48.神の来訪
「こ、こんな辺境にようこそいらっしゃいました。アゼル様、ベルバ様、ラバーム様」
膝を付き頭を下げながら、クラリスは震える声をどうにか出す。
震える声は怯えから、怯えは目の前に座る神から。
見た目は人間とさほど変わらない彼らだが、しかしその力は比べるまでもない。生物としての格が、違うことが彼らの力を見なくとも分かった。
「本当だな。わざわざ第二十位を預かるこの私がはるばる大陸の端まで来たというのに、フンッ、こんなみすぼらしい街とはな」
「申し訳ありません。ですが私たちのできる最大限の待遇をさせていただきますので……」
「当たり前だ」
王国内でも有数の発展を見せるこの都市をみすぼらしい町。
自分の町をけなされたことに対してクラリスは怒りを覚えないでもなかったが、それを顔や口に出すほど愚かでもなかった。
彼らの前では人間界の権力など意味を持たない。機嫌ひとつでクラリスが処刑されることだってあるのだ。
「まあいい。私もこんなところに長居したくはないし、さっさと仕事を終わらせてしまうとするか。悪魔を追い出せと言うことだったが……私が倒してしまっても構わないのだろう」
「そうですな。王級と言えど、しょせん魔神の眷属程度。悪魔など我々の手にかかれば一ひねりでしょう」
アゼルの呟きに、ベルパが同調した。
「とはいえ自然迷宮はそう容易く踏み入れる場所でもない、か。……おい女。迷宮の情報持っている場所はあるか?」
「は、はい。それでしたら冒険者ギルドが迷宮の管理をしておりますので、そちらの方に行っていただければ情報も得られることと思います」
「そうか。ならお前、そこに行って迷宮のことについて……、いや」
アゼルが近くにいた天使に冒険者ギルドへ行くよう命じかけ、しかしあることを思い出してやめる。
「――冒険者ギルドには俺が行こう。自分の耳で聞いておいた方が正確だし、それに。フンッ、頼まれごともあったしな」
◇◆◇◆
さて、今日も来ました冒険者ギルド。
この数日間、やっぱ逃げようかな、と思ったことは数知れず。しかしずるずると決断を先延ばしにして、結局のところいつもと変わらぬ日常を送っていた。
僕の恒常性バイアス恐るべし。
「……やっぱ一時的に身を隠したりした方がいいのかな。でも怪しいしなあ……」
ぼやきながら素材の相場が書かれた板を眺める。まあなにが高くても、第二層に行くことには変わりないのだが。
「こっちから神の動向が知れないのが少しきついかなぁ。心構えとかあるし。……アリシャにでも聞くか」
「うっ。……あのご主人様にべたべたくっつく聖女様ですか」
僕の言葉に、クロが珍しく嫌そうな顔をする。
討伐作戦の後、アリシャが僕に会いに来る回数が格段に増えた。というかほぼ毎日来ている。
そしてスキンシップも激しくなった彼女が宿に来るたびに、なぜだかクロが少し不機嫌になるのだ。
僕としては仲良くしてほしいところだけど。
「……クロはアリシャの事嫌いなの?」
「そうではないです。ただ、アリシア様、ご主人様にべたべたくっつくから……」
「まあ故郷の人間は僕以外会えないからね。寂しいんだよきっと」
「でも……」
不服そうにうー、と唇をすぼめるクロ。
その頭をぽんと軽く撫でる。
「二人とも仲良くな。……じゃあ今日も第二層に――」
「――全員、傾聴!!!」
言いかけた言葉が、冒険者ギルドのドアを開けて入ってきた男の声に邪魔された。
白銀の鎧を身にまとったその男の命令口調の大声に、騒がしかった冒険者ギルド内が静寂に支配される。
すぐに賑わいが戻らなかったのは、入ってきた男の立場を理解したため。
白銀の鎧、そしてその鎧に刻まれている、この世界の人間ならば必ず覚えているはずであるその紋章。
天使。神に仕え、その身を護る狂信者。しかも男の鎧についてる紋章は、二十二いる上級神の内の一つだ。
静寂の中、一呼吸おいて天使が更なる言葉を冒険者たちに告げる。
「――まもなく領域神、アゼル様がお着きになられる!冒険者各位は地に膝を付き、これを迎えること!!」
やっっっっっっっば。
神が、来る。




