三人目
「つまり、三人目か」
「はい。一人は件の時間、水神の神殿の寝室から起き出し、世話役の侍者と談笑しているところを複数の神官が確認しています。そもそも原本を持っているのですから、盗む必要はないかと。もう一人は問題の曲者を追撃し、刃を交えているのを多数の者が目撃しました。容疑者から外してよいでしょう」
そこは星神の神殿の一角。緊急に屏風で区切られたそこでは、集った港町の要人たちが敷物へ座り、会議を持っていた。
通常、重要な案件は各評議員が持ち回りで議場を提供する。されど今回は現場ということでここが議場となったのである。
議題は、盗み出された品物。そして下手人たる首なし騎士についてであった。
「問題の魔導書は、19年前に押収された鋼の戦神関連のものばかりなのですね?」
「厳密にはそれだけではなく、大賢者が記した高位の魔法に関するものも含まれている。だが、あそこを故意に狙った以上は鋼の戦神が狙いなのはほぼ間違いあるまい」
「原本はどうか?」
「水神の神殿で管理人ともども保護しています。今のところは大丈夫でしょう」
「しかし厄介ですな。あの量の書を根こそぎ運べたとなると、強力な魔法使いが背後にいるのは間違いありません」
「なんということだ。また神獣騒ぎのような大事になるのはごめんですぞ。衛士による追撃は?」
「撒かれました。かなり巧みな操船です。もっとも、神獣騒ぎの例を挙げるまでもなく、ただの人間では首なし騎士に勝てません」
「つまり、我々は持ちうる最強の討手を差し向けねばならぬ、と……?」
「でしょうな。今のところは敵が大河を南下したのは分かっています。人海戦術で目撃例を探しましょう。奪還は彼女らに任せるのです」
「やむを得ぬ、か」
こうして、決が下った。
◇
追手を振り切ったことを確認し終えると、曲者―――第三の首なし騎士である女戦士はため息をついた。
忌々しい。人質さえなければ誰がこのような穢れ仕事など。
首なし騎士の素材は、首の切断が死因となった強靭にして高潔な武人である。彼女らは生前の自我を保ち、自発的に活動していた。強烈な自我こそが彼女らの強大な力の根源である。そんな彼女らを従わせるには、納得させるか、魔法で別途その魂魄を縛るか、あるいは脅迫するか。
彼女を縛るのは第三の方法だった。
それにしても。と彼女は思う。
あの追手。まさか街中で同族に追われるとは。
羨ましかった。このような体に成り果ててもまだ、光の道を歩めるあの同族が。
彼女は船頭にひと声かけると、体を休めることとした。まだ夜だが、陸に上がれば次はいつ休めるか分からない。着衣を脱ぎ捨て、流麗だが首の欠けた肢体が露わとなる。
体を縄で船体につなぐと、彼女は水の中へ飛び込んだ。




