表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/133

19.イースの魔法

 

「―――ッ!!」


 意識が現実に引き戻される。

 僕は近くに突然現れた魔力元を察知して、跳ね起きた。


「もう、何なんだよ一体……」


 数は三百から五百。

 そのすべてが魔窟の中層レベルの魔獣にも匹敵する魔力の持ち主だ。

 中には深層レベル、さらにはあの龍にも劣らない魔力を持ったものもいくらかいた。

 それらが一瞬にして、何の前触れもなく洞窟の近くに現れたのだ。


「いやいやいやいや、不運続きにもほどがあるだろ……」


 あの龍に引き続き、今回も。

 人生の不幸が一気に襲い掛かってきているんじゃないかと思えるほどの仕打ち。

 この理不尽な状況にふて寝したくなるが、そうしていても何かが解決するわけがない。


「はあ、つら……」


 とりあえず隠ぺいは全力で行っているので、ばれる可能性はないだろう。

 ため息をつくと僕は魔力のもとを観察する。


 空中に浮かんでいるものが数十、それ以外は地面に降りて何かをしている。

 指揮官らしき魔力元がいくつか。

 その内の数体は、あの龍のような謎の力をみなぎらせていた。


「あれは神、かな……」


 周りにたくさんいるものは、天使なのだろうか。

 何の目的で、と考えたところで僕は気づく。


 あそこは昨日、僕が龍と戦った辺り。

 その調査だろうか。


「あの龍、何か大物だったりするのかなあ……」


 神格化されて崇め奉られるような存在だったらどうしよう、と一瞬不安になったその時。



 ――神のうちの一人に、捕捉されたのを感じた。



 ぞわっと、背筋に寒気が走る。

 魔力無効も物理無効も、まるで意味をなさなかったかのように探知された。


「……まじか」


 気づかれた。

 龍を倒した僕がどういう扱いになるのかはわからないが、この洞窟に何かが来ることは間違いないだろう。


 どうしよう。

 イースをまた起こした方がいいのか、逃げた方がいいのか、いやもしかしたら感謝されるのかも、そもそも逃げるったって洞窟一本道だし、どこへ逃げるのか……。


「……ん?」


 僕が混乱していると、魔力の反応が一つ、また一つと消えていくことに気づく。

 いくらかもしないうちに、数人を除いたすべての反応が消え去った。


「いったい何だったんだ……」


 僕を補足した神も消えている。

 なぜ見逃されたのか。

 そんなことも分からないまま、神達は嵐のように現れ、過ぎ去っていった。





 ◇◆◇◆





 翌日。


 僕は家の外でイースを待っていた。

 昨日はほとんど気絶していたとはいえ精神的な疲れがあったのか、イースはいつもにもまして熟睡していた。


「訓練の約束の時間、ちゃんと言っといたのになあ……。よくあんなに眠れるな」


 僕は恨みがましく言う。

 昨日感じられた魔力のこともあってか僕はあまり寝れていない。

 そんなことも知らずにぐっすり寝れるイースをうらやましく思ったのもあった。


 イースが来ないのなら特にやることもない。

 家に入って寝て待つのもいいかもと思い始めたとき、ドアの開く音が聞こえてきた。


「すいません!ちょっと遅れました」


 そんな声とともにイースがこちらへ走ってくる。

 髪はぼさぼさで、起きてから急いで準備したことが見て取れる。


「おはよう、よく寝てたね。おいてあった朝食、食べた?」

「はい、おいしくいただきましたよ。……エルはあまり寝てないんですか?疲れた顔してますけど……」

「まあ、ちょっと寝れなくて」


 寝不足が分かるほどひどい顔してたのかと、僕は驚く。

 ずっと緊張しっぱなしだったから休めていないのは確かだけど。

 これが終わったら二度寝でもするか。





「そんなことより、さっそく訓練を始めよう」

「はい!お願いします」


 イースが元気よく言う。

 魔法を使うのが楽しみなのか、張り切っているようだ。

 とはいっても僕にできることは限られてくるんだけど。

 これだけは言っておかなければと、口を開く。


「まず最初に行っておくことがあるんだけど、僕は実は魔法についてはあんまりよく知らないんだよ」

「え?そうなんですか……。でもエルは錬金術とか防御の魔法とか、いろいろ使っていたじゃないですか」

「ああ、別に魔法が使えないってわけじゃない。ただ僕の使っている魔法は独学で覚えたようなものばかりだから、魔法のロジックとかはうまく教えられないってこと」


 魔法の系統とか、と続ける。


「だから本当に魔法を学びたいんだったら、街にでも行った時に専門家とかに聞くべきだね。僕にできるのは魔法の簡単な使い方だけ」


 そう告げてイースを見る。

 せっかく頑張ろうとしていたのに、やる気をがなくなっちゃったかなと思っていたのだがそうでもないらしく、イースはわくわくした表情を浮かべている。


「それでもいいです!頑張れば、エルみたいな魔法が使えるんですよね!」


 話聞いてたかと突っ込みたくなるが、やる気に水を差すのも悪い。

 うんそうだねと相槌を打って、僕は魔法の説明を始めることにした。


