」
オビト
「え? そんなムチャだよ。 手がかりも何もない。 いや、やってみようか」
蚊人
「ナニ? 真名ヲ言イ当テルノカ?」
蚊人が間合いをとって、空中で停止した。
守護霊は、その呼び名とは別に真名を持つ。その真名を言い当てられると、能力を失い、戦闘力が半減すると言われている。
オビト
「あぁ、そうさ! やい! 蚊人! 君の真名は、ベルゼブブだ!」
蚊人
「カーカッカッカッカ! 真名ヲ言イ当テルト言ウカラ警戒シテイレバ『べるぜぶぶ』トハナァ! ソイツハ蠅ノ王! 俺様ハ蚊! モノガヨウ、モノガ違ウノヨォォォ!」
蚊人が一回り大きくなり、テントウムシほどの大きさからコガネムシほどの大きさにまで成長した。戦闘力は、およそ倍になったと言うべきか。
アスカ
「オビトォ! 何やってるのォォ! ダメ! もう無理よ! 皆、ここで、アイツに生気にを吸われ尽くして、死んでいくんだわ!」
恐怖にかられたアスカが部屋の出口に向かって駆け出す。
だが、ドアが開かない。
外側から鍵が掛けられたようだ。
ヒロミ
「これでは、さっきと一緒。 アスカ、ドアを叩き壊すことはできないの?」
アスカ
「やってみる! 『不動の解脱者』!」
守護霊が強打正拳突きを放とうと振りかぶる。
オビト
「ダメだ! アスカ!」
アスカ
「何よ! いつも逃げ出すオビトの癖に! こういう時こそ逃げるのよ!」
オビト
「だからダメなんだ! 僕が逃げるのは、そこに道があるからさ! だけど、ここで逃げても蚊人に追いつかれる! 背中を晒して、反撃できなくなる!」
アスカ
「じゃぁ、どうすればいいのよ!」
オビト
「こうなったら、もうやるしかない! この蚊人と勝負する!」
そう言ってオビトは、蚊人に向かって陰陽劍を構えた。