中締め
何とか妖精守護霊『蚊人』を撃退したオビトたちである。
その術者は、屋敷の主人、モルト=ヒストリアのボディガードだった。どうもモルトが首謀者だったらしい。
アスカとヒロミが、モルトとそのボディガードを縛り上げ、話を聞き出した。どうやら、こういうことだった。
事の発端は、モルトの娘のトチ=ヒストリアは、シキ皇子と愛し合い、その子を宿したが、1ヵ月前に病気で死んでしまったことによる。
モルトは、娘がシキ皇子の子を宿したと聞いたとき、狂喜した。シキ皇子は、政権の中枢とまでは言えないものの、れっきとしたオーム帝の皇子である。娘がその皇子の子を産めば、自分は皇族の祖父となって、相当の増封|(領地をもらうこと)を期待できる。
ところがその娘が、胎児もろとも出産直前に病気で死んでしまったのである。
モルトがボディガードと知り合ったのは、その頃である。ボディガードの名は、アキマル=ホールという。アキマルによれば、自分は守護霊使いであり、その能力で、死人を蘇らせることができるという。死胎も蘇らせることができるか問うと、「それはできない」ということであった。
そのときモルトは、東国遠征先で知り合って連れて来た愛人がいた。妊娠していて、間もなく出産するということだった。
それでモルトに、邪な考えが生まれた。
蘇らせることができない死胎は仕方がないとして、まずは娘を蘇生させ、愛人が産む子をシキ皇子の子とすれば、やはり自分は皇族の祖父となれるのではないかと。
アキマルによれば、死人を蘇らせるためには、自分の守護霊に相当の生気を吸精させなければならないということだった。そこで、まずは愛人の出産を待ち、頃合いを見て、この愛人から生気を奪って殺してしまおうと、そういうことになった。
そして愛人は、シラクを産んだ後、言葉巧みに屋敷の外に連れ出され、アキマルの守護霊『蚊人』にすべての生気を吸精され、髑髏とされて山林に投棄されたのである。
ナーニャは、この愛人の娘である。ナーニャも愛人とともに殺されるはずだったが、そこへオビトたちが通りがかり、蚊人の攻撃を受けずに済んだということである。
ヒロミ
「なるほどねぇ」
アスカ
「それはそれとして、まずは蚊人が奪った生気は、全部返してもらうわ」
縛り上げられているアキマルは、これに従うほかはない。
オビト、アスカ、ヒロミ、ナーニャの4人は、元の姿に戻ることができた。
また、道中で待っている、ヒロヨの生気も取り戻すことができた。ヒロヨも、元の姿に戻った。
帰途につく、コウセイ、ヒロヨ、オビト、アスカ、ヒロミの5人。ナーニャとシラクも一緒だ。
アスカ
「それにしても、あのモルトという男、許せないわ!」
コウセイ
「しかし、今回の件で、ただちにヒストリア将軍を処罰することは難しいだろうね」
オビト
「どうして?」
コウセイ
「証拠がないからさ。 今回、ヒストリア将軍がすべて自白をしたと言うけれども、君たちに脅されて自白させられたと言われたらお終いさ。 むしろ、オビト君たちの方が、将軍を脅したと言われて、立場が悪くなるかもしれない」
ヒロミ
「でも、酷い話じゃない。 お母さんを殺されたナーニャが可哀そうよ」
コウセイ
「そうだね。 この件を不問にするわけにもいかないね。 だけれども、今は証拠が足りないから、この件は慎重に進めた方が良いと思う」
後日――
結論から言えば、モルト=ヒストリアやアキマル=ホールが殺人罪で処罰されることはなかった。2人とも、証拠が集まる前に、すぐに死んでしまったからだ。死因は、病気とも言われているが、詳しいことはよく分からない。
ナーニャとシラクは、そのままシキ皇子の子どもたちということにされ、コウセイ皇子の口利きで、クレイマスタ家で養育されることになった。そのことが、後にこの国を揺るがす騒動の伏線になるのだが、それは半世紀以上も将来のことである。
最後に、この帝国の皇族関係図を示しておく。
前物語は、ひとまずここで中締めとしよう。
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また、近く、天平のファンタジア本編を公開予定です。
舞台はこの物語の2年後の世界です。お楽しみに!
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