「じゃあ、魔法について、話していこうかな。イース、魔法ってどんなものだかわかる?」

「うーん、何でしょうかね……。魔法を使うと魔力を消費するってことしか……」


 イースが答えたのは一般常識にすら入らない、ひどく当たり前のこと。

 しかしそれだけで、魔法についての説明はほとんど終わったようなものだった。


「その通り。魔法とは、魔力を使って何かをすること。それだけなんだよ」


 魔法は幅広い。

 よくある、火魔法、水魔法といった様に分類されるであろう攻撃魔法にしたってそうだ。

 同じ魔力を使ったことなのに、炎を発生させる、水を生成する、魔法物質を作り出す、空気を圧縮するなど起こることは様々。

 起こることに一貫性がない。

 その法則によって分類することは可能だが、それにしたって多岐にわたる。

 要は物理法則から外れた現象を引き起こすことを、まとめて魔法と言っているわけだ。


「もっと詳しく言うならば、世界の理を書き換えるもの、という説明もできるけど」

「世界の理、ですか……」


 世界の理。

 つまりは物理法則だ。


 世界は魔法なんてものがなくたって存在できる。

 前世の僕の世界がそうだったように。

 しかし、この世界の物理法則にはいくつかの穴があることを、僕は能力を通じて理解していた。

 小さな、それでいて致命傷となりうるような穴。

 それを補うようにして、物理法則を成り立たせているのが魔法だ。


 世界の外側からこの世界を支え、物理法則に縛られない法則を持った力。

 それが魔法。

 物理法則が通用しないというのもそういうわけだ。


 ただこの世界の住人は常に魔法とともにある。

 魔法があって当たり前で、不思議に思うことすらない。

 物理法則と魔法の区別も当然あまりできないわけで、専門的に研究しているわけでもないイースにはわからないだろう。

 僕も物理学者とかではないので、あまりよくわかっていないし。

 能力を使っている中で、何となくそう感じただけだ。


「まあ、そんなことは気にしなくていい。とりあえず、魔力を法則に従って変形させていくと、魔法が使えるようになる。だからまずは、魔力をうまく制御できるようにならなくちゃいけない」


 魔力を制御して手順に従って放出すれば、あとは魔力が勝手に変形して魔法が使えるようになる。

 その変形の過程で魔法陣が現れる。

 僕はそれも手動でやっているために魔法陣が出ないのだが。


「イースの今の状態は魔力が駄々洩れになってる状態。それをうまく制御して、体に抑えておくことができたら次の段階に移動ができる」


 そこまで言ったところで、イースが困ったように手を上げた。


「でも、駄々洩れといわれましても、魔力の動かし方とかわからないんですが……」


 そこだ。

 それをどうするかを考えてなかった。

 僕が魔法、というか特殊魔法を初めて使えるようになったのは、パニックになってたからで。

 それは参考にならない。


「うーん。じゃあとりあえず、イースの魔力を動かしてみるからさ。それの感覚をつかんで頑張ってみてよ」

「そんなことできるんですか!?なんか恥ずかしい気もしますが……」


 制御もできていない魔力を操作することは簡単だ。

 ほとんどの生き物は魔力を無意識のうちに制御してるから、戦闘で使えるほど簡単じゃないけど。


「じゃあいくよ」


 そう言ってイースの魔力を動かし始める。

 一か所に集めたり、分散させたり。

 龍から感じていたのと似た力には手を出せなかったが。


「ん、っん」


 魔力を動かされると違和感を感じるのか、イースは吐息を漏らす。

 しばらくすると何かがつかめてきたのか、魔力が段々僕の操作に抗うような様子を見せ始めた。

 そろそろ大丈夫かと僕はイースの魔力への操作をやめる。


「どう?魔力を感じられた?」

「ちょっと動かすぐらいなら。……まだふわふわとしてつかみどころのない感じですが」


 普通の人なら生まれたころからやっている魔力制御。

 たいして難しくはないのだろうがそれにしたって呑み込みが早い。

 これなら魔力の制御も早めにできるようになるかもな、と思っていたら、イースの魔力が一か所に集まるのを感じる。


「ちょっと魔法が使えそうです!やってみてもいいですか?」

「うーん。まあ大丈夫かな。やってみな」


 危険か?と一瞬考えたが、初心者の魔法にそんな危険もないだろうと思い返す。

 一応洞窟が崩壊しないように、魔法の壁を張っておくか。


「いきます!」


 そんなイースの声とともに魔力が形を変える。

 そしてその場に、炎が現れた。

 僕が最初に魔法を使ったのと同じように。


「やっぱ炎の魔法って使いやすいのかな……」


 そんなことをのんきに考えていた僕だったが、あることに気づく。


 ()()使()()()()()()()()()

 それはつまり魔法陣が出ていなかったということで、ということは……。


 魔法の理からも外れた特別な魔法、特殊魔法。

 それも……


「――創造の、魔法?」


 そう、あの龍が使っていたのと同じ。

 イースが使ったそれは、創造魔法だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