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Avalon Rain ~終焉の雨と彼女の願い~  作者: 音無 一九三
第二章【襲来のイクリプシアと動き出す歯車】
49/53

17 月夜の邂逅 3

「──ッ!!」


 驚愕──。それ以外の何物でもない。

 それは、まるで丁寧に積み上げられた石垣の、その僅かな隙間に的確に楔を打ち込まれてような、そんな衝撃だった。


「……おい、ラーノルド。その話……冗談にしちゃあ…性質(たち)が悪いぜ…? 訂正するなら、今の内だ…」


 クラノスの表情は、異常な程に強い怒気を孕んだものとなっていた。



 そうだ、冗談ならば、本当に性質(たち)が悪い。

 そうだろう。何故なら、唯一"時間超越(クロノシフト)"無しで冥力を扱えるクラノス・ローラテイズは、そうなるべくして改造された(弄くりまわされた)人物なのだから。


 その当人を前にして、その事実を知る者として、そんな言葉は嘘でも口にしてはならない類いのものだった。


 現に、クラノスの両手は軋む音が聞こえてくるほどに固く結ばれ、仮にここで冗談だと言ったところで、まず間違いなく殴り飛ばしていたことだろう。



「…オレがそんなめでたい奴に見えるか…?」


「……」


 そんな怒りを顕にしたクラノスを真っ向から見返し、静かにラーノルドが応える。


 それだけで、クラノスには今の発言が、まるっきり根拠のないものではないことがわかっていた。


「……グラディス達の忘れ形見に冥力だァ…? あるわけねぇ…。……だが、そう言うからには、少なくともお前はそれを見た、ということだな…」


 無言で、ラーノルドは小さく頷いた。



「"時間超越(クロノシフト)"を持たざる者が冥力を持っているなんてのは、いつ弾けるかわからねぇ爆弾を抱えてるようなもんだ。この上なく危険だ」


「わかっている……。だから、お前に話したんだ」


「……詳しく聞かせろ」


 再び頷いて、ラーノルドは静かに話を始めた。



「あれはいつだったか……。あいつが、騎士になると言い出して、マキナ殿に弟子入りしてしばらくの頃か…。アルフがな……変な力が使えるようになったと言ってきた」


 その時のことを思い出すように、ラーノルドは俯いて、目を閉じる。


「その日の夜のことだ、その力を見せられたのは。何でも夜にしか使えないらしくてな…。そして目の前で行われたのは、実体を持った黒い剣を創り出す、というものだった」


「実体を持った……? おい、いくらオレでも、そんなことは出来ねぇぜ? 実はイクリプシアだった、ってぇ方がまだマシな話だ。本当にそれは冥力か?」


「お前の冥力をずっと見てきたオレだ。間違いない……。確かにオレには魔力感知の才能はないが、それでもわかった。まず、あの時アルフを包んでいた魔力の光は……黒かった。そして、実際に創り出した剣で試し斬りをさせた鎧は、『否在現象』を起こして消滅した」


「……確かにそれは、冥力の特徴には違いねぇな…。だが、夜しか使えねぇってのは、意味がわからねぇ」


「……その力は、アルフ個人の能力というよりは、兄貴達の形見によって無理矢理に引き出されるものらしい」


「形見……?」


「ああ。およそこの世の人間の業とは思えないような彫りや装飾の施された、黒いロザリオだ」


「……!」


 下を向いていたラーノルドは気づいていなかった。その時、クラノスが『ロザリオ』という言葉を聞いて、目を見開いたのを。


(ロザリオ……ロザリオだと…!? まさか……まさか…!)


