そっちのドアを開ければ良いんでしょう!
ヒストリア邸で密室に閉じ込められたところで蚊人の吸精攻撃を受けるオビト、アスカ、ヒロミ、ナーニャの4人。
吸精攻撃を受けると、少しずつ年齢が吸い取られる。そして最後は髑髏となるまで生気を吸い取られ、いずれは死に至る。
攻撃を受けたナーニャは、3歳程度の幼児だったのが15歳程度に成長し、アスカとヒロミは20歳を過ぎた大人の女性に変貌した。
これ以上の吸精は、身体から体力を奪い、老衰し、最後は死を迎えることを意味する。
4人が妖精守護霊と呼んでいた『蚊人』は、テントウムシほどの大きさである。
人間の素肌に取り付いてひっそりと吸精する。
蚊に血を吸われていることに気付くには、視認しかない。
そこで4人はハダカになって、互いに蚊人から攻撃を受けていないか、注意することにした。
アスカ
「オビトは、しっかり陰陽劍をもって、蚊人の気配を探りなさい!」
オビト
「やってるよ! あ! ナーニャに向かっている!」
オビトが持つ陰陽劍は、周囲の霊気に反応する。扱いを覚えれば、どんなに小さな守護霊でも、おおよその位置をつかむことができる。
ヒロミ
「見つけた! 白銅の獣聖『迷い犬』!」
ヒロミの守護霊が両手でひっかく攻撃。
蚊人は、これをことごとくかわす。
蚊人
「遅イ! 遅イ! 遅イィィィ! ソンナ蛞蝓ガ這ウヨウナ攻撃、当タルハズガナイィィィ!」
しかし、ここでナーニャに攻撃を加えれば、『迷い犬』が攻撃できるところとなる。
蚊人は部屋中を縦横に飛び回る。
これでは、いかにオビトの陰陽劍が霊気に反応するといっても、追いきれない。
オビトは、蚊人の行方を見失った。
次の瞬間。
オビトは自分の背部に霊気を感じた。
オビトの反応を観察していたアスカが蚊人を発見。その腰あたりに密着していた。
アスカ
「紅蓮の戦士『不動の解脱者』!」
アスカの守護霊がオビトの後ろから蹴り上げる。
だが、その前に蚊人は退避。
手加減しているとはいえ、その先のオビトに相当のダメージ。
蚊人
「カーカッカッカ! 吸ゥチャッタ! 吸ゥチャッタ! 皇子ノ生気ヲ吸ゥチャッタ!」
時間にして数秒か。オビトが18歳程度の青年に成長する。やや高身長。
オビト
「酷いよアスカ!」
腰を蹴られたオビトが叫ぶ。
アスカ
「仕方ないでしょ! アイツがすばしっこ過ぎるのよ!」
ヒロミ
「こんなに素早い動きをされては、私たちの守護霊では攻撃は無理よ!」
蚊人
「カーカッカッカッカ! ソノ通リ! ソノ通リ! ソノ通リィィィ! オ前タチニ捕マルヨウナ俺様デハナイィィィ! オ前タチハコノ部屋デ、俺様ニ、チョッピリズツ生気ヲ吸ワレ、ソシテ死ンデイクノダァァァ!」
こう言いながら、蚊人がアスカとヒロミの身体を渡り飛ぶ。2人の肌の黒子が増え、年齢が30歳を超えたように見える。
ヒロミ
「とりあえず皆、密集しましょう! 誰がアイツに攻撃されても、すぐに追い払えるように!」
アスカ
「オビトは、外側を向いて、陰陽劍でアイツの気配を追いかけること!」
オビト
「分かっている!」
と言うものの、オビトの視線の先にナーニャがいた。
ナーニャは「ママ、ママ」と言って、部屋の出口のドアに歩いて行く。
オビト
「ダメだ! ナーニャ! こっちに来て、集まるんだ!」
ナーニャは聞く耳をもたず、「ママ、ママ」というのみである。
ナーニャは、身体こそ15歳の少女になっているが、心は3歳児のままである。言って、その通りにできる年齢ではない。
オビトは、ナーニャの手を引っ張って、自分たちの側から離すまいとした。
アスカ
「オビト? どうしたの?」
オビト
「もう1つ、霊気を感じるんだ。 ごめん、アスカ。 こう目立った霊気が2つもあると、うまく蚊人の気配を感じ取れない」
アスカ
「しっかりして! そんな霊気よりも、蚊人の気配を感じ取って!」
オビト
「やってみる。 この霊気、はっきりとはしているけど、守護霊ほどは強くない。 誰かの幽霊かな?」
ナーニャは、その幽霊かもしれないという霊気のあたりに向かって、「ママ、ママ」と呼びかけ続ける。
ヒロミ
「ナーニャ……その幽霊、ひょっとして、ナーニャのママじゃないかしら」
ナーニャは、今度は出口のドアをガチャガチャと開けようとする。
オビト
「幽霊の霊気が、ドアの外に移動した。 ナーニャは、それを追いかけようとしてるんだ!」
アスカ
「だったらどうしたというの? 私たちは蚊人に集中しましょう」
しかし、心3歳児のナーニャは、しつこく出口のドアを開けようとする。
オビトたちが入って来たドアとは反対側にあるドアだ。こちらも外側からカギがかけられているようだ。
アスカ
「もう! 分かったわよ! そっちのドアを開ければ良いんでしょう!」
『不動の解脱者』が正拳突きすると、出口ドアが吹き飛んだ。
するとナーニャが、何かを追いかけるように駆け出した。
これを「待って」と追いかけるオビトとアスカとヒロミの3人。
蚊人
「アッ! コイツラ逃ゲルゾ! ヤバイ! ヤバイ! ヤバイ! ソッチハヤバインダ! デモ俺様ハコレ以上術者カラ離レルコトガデキナイ! スグニ戻ッテ術者ニ報セルンダァ!」