59.空間神との戦い 5
(適応してきたか……)
「切断」――三次元空間を文字通り切り取り奈落へと転送させる、自身の持ちうる最高の攻撃魔法。それを見事に避け、あまつさえ防ごうとした敵を、ウォルトは見上げながらそう思う。
引っ掛かりがあった。硬度を無視し切断する魔法に抵抗が現れたということは、そう言うことだ。
適応し、干渉され、支配されようとしている。このまま長く戦っていたら、それは確実な現実としてウォレスに襲い掛かるだろう。
「――光爆、土檻、光鎖」
「……っ!炸裂」
目くらましに一瞬視界を奪われ、その間に土の壁がせりあがる。ウォルトを覆いかぶそうとする土壁を半ば自爆気味の炎魔法で吹き飛ばすと、爆風から身を護るために作った見えざる壁に光の鎖が絡みついた。
慌てて壁を解除、鎖から逃れるために転移する。
(今のは確認か。……弱点も露呈してきている)
壁は次元を隔てるもの。単なる攻撃は効かないが、故にウォルト自身の行動も制限される。例えば、守られた状態からでは転移ができない、などだ。
そのため、守りに沿うようにして罠や遅効性の魔法などを仕掛けられると厄介だ。
転移しようにも守りに阻まれてできない。守りを解除しようとすると、外に仕掛けられた魔法が直撃してしまう。
事実上ウォルトを、自身の能力で作り出した守りに閉じ込めることが可能なのだ。
「……見誤っていたか」
ギリッ、と。ウォルトは歯を軋ませる。
すぐに決着がつくと思っていた。
相手の攻撃はこちらには通じず、こちらの攻撃は相手には防げない。圧倒的有利な状況だったはずだ。
空を飛んで逃げるという手は使われたもののエレーナの監視によって場所は割れていて、攻撃を続けていればいつかは相手がミスを起こし倒しきれると思っていた。
ところがどうだ。
徐々に特殊魔法に適応され、翻弄される。あまつさえ、エレーナも何らかの攻撃を受けたようだ。
このまま続けていたら倒せるどころか、自分の方が……
「(――ウォルト、聞こえる?)」
ふいに、エレーナから通信が入った。
「(……なんだ)」
「(今、天界の伝達神から連絡があったわ。討伐は中止、第一位からの命令よ。それと……第五位がお怒りだわ)」
「(……そうか)」
一言告げると、通信を切る。
分かっていた。
この討伐は自分の独断であり、エレーナもそれをよく思っていない事。そして気を付けてはいたが、エレーナが誰かに討伐について知らせたこと。それを知った時、絶対に阻止しようとする最高神がいるということ。
エレーナも大々的には動けなかったはずだ。だから少し時間があった。それだけあれば討伐は簡単だと思った。
しかしもう、タイムリミット。
どうやったかは知らないが、第五位は第一位を説得したらしい。
上位の神からの命令は、絶対。これ以上、討伐を続けることはできない。
「……最後だ。――『崩壊』」
言うとウォルトは、魔法の準備を始める。
第一位の命令は、まだ直接伝えられたわけではない。だから従わないことも当然できる。
ばれたら大目玉だ。しかし最後の一撃ぐらいなら、弁解の余地はある。それにどうせあの方はまた休眠中だろう。
このまま彼が第二位に就いたら、第三位である自分は終わりだ。どうせ終わりなら――
「――運を、天に任せてみないか?」
直後、空間が崩壊する。
「崩壊」。周囲一定の空間をランダムに壊す、制御不能のウォルトの切り札。制御不能より、ウォルト自身にも被害を及ぼす可能性のある危険な魔法。
生き残れる可能性は半分。敵も同じ可能性だ。
崩れ行くように景色が割れ、覆い隠すように暗黒が生まれる。かと思えば土砂が天空に転移し、大量の土煙を上げながら大地に落ちる。
赤ん坊に遊ばれた後のように、あたりがぐちゃぐちゃにかき混ぜられる。木々が倒れ、その上に土がかぶさっているような、そんな惨状の中――
しかしウォルトは、生きていた。
「……生き残ったか。運がいい」
うまく空間の崩壊から外れてくれた。ちょっとでもどこかの崩壊がずれていれば、それに巻き込まれてただでは済まなかっただろう。
しかし敵も、同じように生き残っている可能性がある。
「……これで生き残っていたのなら、もう諦めるしかないだろうな」
これ以上の追撃は、命令に逆らったとみなされて処分されかねない。
どうか生き残ってくれるなと心の中で思いつつ、ウォルトは転移を使った。
◇◆◇◆
「……あっぶねー。何だったんだ今の」
エレーナから「勝ったわよ!」と通信があってすぐ。
ウォルトからの攻撃が止んだかと思えば、次の瞬間これまでとは比較にならないぐらいの無差別攻撃が起こった。
運よく範囲外に逃げることが出来たが、巻き込まれていたら死んでいたかもしれない。
「最後の悪あがきってことか……」
悪あがきにしては、破壊力ありすぎだが。
龍神のブレスと引けを取らないぐらいの破壊の痕跡が残ったのを、僕は上空から眺める。
これを見ると、どうしてウォルトと戦えることが出来ていたのか分からないぐらいだ。龍神の時もそうだったが、ほんとにどうして勝てたんだろ。
「まあ、運がよかったってことで。……で、ここどこ?」
さてウォレスという脅威は去ったはいいものの、どこかわからない場所に一人置いてけぼり。
転移してこなかったクロは無事だろうかと心配しつつ、僕は凄惨な現場から踵を返した。