 クラノスには、覚えがあったのだ。


 如何に冥力と言えども、実体を持った剣を創り出すことなど出来はしない。

 だが、しかし──それでもたった1つだけ、例外がある。


 彼は知っている。それを。「赤月 玲」を、かつてその身に宿していたクラノスだからこそ知っている。

 だって、それは「赤月 玲」がこの世界に持ち込んだアイテムなのだから。



「試しにオレも使ってみたが、オレにはまるで扱えなかった。確か……マキナ殿で辛うじて、だったか…」


「……おい、ラーノルド。そのアルフってのは、時々未来をみてきたかのような言動や、訳のわからない単語を口にするような時はねぇか?」


 ラーノルドの言葉に返ってきたのは、それまでの会話からは何の脈絡もないものだった。


「どういうことだ?」


「いいから答えろ。これは大事なことだ…!」


「……いや…それはないな。アルフは寧ろ、いつも何かと振り回されてばかりだしな…。そういう"時間超越(クロノシフト)"に目覚めた様子もない」


「……」


 それを聞いて、クラノスはため息を漏らした。


 クラノスの質問の意図はラーノルドにはわかる筈もないが、その意図は極めて単純だった。


 もし、アルフ・トゥーレリアが未来を知っているような素振りを、そしてこの世界に無い筈の知識を有しているような節があったのなら、それは見つけたことになるからだ。



 今代の、「赤月 玲」の依代を。

 あの「赤月 玲」の依代ならば、この世界を終焉に導く運命の収束を、『平行世界の収束点(パラレル・エンド)』を越えるまで、何度も何度もその時代をやり直す。


 そして、「赤月 玲」と、これまで彼が宿ってきた依代の記憶も持つことになる。


 幾度も幾度も同じ時間をやり直せば、未来がわかっているような雰囲気は、嫌がおうにも匂ってくる。


 そして、それと同じように、ふとした瞬間にこの世界ではあり得ないような単語が出てきたりする。



 クラノスにとっての最大の懸念は、その「赤月 玲」の宿主を見つけることだ。

 その一手が、どうしても必要なのだ。



 だが、ここに来て、もう一つのとてつもなく重大な情報が示唆された。

 それが、ロザリオだった。


 もし、もしもそうだとすれば、ラーノルドの言ったように、実体を持った剣を創り出す等という力が本当にあるのならば──。


(…だとしたら、そのロザリオは…『天魔の十字架(ヒュムネクロイツ)』…!)



 だが、同時に解せないことがあった。

 ラーノルドは言った。「マキナ殿で辛うじて」と。


 マキナ・アイゼントは、クラノス・ローラテイズの1つ前の「赤月 玲」の依代だ。


 そのマキナが、辛うじてしか使えない──?



(どういうことだ……。それが本当に『天魔の十字架(ヒュムネクロイツ)』なら、"時間超越(クロノシフト)"の所有者なら辛うじて使える、というのは頷ける。だが、マキナのじじいは「赤月 玲」の依代だった男だぞ…。そこいらの"時間超越(クロノシフト)"の所有者とは訳が違う。それが、「辛うじて」だと…? それに……黒いロザリオ…? ……あれは確か、銀色だった筈だ。ならば……別物なのか…?)


 しかし、それ以外には考えられなかった。

天魔の十字架(ヒュムネクロイツ)』以外で、冥力を自在に引き出し、あまつさえ実体のある剣を創り出せるものなど、この世界に存在する訳がなかった。


 なればこそ、そのロザリオは『天魔の十字架(ヒュムネクロイツ)』に違いない筈だ。その筈なのだ。



 ──だがしかし、第一何故そんなものを、グラディス達は持っていたのか。

 あれは「赤月 玲」が処刑されたあの日(・・・)に、失われた筈だ。


 彼が殺されたその時に、あの大陸ごと(・・・・・・)無くなった筈だ。



 まるでわからない。



 それに、何故色が変わっている……?

 時代の流れで変色した? それとも、何らかの要因で色を塗られた?


(……夜にしか使えないということが、その変色と関連しているのか……? 何れにせよ…)



