19.遅れて来たましろとひさめ
「それではハンター諸君。こちらに集まってくれたまえ」
溌溂とした声で呼びかける警官のところに、俺たち―――その場にいたハンター連中は、だるそうに集まっていった。
この場に残っているのは、俺もふくめて男ばかりなので、みんなそんな感じである。
なんつーか、これから体育の授業でも始まる前みたいな雰囲気だ。めんどくせえ。
「今日は、みなさんにお会いできて嬉しいですよ。それでは、まず……」
やたらと威圧的な胸囲のわりに、腰の低い警官が説明を始めようとしたときだった。
駐車スペースのほうから、爆音とともに赤いローバーミニのケンジントンが、こっちにめがけてつっこんできた。
この国は車社会なので、俺たちみんなこういうのには慣れっこだ。
ハンターたちが警察車両の影に駆け込むと、FBCUの連中も一緒になって逃げてきた。こういうときに命を賭けろって言えるほど、俺らも高い税金払ってないから、まあ許してやってほしい。
ナイトファイヤーレッドの車体は、さっきまで俺たちが座っていた待機席を轢き殺す直前、耳が痛くなるようなスキール音とともに車体を百八十度ほど旋回させて、ようやく止まった。
「すっ、すみません!! 道が混んでて、遅れましたっ」
運転席から出てきた、赤毛の少女が地面に頭がつきそうなほどお辞儀した。
色めきたった警官たちが、「オー……キモノガール」などと口々にはやしたてて感嘆する。
それとは反対にハンター連中のほうは表情を強張らせ、あたりに緊張感が満ちていった。後部座席から出てきた黒髪の女が、大事そうに抱きかかえている細長い袋の中身を知っているからだ。
たいていのハンターは銃を使う。
弾丸は個人識別のできるAFBBだが、その他にもオーダーメイドで刀身を成型するAFBKも存在する。銃弾においては弾頭部に有機ペレットを仕込むが、こちらはブレード部に液状化させたペレットを塗布すことで同様の効果を発揮する。
刀身部分が六インチ以下となるAFBKを持つハンターがたまにいる理由は、あくまでサブウェポンとして携帯しておくことが目的だ。ナイフだけで牙獣を狩るやつなんて、一人しか俺は知らない。
けれどこの街で唯一、刃渡り二フィートと四インチ半の長さを持つAFBSが届く間合いで牙獣と渡り合う、この女のことはハンターなら誰もが知っている。
言うまでもなく、俺が苦手としている剣崎ましろだ。
「たいへんお騒がせいたしました。申し訳ありません」
「ああ……問題ありませんよ。ちょうど今、はじめようとしたところです」
説明役の警官はやや声を震わせながら、軽く頭を下げるましろに応じた。
負けるなトニー、がんばれ。
俺は心の中で警官を応援した。ちなみに俺がどうして彼の名を知っているかと言うと、取調室で先日、一夜を共にした仲だからだ。
「……さて。まずはこの機器について説明しよう」
トニーは「本日はお日柄もよく」などといった長ったらしい前置きのあと、タブレット型の端末と、そこにケーブルで接続された薄べったい卵型の円盤を一同に見せた。
「こいつはFBCUの秘密兵器だ。おまえらハンターの脱税なんて、すぐ見抜いちまうんだぜ。どうだ、肝が冷えただろ」
すると、上司とおぼしき背広の男が「トニー。真面目にやれ」と言って、FBCUの隊員たちが失笑した。
トニーも笑顔で、困ったような仕草をする。
「機密事項だから、一応は話を濁さなくっちゃいけなくてな。許してくれ。まあ、端的に言うとこいつは牙獣の出現予測システムだ。原理についてはレクチャーを受けたんだが、俺もよくわからん。けれど、本日ご参加していただくハンター諸君は気にしなくていい。なにしろ、今日のきみたちはお客様だからな」
そう言って、トニーは卵型のパーツをつまんで軽く振った。
「さて。実際に使うと、こんな感じだ。ピッ、ピッ、ピッ……ほら、さっそくセンサーが反応したぞ」
トニーは身をかがめて端末を見ながら円盤を持った右手を伸ばし、いかにも探知機を扱っているようなジェスチャーを演じつつ、最前列に立っている俺のところまでやってきた。
「よし、発見。とまあ……こんな感じで、牙獣をみつけちまうわけだ」
俺の顔を見ながら得意げな顔で言ったあと、トニーは目と口を丸くした。
「おっと、こいつはファング違いだったな。失敬」
おどけた表情でそんなことを言うもんだから、今度はハンターたちからも笑いが起こった。
