君たちはしばらく別室で待っておれ
生まれたばかりのシキ皇子の王子を養育しているヒストリア邸に向かう途中、ヒロヨが妖精のような守護霊に襲われ、40歳から50歳の熟女のような姿にされてしまった。コウセイが、この妖精守護霊を捕獲しようとしたが、逃げられてしまう。
熟年へ急成長させられたヒロヨの身体は、その日着ていた12歳の服装ではおさまりきらなくなってしまい、人前に出れなくなったヒロヨはその場で待機、これをコウセイが護衛することになった。
結局、ヒストリア邸へは、オビトとアスカとヒロミの3人が向かうことになった。
パーティには、道中で保護した3歳程度の女児のナーニャもいる。
ヒストリア邸は、妖精守護霊が飛び去った方角にある。ナーニャのような幼女をここに近づけるのは危険なように思われた。
だから、ナーニャもヒロヨと同じく待機組にしようという話になったのだが、ナーニャはオビトのそばについて離れようとしない。アスカとヒロミでナーニャを説得しようとしたが、それでも彼女は頑としてオビトのそばを離れようとしなかった。
そこでやむを得ず、ナーニャも一緒にヒストリア邸に向かうものとされた。
30分ほど歩いて丘を越え、その先にヒストリア邸が見えた。
主人のモルト=ヒストリアが出迎えた。
オビト
「ヒストリア将軍。 このたびは、お嬢様がシキ皇子の王子をお産みになられたと聞き、お祝いをお伝えしたく参上しました」
将軍というのは、この年、モルトが、副将軍として東国に遠征し、凱旋してきたばかりだったからである。
モルト
「これはこれは。 皇子がいらっしゃるというので、てっきりコウセイ皇子がご訪問されるとばかり思っていたのですが、オビト皇子の方でしたか――」
露骨に蔑むような態度を示されたので、アスカは「無礼者!」と言ってやろうとした。幼馴染のヒロミがアスカの態度に気付き、必死で口をふさぐ。
オビトは、このように蔑まれることには慣れている。気にしない体で応答した。
オビト
「はい。 コウセイ皇子とは途中まで一緒だったのですが、途中でトラブルがあって来れなくなってしまいました。 その代わり、コウセイ皇子からはお祝い品の目録を与っております。 後日、ストンリベル家から物が届きますので、お納めいただきたいです」
オビトはモルトに封書を渡す。また、これとは別に「こちらはウィスタプラン家からです」と、フヒト=ウィスタプランから預かった目録も手渡した。
モルト
「あ、フヒト様からもお祝いをいただけるとは。 まったく恐縮です。 そうだ、お返しの品を用意しなくては。 準備があるから、君たちは、しばらく別室で待っておれ」
ヒロミ
「ヒストリア将軍。 それはそうと、私どもからも、少し、お願いがあるのですが」
モルト
「何だ? 申してみよ」
ヒロミ
「ここに来る道中、ナーニャと名乗る3歳の女児を保護しました。 当面、この幼女を保護していただく、お願いしたいです。 また、コウセイ皇子が、道中で、暴漢に襲われたご婦人を保護しています。 人前に出るのを憚られる状況でしたので、婦人服を何着かご融通願えないかと」
モルト
「ふむ、そういうことならば考えておこう。 それも一緒に準備をしておくから、とにかく君たちは、しばらく別室で待っておれ」
こうして、オビト、アスカ、ヒロミ、そしてナーニャの4人は、ヒストリア邸の別室に通された。
アスカ
「何よ! あの偉そうな態度! オビトは皇子なのよ!」
ヒロミ
「アスカ、そういきり立つものではないわよ。 あなたがここで短気を起こせば、ウィスタプラン家やドグブリード家の信用にかかわるわ」
アスカ
「それは違うわ! ここであの無礼な態度を糺せないと、オビトはこれからもアイツに舐められるわ!」
ヒロミ
「そうは言うけど、アスカに彼の無礼を指摘できるかしら。 ただ『無礼』というだけでは、アスカの方が『横柄』ということになって、かえって返り討ちよ!」
アスカ
「だからって、黙って見ていろっていうの?」
このようにして、アスカとヒロミが喧嘩をするのはいつものことである。こういう時、オビトは、下手に仲裁しようとすると、かえって2人の板挟みになって困るので、放っておくことにしている。
そして、何か気になることがあったのか、出口のドアを開けようとした。
開かない――。
オビト
「大変だ。 僕たちは、この部屋に閉じ込められたようだ。 ドアが開かない」
アスカ・ヒロミ
「「何ですって?」」
オビト
「それに、僕の陰陽劍が反応している。 さっきの妖精守護霊と同じ気配だ。 僕たちは、ここで攻撃を受ける!」