18.待機席のアマンダ
「……うお!! やべえ、もう八時じゃねえか!」
FBCUとの合同演習の当日、俺は寝坊した。
セットしておいた時計のアラームは、何の役に立たなかった。
あわてて着替えて部屋を飛び出し、洗面所に飛び込む。
「んぁ、おぁよぅ、ふぁぐおぁん」
歯ブラシくわえたまま、たぶん朝の挨拶をしていたジョンジーを押しのけ、顔を洗って髪を整える。最速で身支度を終えた俺は、上着と銃をホルスターごと持って、ガレージに向かった。
バイクに飛び乗り、マーガレットの住むアパートまでぶっ飛ばす。
「んぇ。おはようごじゃまふぁ……ふぁ、え? もう演習の日? 今日?」
寝ぼけまなこのマーガレットは、ジョンジーとそっくりの口調で挨拶してきた。カレンダーを見もしないそのだらしない生活態度は、いいかげん改善してくれなものだろうか。
俺は大急ぎでマーガレットに仕度をさせて、GMCのユーコンデナリのハンドルを握らせた。
以前、ジョンジーの事務所で使っていた車は、のれん分けの際にマーガレットが所有することになっていた。目を閉じながらでも運転できるのはいいのだが、一緒に乗ってるこっちは生きた心地がしない。守ろう、安全運転。
それでも俺たちは、どうにか設定された時間ギリギリに、本日の演習場として指定された廃工場までたどりついた。
だだっぴろい駐車スペースに車を止めるなり、マーガレットはトイレに行ってしまった。せめて俺だけでもと思って先に行くと、警察用の指揮車両が並んだ横にFBCUの隊員がぞろぞろいやがった。即座にハンターの証明書と、今日の参加証を見せて身元を確認してもらった。
んでもって俺は、来客席―――安っぽいパイプ椅子と、顔なじみのハンターが顔を並べている場所まで案内された。
「やあ。ファング」
俺は声をかけてきたアマンダの隣に座り、ようやくひと息入れることができた。
「ずいぶん遅い登場じゃないか。アペロからデセールまで、朝からたっぷり楽しんできたってわけかい?」
「ただの寝坊だよ。運転手もねぼすけでな。おかげで胃袋がすっからかんだ」
「それはそれは」
アマンダは足元のバッグから、工具箱みたいなサイズのどでかいサンドイッチケースを取り出した。
「うちの母親が持たせてくれたんだ。まだ時間があるから、今のうちによかったら食べるといい」
「そりゃありがたいが、いいのかよ」
「かまわないさ。うちの母親は私の月収も知らないくせに、いまだに娘に遠足用の弁当箱を持たせたがるんだ」
親ってのは、どこの家庭も変わらないものらしい。
「金持ちの母親でも、弁当なんか作るもんなのか」
「そりゃあ作るさ。ヒマだからレストランのシェフを呼んで、料理を習ってる。学生時代には、よく失敗作の処分を手伝わされたもんさ」
アマンダが、スッと立ち上がった。二メートル超えの巨体で日影ができた。
「飲み物をとってくるから、先にやってるといい」
「んじゃ、ありがたく」
俺はケースを開けて、中身をいただくことにした。
ずらりと並んだサンドイッチは、すべて異なる具材がはさまっていた。なんとまあ、贅沢なことか。
「うめえ。うめえ」
特に美味いのは、ターキーサンドだった。
七面鳥の肉の薄切りに、クランベリーソースをかけてパンではさんであるやつだ。感謝祭では定番料理のひとつだが、長年愛されているメニューのひとつだけあって、これがまたすこぶるうまい。
しっかりとした肉質で味の濃い七面鳥の肉に、フルーツ特有の甘酸っぱさが加わると、ボリューム感にさわやかな味わいが加わって最強だ。
ソースは果実をジャムにする際にアップルジュースで煮ているらしく、元のクランベリーらしさを損なっていないところもポイントが高い。パン生地の中にう埋もれているナッツの歯応えも、これがまたいいアクセントになっていて、ひと噛みするごとに滋味が口の中に広がっていく。まさに大自然の恵みといった満足感で、俺の胃袋からは文句のひとつの出てこなかった。