同業者はみんなオセロットを恨んでいるので、ここぞとばかりに俺を笑いものにした。意趣返しなら俺じゃなくて、本人に直接してほしい。
トニーは小声で言った。
「悪かった。今度、取り調べのときに飲み物でもおごってやるよ」
「それならストローを二本刺して、一緒に飲もうぜ」
「すまない。俺には惚れた女がいるんだ」
「本気じゃねえよ。ほら、さっさと話を進めな。上司がまた、おっかない顔してるぜ」
「市民に愛される警官はつらいもんだぜ」
俺たちは二人揃って肩をすくめた。
そんな和気あいあいとした雰囲気で、事前説明は進行していった。
ところが、最後の最後で―――。
「我々は通常、二人一組で行動するが、今日はそこにみなさんも加わってもらいます。つまり、三人でひとつのチームになって行動するわけです。とはいえ、みなさんはついてくるだけで構いません。なにしろ、お客様ですから。今日は見学でお願いしますよさて、何か確認事項はありますか」
「はい」
着物の袖口を左の手でつまんで、ましろが右手を上げた。
「同行している警官の方よりも先に見つけた場合は、斬ってしまってもよろしいですか」
その質問で、空気が凍りついた。
トニーは表情を固くしたが、どうにか平静を保てたようだった。
「ああ……その場合は、私たちに知らせてください。我々が対処します。よろしいですね」
「承知しました」
ましろは短く同意した。
頷きはしたけれど、たぶんこいつは牙獣を見つけ次第、斬りかかっていくだろう。
どうせ後から何か言われても、自衛のためと言えばそれでカタがつく。
そんなことは、参加してるハンター全員が同じことを思っている。
思ってはいても、言わないだけだ。
それを口に出してしまうのだから、せっかくのなごやかな雰囲気がぶち壊しだ。まったく困った女である。
そんなこんながあって、ようやく出発の時間になった。
だいたいこういうのはお決まりのパターンがあって、優秀なチームから先行する。
そんでもって、連れて行くのはお客様の中でも扱いに困るようなやつからだ。ようするに出来のいいやつが、問題を起こしそうなやつの面倒をみる、という仕組みであった。
「それでは、お呼びした方から前に出てください」
俺の予想していたとおり、一番手に選ばれたのはましろだった。
工場の通路に消えていく三人一組のチームを見送りながら、俺はマーガレットの姿を探した。
あいつ、やっぱりまだ来ていない。いったい、どこをほっつき歩いているんだか。
「あの……ファングさん、ですか?」
俺があたりを見回していると、着物姿の少女が声をかけてきた。
ましろと一緒に来た子だ。
以前に管理局でチラッと見たおぼえがある。ましろを避けるために俺はトイレに駆け込んだから、話したことはないけれど。
俺が頷くと、彼女は微笑んだ。
「よかった。いつも姉さんが……あ、いえ。お師匠様がお世話になっております」
赤毛の頭が、ぺこりと下がる。
「姉さん……?」
「ああ、いえ。ましろ姉さんがお師匠様になる前は、姉さんとお呼びしていたもので。それで今も、なんですけど。呼ぶときは姉さんでいい、って言われてて、そのクセが……です。はい」
「なるほど。それで。えぇと」
俺が言いよどんでいると、彼女はハッと気がついたようだ。
「あ。あの私、淡雪ひさめと申します」
「氷の雨で、氷雨か。いい名前だな」
「いいえ。緋色の鮫って書いて、ひさめです」
「…………」
「緋色の鮫って書いて、ひさめです!!」
「そ、そう……」
今、二回言ったよな、この子。
「あー、そうなんだ。緋色の鮫、ね」
「友達はみんな、スカーレットシャークって呼んでくれるんですよ」
俺はそんな呼び方したくないよ。
「そりゃ結構。親はどんな理由で、娘をその名前にしたんだ」
「あの映画、ご存知ですか? サムライVSスカーレットシャーク!! 今度、シリーズ十三作目が公開されるんです。復活したムッソリーニが、イタリアン忍法で戦いを繰り広げる場面が見どころなんですよ。うちのお父さん、あの映画の関係者でして」
「すまない。映画は詳しくないんだ」
「そ、そうですか」
本当は知っているんだけれど、俺は知らないフリをした。
だってあの映画、有名だし。でも、なんだか深くかかわっては、いけないような気がしたから黙っておくことにする。
「ところで、ひさめさんも参加するのか。演習に」
