8.魔獣の群れの殲滅
エル視点に戻ります
飛び立ってからそんな時間もたたないうちに、僕は動物を何匹か狩り終えて洞窟にある家へと戻っていた。
上から見ればどこに何がいるか簡単にわかるため、本気を出せば狩りなんて一瞬で終わる。
ただ、久しぶりの外だったので少し疲れてしまった感はあった。
特に太陽の光に当たりっぱなしってのはまずかったな。
「……少し寝ようかな」
動物を食糧庫のほうへと貯蔵し、保存魔法をかけ終わったあたりで僕はそんなことを考える。
イースには危険になったら僕の名前を呼ぶように言ってあるから大丈夫だろうし。
僕の特殊魔法はあらゆる力の解析、操作、創造。
声が聞こえなくても「エル」という種類の音声の、微細な振動も感知することができる上に、寝ていてもその能力を発動させ続けることができるので問題はない。
一定以上の振動は関知しないようにしているので、普段のしゃべり声の、たとえば「カエル」などを呼ばれたと間違えることもない。
相変わらずものすごい能力だよなあ。
それだけに使いこなすのも大変だったけど。
僕は魔窟でのあのつらい日々を思い出し、懐かしさを感じながらも二度寝を続行すべく部屋へと戻ろうとした。
その時だった。
――高濃度の、魔力を感じた。
能力の届く範囲内に高い魔力量を持つもの、おそらくは魔獣が入り込んだのだろう。
それ自体は特に珍しいことでもない。
ここは魔窟の近くなのだし、その外縁あたりに生息している弱めの魔獣が外に出ることもよくあることなのだから。
最も、弱いというのはあくまで魔窟レベルの話であり、外の世界で言えば割と強めの部類には入るのだが。
しかし、今回は違った。
「魔窟の……中層レベル?」
そう。
僕の感じた魔力量はめったに外界に現れることのない、魔窟でも生き延びることのできるほどの力を持った魔獣のものだった。
しかもその数は一つではなく、あちらこちらに、複数存在する。
最悪の、魔獣の群れだ。
「……一つ、こっちに向かってきているのがあるな」
その内の一つ、中層レベルの魔物たちの中でも一際多い魔力を持っている魔獣が、僕の方へ向かってきている。
というか、もう洞窟入り口にまで到達していた。
すごいスピードだ。
「うーん、僕に気づいたのかなあ」
それにしても僕は魔力量が少ないんだから、魔獣たちにとっては大した脅威に感じられないはずなんだけど。
僕はのんきにそんなことを考えつつ、家の外へと出る。
魔獣は、洞窟の最深部にまで到達しかかっている。
そして、ついにその姿を現した。
人と馬が一体化したような奇妙なフォルムをしたゾンビ。
体のところどころが腐ったようにボロボロになっており、その瞳は生そのものを憎悪するかのように鈍く光っている。
ゾンビキャバリエ。
冒険者組合におけるランク付けの最上位、S級の魔獣の一つにも数えられる伝説級の化け物だ。
普通ならばであっただけで死を覚悟しなければいけないほどの、強力な魔獣。
しかし
「――動くな」
ビタァッ‼と。
その一言でゾンビキャバリエの動きが止まる。
外界では最強級の、魔獣の動きが止まる。
別に口に出して言わなくても能力は使えるのだが、そこはまあ、雰囲気というかなんというか。
やったことといえばゾンビキャバリエが出すすべての力を、片っ端からゼロにしただけ。
シンプルだが、効果は高い。
「さて、会話はできなさそうだしさっさと倒してしまうか」
高位の魔獣の中には高い知性を持ち、言葉を話せるものもいる。
もし会話ができるのならここへ来た理由を聞いてみようと思って動きを止めたのだが、その必要はなかったようだ。
手のひらをかざし、風の刃を作り出す。
一メートル前後の長さを持つその刃は空気を咲くようにして飛翔し、ゾンビキャバリエの体を真っ二つに切り裂いた。
一撃。
たったそれだけでゾンビキャバリエは恨めし気な叫びをあげ、暗い霧となって消えた。
「外にもまだたくさん残っていたな。さっさと倒してしまうか」
僕はゾンビキャバリエの消えた後を見ながらそう言うと、洞窟の外へと出ていった。
「群れが一つとはぐれが何匹かいる。……村に向かっているのか」
僕は再び空の上から森を眺めていた。
さあ、どうしよう。
魔獣を倒そうかと外に出てきたのはいいものの、どうやって倒そうか。
運の悪いことに、魔獣たちのほとんどが村へと向かっている。
ぱっと見た限りだと村には冒険者組合の建物がなかったようなので、このまま魔獣が村へ到達すると村人たちはなすすべもないだろう。
仮に冒険者がいたとしてもどうにかなるとは思えないが。
「イースにひどいことをしていた罰だとも取れるかもしれないけど……。それはあの村人たちが特別に悪いわけでもないからな……」
忌み子への差別は世界の常識。
村人たちはその常識に従ったまでだ。
嫌悪感がないわけではないが、村人をみすみす見殺しにするのは後味が悪い。
しかし、魔獣はものすごい速さで村の方向へと向かっている。
魔獣が一匹でも村に到達すると悲惨な状況になるのは間違いないので、すべてを一気に倒すしかない。
ただ、群れのほかにもはぐれの魔獣が広範囲にばらけているので、それらを同時に倒すことは難しいだろう。
「んー、森だから燃える系の魔法はだめだしな。風の刃のやつも射程がなあ」
重力で押しつぶすにしてもイースが巻き添えになりかねないし、十数匹の魔獣の動きを止めるのはめんどくさい。
「まあ、あれでいっか」
そう呟くと、煌々と輝く光の塊を待の前に現す。
そして、その塊から幾本もの光の筋が地上へと降り注いだ。
光の筋はくねくねと曲がりながら魔獣を追いかけ、その頭上に到達すると魔獣を覆い囲うように固まる。
光檻。
魔獣たちが使う魔法を混ぜ合わせ、僕が作ったオリジナルの魔法。
高濃度の魔力を追いかける、追尾型の捕獲魔法だ。
「無理無理。その中からは逃げられないよ」
自分を囲うようにして突然現れた光の檻に、魔獣たちは脱出しようと攻撃するが、光の筋はびくともしない。
魔法攻撃をあてるものもいたが、それらのすべては檻に当たった瞬間に消滅していた。
脱出不可能、破壊不可能の光の檻。
すべての魔獣はその檻に捕獲され、見動きが取れなくなっていた。
「村人たちが間違えて捕まった様子もなし、会話ができそうな魔獣もなし。よし、倒してしまおうかな」
そう言うと、光の筋の性質を変える。
捕獲用から討伐用へ。
剛から鋭へ。
熱をも帯びて触れる者すべてを切り裂く刃となった光の檻は、徐々にその範囲を収縮させて容赦なく魔獣を切り裂いていった。
硬いうろこを持つ魔獣も、実態を持たないアンデッドも、すべてが例外なく焼き切られていく。
そしてついに、森中からすべての高魔力反応が消えていった。
森中に魔獣の肉がかけ焦げたような、嫌なにおいが広がる。
「う……、この魔法使ったの失敗だったかな」
その匂いに顔をしかめながら、僕はイースの姿を探す。
魔獣が倒されるとこ見てなければいいけど。
あれ結構グロいからなあ。
そう思いながら空から森を見下ろしていると、村の周辺でイースが立っているのを見つけた。
ただ、イースは一人だけではない。
「ん?ほかにも誰か……」
一人の村人が、イースの近くに立っていたのだ。




