28.調査の依頼
教会からの帰り道、僕たちはギルドに向かっていた。
シードルに言われた、「大変なこと」を確かめに行くためである。
「悪魔の調査にみんなが駆り出されてるんだろうな……。高ランク冒険者もたいへんだ」
ランクの高い、具体的にはA、B、C級の冒険者は、ギルドからわずかな給与をもらっている代わりに強制依頼というものを受ける義務が課される。
場合によってはD級も駆り出されることもあるが。
E、F級については、役に立たない、無駄死の可能性が高い、あとは新人参入の問題などもあって義務はない。
ちなみに上に記されていなかった高ランク冒険者、S級に対しては、ギルドに対した義務などは一切課されていない。
S級ともなると逆にギルドに対して影響を与えられるほどなのだろうが、しかしたいていのS級はそう言った依頼には参加するらしい。
金欲しさでも名誉ほしさでもないというのなら、やはりそこまでに上り詰める冒険者たちは人格も伴っているということか。
そんなことを考えながら進んでいると、もう見慣れたといっていいギルドの建物が見えてくる。
何度も通ったことのある入り口を潜り抜け中へと入ると、僕に気づいた、おそらくはギルドの男性職員が近づいてきた。
「ああ、エルさんですよね。ちょうどよかった。今日はギルドにいらっしゃらないからどうしようと思ってたんですよ。ええと、そちらは?」
「ええと、彼女は……」
「ん?……ああ、奴隷でしたか。すみません、首輪の方が普通と違うものですから」
男性職員がクロの首についている、赤いチョーカーに気付いてそう言う。
クロがもともとつけていた隷属の首輪は僕が寝ぼけて壊してしまったのだが、さすがに首輪がない状態で街を歩いていたら逃げられたと勘違いされそうなので代わりの首輪を作っておいたのだ。
しかし、無骨な鉄の塊だった隷属の首輪に比べてそれはあまりにも小さかったために見逃されたのだろう。
ファッションのためのチョーカーと、奴隷であることを示すための首輪ではそれも仕方がないかもしれないが。
「それで、何ですか?そんなに慌てて」
「ああ、まあ大したことはないんですがね。今度、迷宮の調査が行われるの、知ってますか?」
「ええ、まあ。噂程度で聞いたぐらいですが」
依頼ボードを見ると、通常依頼の白い紙に重なるようにして大きな赤い紙が貼られていた。
ここから文字は見えないが、おそらくは特殊依頼。
シードルの言った通りだ。
「まあ普通は特殊依頼っていうのはC級以上が対象ですが、今回は人手が足りてなくてですね、D級も参加させることになったんですよ。そこでエルさんにも参加してほしくって……」
「え?」
疑問の声で男性職員の声を遮る。
「えっと、ちょっと待ってくださいね。D級以上が対象なんですよね?」
「はい。そうですね」
「ぼく、Eですよ?」
「え?」
男性職員が僕の言葉に目を丸くする。
何か行き違いでもあったのだろうか。
「……ちょっと待っててもらえますか?あれ?おかしいな……」
職員は首をかしげながらギルドの奥へ戻っていく。
そしてしばらくして、同じ職員が隣にルネさんを連れて、来た。
「すいません、少し行き違いがあったようで……。この職員が勝手に、その、エルさんを依頼の人員として参加させてしまったらしくて」
「ああ、そうなんですね。じゃあ僕は不参加ということで」
「ええと……」
僕の言葉を聞いた男性職員が、申し訳そうな表情をして口ごもる。
「その、もうエルさんを含んだ人数で計画を考えてしまってるので、できれば参加していただければ……」
「えぇ……」
露骨にいやそうな顔をすると、ルネさんが口をはさんでくる。
「いいじゃないですか。人手不足なんですし、使える人材は使うべきですよ。それに、三層程度の調査なんて、エルさん余裕でしょ?」
「ちょ、お前は……」
男性職員が全く反省していない様子のルネさんに、怒る、というよりかは呆れたように注意をする。
一方のルネさんはたいして気にした様子も見られないので、ということは普段からルネさんはこんな感じなのだろう。
「はあ、まあ、いいですよ。どうしようもないのなら。けど怪我のしなさそうな場所の調査に回してほしいですけどね」
もう計画ができてしまっているのならここで断っても仕方がない。
諦めて作戦に参加するとしよう。
さすがにギルドの方も、E級に対して過酷な要求はしてこないだろうし。
「ああ、ありがとうございます!こちらとしましても、なるべく安全な、一層や二層の調査に回させるようにしますので!」
「そうしていただけると。僕も実力不相応の場所に送られて死にたくはないので」
「……ただ楽したいだけでしょうに……」
ルネさんの呟きは聞こえなかったことにする。
「それでは、また後日、調査の説明がありますので、その時は必ずギルドにお越しいただくよう、お願いします。それでは」
そう言うと男性職員はルネさんについてくるように促すと、せわしなくギルドの奥へ戻っていった。
ギルド職員もいろいろ大変なんだなあとその様子を眺めていると、クロが心配そうに口を開く。
「あの……、調査、参加するんですか?」
「そうなっちゃったみたいだね。なんだったらクロは留守番でもいいけど」
「いえ、参加はさせてもらうんですけど、大丈夫ですか?その、今回は聖人さまと一緒に調査するんですよね」
「……?どういうこと?」
「だから、その、正体がばれたりとか……」
ああ、そういうことか。
要するにクロは、聖人経由で僕の正体が神に伝わってしまうことを危惧しているらしい。
が、その心配は、多分無用だろう。
「まあ、一緒と言ってもかなり離れて行動することになるだろうし、心配はないよ。もし近くに来られても、疑われているのならともかく、そんなこと露にも思ってない相手から正体を隠すのは難しいことじゃない」
「そうですか……」
言葉では納得したように言ったものの、クロの様子はまだ不安げだ。
さすがに心配しすぎなのだろうが、そこまでとなるとなんだか僕も不安になってしまう。
「ま、クロは心配せずについてきてくれればいいよ。危険があってもほかの冒険者とかが守ってくれるだろうし」
何せ僕はただ唯一のE級冒険者。
ほかの冒険者たちとの合同パーティーを組むことになるだろうから、心配はないだろう。
多分。