「いえ、私は違います。今日は姉さんを車で送りに来ただけです」
「ああ。あのすごい運転の」
「えへへ……私、車の運転まだ慣れてなくって。お騒がせしました」
ひさめは照れ臭そうに笑った。
ましろよりは、人当たりがよさそうな気がする。
笑顔に邪気がないというか、そんな感じ。
じつのところ今日は、ましろに会ったら聞いてみようと思っていた件があった。
ミリーの親父さんから聞いた、例の牙の騎士のことだ。
八本牙なんて、ありえなさそうなものについて、知っているなら教えてほしい。
正直、俺は半信半疑なんだが、あのケインズが嘘を言うとは思えなかった。
けど、この子に聞いてもわかるわけがないよなあ。
「あー……あのさ」
「はい?」
「最近、馬に乗った騎士みたいな牙獣が出るって噂、知ってる?」
ひさめはちょっと考えて、赤毛頭を振った。
「いえ。知りませんけど」
「そうか。ならいい。忘れてくれ」
俺は話題を終わらせた。
妙なことを口走って、この子を巻き込むわけにもいかない。
この件については、仕方がない。演習が終わったら、ましろに直接、声をかけて聞いてみるしかないようだ。
そんなことを考えて俺が気を滅入らせていると、ひさめはクスッと笑った。
「どうした。俺の顔に、何かついてるか」
さっきのサンドイッチの食い残しでも、頬にくっついてたりしたのだろうか。いや、さすがにそれはないか。
ひさめはパタパタと手を振った。
「いえ。笑っちゃって、すみません。ファングさんって、ましろ姉さんから聞いたとおりの人だな、って思っちゃって」
「へえ。どんな罵詈雑言が出てくるのか気になるな」
「とんでもない!! あの、ましろ姉さんはいつもファングさんのことばかり話してて……やさしくて、謙虚で、とか」
俺にはあの女の口から、そんな言葉が出てくるとは思えないんだが。
「それで、このあいだ……デートもした、とか」
おい。待て。
それ、ねつ造だ。どういう解釈したらそうなるんだよ。
「それは、その、誤解だ。誤解」
「そうなんですか?」
「だらか、それは……」
誤解をとくために説明しようとしたら、トニーが俺を呼んだ。
気がつくと、残っているのは俺だけだ。
他の連中はすでに出発済みらしい。すっかり話し込んじまったぜ。
「すみません。私ばっかり話しちゃって」
「いいさ。ちょうどいい暇つぶしになった。じゃあ、またな」
「はい!! ファングさんもお気をつけて」
俺はひさめに別れを告げて、トニーの元に向かった。
防護ベストとヘッドギアでフル装備になったトニーは、大声で挨拶してきた。
「ようこそ。ドンケツチームへ! これ以上は成績の下がる心配はないから、はりきってアゲて行こうぜ」
トニーの自虐ネタに、俺は苦笑した。
「おいおい。あんまり自分を悪く言うなよ」
「謙遜に決まってるだろ。俺は表彰だって、されたこともあるんだぜ」
「賄賂を受け取った金額で最優秀賞でももらったか? あんまり自分を下げるネタで笑いを取ると、おまえの相棒もいい顔しないだろ」
と、その相棒が俺のところにやってきた。
「こんにちは。本日は、よろしくお願いします。自分は……げっ」
「うへぇ」
どこかで見たおぼえのある、おっぱいのデカい警官を前にして、俺の口から思わず変な声が出てしまった。
---------------------------------------------
一人称の練習で書いています。
読みにくい部分が多く、たいへん申し訳ありません。
---------------------------------------------
・校正をなさってくださる方へ
お手数ですが、ご指摘等をなさっていただく際には、下記の例文にならって記載をお願いいたします。
(例文)
----------
>~(←ココに修正箇所を引用する)
この部分は、(あきらかな誤用orきわめてわかりにくい表現or前後の文脈にそぐわない内容、等)であるため、「~(←ココに修正の内容を記入する)」と変更してみてはいかがでしょうか。
----------
以上の形式で送っていただければ、こちらで妥当と判断した場合にのみ、本文に修正を加えます。
みだりに修正を試みることなく、校閲作業者としての節度を保ってお読みいただけると幸いです。
---------------------------------------------