具材に金がかかっていると、やはり味が違う。
賞味期限の近づいた食材を処分してやろうと客の隙をうかがう、道端の飲食店で出てくる料理なんぞとは比べ物にならない。まったく金持ち様々だ。
貧乏臭くサンドイッチを噛みしめていたら、警察の設置したコーヒーサーバーのほうから両手にカップを持ったアマンダが戻ってきた。
「ほら。コーヒーでよかったかい」
「ああ、そっちは?」
「白湯だよ」
「そいつは体に良さそうだ」
意識たけぇ。
俺の太腿ぐらい二の腕が太いだけあって、飲み食いしてるものが健康的だ。
「ところで、誰かと一緒に来たんじゃなかったのか」
「ああ。ペギーが来てるぜ」
どこ行ってんだ、あいつ。
トイレに行くとか言ってたけど、マーガレットはそれっきり行方不明だ。
もうすぐ開会時間が迫っているというのに、どこをほっつき歩いてるやら。まあ、そこらじゅうにFBCUの連中がいるから、いつでも捜索願いは出せそうだけど。
「来てはいるんだが、どっかそのへんでも時間潰しでもしてるんじゃねえかな」
「オセロットは? 来ていないのかい」
「うちのボスならお留守番だぜ。あんなの連れてきたら、開会の合図と同時にビール開けちまうだろ」
アマンダは、くつくつと笑いをこらえきれない様子だった。
「たしかに。あいつならやりかねない」
「だろ」
そんな話をしていると、防護ベストを身に着けた警官がやってきた。
警官はアマンダの証明書を確認すると、軽く敬礼した。
「お噂はかねがね伺っております。本日は、狙撃班との同行をお願いしたいのですが」
「構いませんよ」
アマンダは空になったサンドイッチケースをバッグに押し込むと、ひょいと指にひっかけて持ち上げた。
「そういうことなら、自分用のライフルを車に積んであるんだ。取りに行っても、さしつかえはないかな」
「ええ。でしたら、準備をどうぞ。誰かに運ばせましょうか?」
「ご心配なく。執事に運ばせます」
笑みひとつ浮かべない警官は去り際に、俺をちらと見た。
俺はアマンダの顔を見上げた。
「あいつ、俺のことをおまえの執事だと思ってるんじゃねえかな」
「いいね。月収はいくらがお望みかな」
「あいにく、そういう仕事は向いてねえんだ。けどまあ、サンドイッチの分ぐらいは働いてもいいな」
「一人で大丈夫だよ。ただし、雇用契約に興味があったら、いつでも」
アマンダはグローブみたいにデカい手でバッグをお手玉する。
「そういうわけだから、今日は貴賓席から下々の活躍を拝ませてもらうよ」
「間違えて撃ったりしないでくれよ」
「歩くときには少し背伸びしてくれると助かるよ。そのほうが狙いやすい」
「毎日あのサンドイッチを食わせてくれたら、俺の背も伸びるかもしれないぜ」
「テイクアウトの注文は、うちの母親のキッチンまでどうぞ。それじゃあ、またあとで」
駐車スペースに向かうアマンダを見送って、俺は時刻を確認した。
あと数分ほどで、十時になるだろうか。
予定では、そろそろ演習が始まる時間のはずだ
「あいつ、どこ行ってんだよ」
俺は周囲を見回したが、マーガレットの姿はどこにもない。
いまだに影も形も見えないって、どういうことだよ。
車を止めたところから、目と鼻の先だぞ、ここ。
探しに行こうとしたが、時すでに遅し。
俺もう、知らねえからな。
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一人称の練習で書いています。
読みにくい部分が多く、たいへん申し訳ありません。
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(例文)
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