遅イ遅イ遅イィィィ!
シキ皇子に王子が生まれたというので、王子の養育先であるヒストリア家の屋敷に向かうその途中、ヒロヨが誰かの守護霊の攻撃を受けた。ヒロヨの身体がみるみる加齢していく。
その守護霊らしき気配がヒロヨの背中から感じるというので、兄のコウセイが妹のシャツを破り捨てると、そこにテントウムシほどの大きさの、羽根を生やした妖精のような守護霊がいた。
コウセイは、その守護霊、蒼き竜騎士『空飛ぶイルカ』を召喚し、ヒロヨの身体を傷つけないような緻密な動きで、その槍をかすめる。
妖精のような守護霊は、サッと飛び上がり、これをかわす。
コウセイ
「よし! 飛び上がった! いまだ! 龍馬! 暴食!」
龍馬は、『空飛ぶイルカ』が騎乗する龍の名前で、守護霊の一部である。暴食は、龍馬が使う能力名だ。
龍馬が、その口を大きく開ける。
すべてを吸い込む大風が起こる。
妖精のような守護霊は、これに巻き込まれそうになるところで叫んだ。
妖精
「ヘイ! オレノコトヲ喰ラッテシマッテ、イイノカイ? オレハ、ソコノ女ノ生気ヲ腹ニオサメテイルノダ! オレヲ喰ッチマウト、ソコノ女ノ生気ハ取リ戻セナイゼ!」
ヒロヨ
「それは嫌ァ! 元の姿に戻してェ!」
中年太りの熟女となってしまったヒロヨが懇願する。
コウセイは、そういうことかと守護霊の暴食を撤回した。
これで、妖精の守護霊が、自由に飛び回れるようになってしまった。
コウセイ
「しかし、逃がさん!」
妖精
「遅イ! 遅イ! 遅イィィィ! 貴様ノ槍サバキハ止マッテ見エルゾ!」
アスカとヒロミも守護霊を召喚。
3体の守護霊で妖精守護霊を捕獲しようと攻撃を続けるが、ことごとくかわされてしまう。
妖精
「ドコヲ見テイルゥ! 狙ッテルゥ! 俺ハココダァ! ココニイルゥ!」
敏捷性が違いすぎるのだ。
コウセイとヒロミは、他の方法を考えたほうが良いと、攻撃を止めた。
アスカは最後まで攻撃を続けていたが、まったく命中せず。
ついに妖精守護霊は、アスカの守護霊の手がとどかない、空高くまで舞い上がった。
アスカ
「待ちなさい! 逃げるなんて卑怯よ!」
妖精
「3人ガカリデ攻撃シテクルヨウナ奴ニ言ワレタクハナイ! 俺ハ満腹ニナッタカラモウ返ル。 機会ガアレバ、マタ遊ンデヤルゾォ!」
そう言って、妖精守護霊は飛んで行ってしまった。
オビト
「あっちは、ヒストリア邸がある方角だね」
アスカ
「急いで追いかけましょう」
ヒロミ
「追いかけてどうするの? アイツの動きは見たでしょう? 追いついたところで、アイツを捕まえるなんて不可能よ!」
ヒロヨ
「だったら、私はどうなるのよ!」
熟女となったヒロヨが涙の抗議をする。
コウセイ
「いや、やはりここは、アイツを追いかけることにしよう。 その先には、きっと術者がいるはずだ。 その術者を見つけて捕まえて、ヒロヨの生気を取り戻すんだ」
そこで皆で妖精守護霊が飛び去った先に向かおうとしたところ、ヒロヨがコウセイのシャツを引っ張って、引き留めた。
加齢で成長したヒロヨの身体は、この日着ていた12歳の少女の服装ではおさまりきれなくなっている。このような恰好では、人前に出れないと言うのだ。
コウセイは、上着を脱いでヒロヨにかけてやった。そして、彼女にここに残るように言ってやった。するとヒロヨは「一人なんて嫌、怖い」と言う。
そこでコウセイは、アスカかヒロミのいずれかに、ヒロヨと一緒に残ってもらおうかとも考えた。だが、仲が悪いヒロヨとの相性をみると、それもどうかと思う。
コウセイ
「分かった。 そういうことならば、お兄ちゃんが一緒に居てあげよう。 オビト君、申し訳ないけれども、ヒストリア邸へは君たちで行ってくれないか。 そして、婦人用の衣類をいくつか融通してもらってくれ。 また、あの妖精の術者の情報も集めてほしい。 ちょっと注文が多いけれども、やってくれるかい?」
ハイと、オビトは答えた。
そしてヒストリア邸へは、オビトとアスカとヒロミの3人で向かうことになった。