 ──確かめる必要がある。それが、本当に『天魔の十字架(ヒュムネクロイツ)』なのかどうかを。


 それがもし、本当に『天魔の十字架(ヒュムネクロイツ)』ならば……事態は大きく変わるのだから。



 何がなんでも、確認してしなければならない。



 これは、「赤月 玲」の今代の依代を捜すことと同じくらいに、重要なことだった。

 そして、もし──もしも、アルフ・トゥーレリアの持つロザリオが『天魔の十字架(ヒュムネクロイツ)』で、そして彼こそが「赤月 玲」の依代ならば──。



 やがて、クラノスは視線をラーノルドに向け直して、静かに言い放った。


「……ラーノルド。そのアルフ・トゥーレリアを、オレに会わせろ」


「なっ……オレはあいつをヴァスタードで戦わせるような真似はしない!」


 クラノスの言葉に、ラーノルドは思わず立ち上がってそう叫んだ。

 確かに助言を求めたかったのは事実だ。だが、それでアルフがヴァスタードに渡ることになってしまっては、本末転倒だ。


 ラーノルドは、何があってもアルフを護るつもりなのだから。


 だが、クラノスはそうじゃねぇよ、と首を振った。


「さっきも言っただろうが。オレだって、グラディス達の忘れ形見にここで戦わせるような真似はしたかねぇ。そうじゃねぇ。そうじゃねぇだろ」


「……どういうことだ」


 思わずクラノスの胸ぐらを掴みかけそうになっていたラーノルドは、そう言って、釈然としない表情で座り直した。



「…どういう事情で転がり込んだのかはわからねぇがな……。オレが知っている物とそのロザリオが同一の物であるならば、そいつは極めて危険な代物だ。だから、確認する必要がある。それがオレの知る物と同じなのかを。そして、それを平然と扱うアルフ・トゥーレリア自身についても、調べる必要がある」


「……だが」


「いいか。これはお前のかつての友としての言葉だ。もし万一、オレの想定していることが正しいのだとすれば、事態はテメェが認識しているより遥かにヤバいんだよ。既にそのガキの身体に、何らかの影響が出ていておかしくねぇんだよ!」


「影響…だと?」


「そうだ影響だ! いいか、お前の語り口じゃ、あのマキナのじじいすら満足に使えねぇ代物を、そいつは普通に使えるんだろ? それだけヤバい代物を、平気な顔して使えるんだろ? "時間超越(クロノシフト)"も使えねぇってのによォ。オレも現状じゃあハッキリとは断定出来ねぇがな……最悪、いずれアルフ・トゥーレリアは冥力に呑まれる。『否在現象』なんて生ぬるいものじゃねぇ、時空の歪みそのものになるかもしれねぇ…! オレを見てきたお前なら、それがどれだけ最悪の事態か、よくわかんだろうが!」


「──っ!!」


 ラーノルドの背筋に、冷たいものが走った。

 アルフが、時空の歪みになる。


 それはつまり、アルフの存在そのものが、『否在現象』を撒き散らす強大な歪みになる、ということだ。


 アルフが、本当の意味で、取り返しのつかない化け物になってしまうと、そういうことだ。



 冥力の暴走は、恐ろしい被害を招く。

 いや、被害なんて言葉では生ぬるいだろう。


 何せ、あらゆるものを呑み込み、道理をねじ曲げ、摂理を歪め、理を消し去り、ありとあらゆるものを存在ごと無に返す。


 そして、時にそれは時空にまでも波及する。


 ラーノルドは、知っている。何故なら、見てきたのだから。

 目の前に座るクラノス・ローラテイズは、それらは乗り越えて今に至るのだから。



「……会わせるにしても、どこでだ?」


 やがて、ラーノルドはそう呟いた。

 確かにクラノスの言う通りの危険性があるのなら、それはクラノスにしかわからないだろう。


 クラノスに、頼らざるを得ないだろう。



「オレは基本…ヴァスタードを離れることが出来ねぇ。だが、単に会うだけならまだしも、そんな代物についてとなれば、この街中で事を動かすのはとにかくヤベェ。それはテメェもよくわかるだろう?」


「……なら、どうするというんだ? ヴァスタードを離れられないお前が…どうやって……」


「……お前を信用して話してやる。オレの個室には、とある秘密の場所へと繋がる特別な『転移魔法陣』がある」


「お前……いつの間にそんなものを…」


「絶対にそれについて、誰にも口外するな。その対価として、ガキの状態を見てやる。ここに来る理由は、テメェで何とかしろ」


「……わかった。この後オレは、お前のお陰で予定より1日遅れだが、ダルタネス大陸に渡る。そこで手始めに、イクリプシアを叩くつもりだ。……恐らく、今この時にも戦死者は出ているだろう。それら死体、及びイクリプシアの運搬のために、アルフを寄越そう…」


「……あ? 何だそりゃ。そいつ1人で、まさか『ラグネアラ結晶』を宿した死人を全て運んでくる、とでも言うのか?」


「……あいつの収納は、底が知れん。1人で何十、何百人の収納使いを越える働きをするだろう」


「……」


 押し黙るクラノス。

 冥力も使えて、『天魔の十字架(ヒュムネクロイツ)』と思われるロザリオを使えて、その上底の知れない収納魔法まで使う。


(──何がどうなっていやがる…! いくらグラディス達のガキだとしても、そりゃあ出来すぎだろうが…!)


 確かに、グラディス・トゥーレリアは有能な騎士だった。流石はラーノルドの兄と言えるだけの、素晴らしい騎士だった。


 そして、その妻フローラも、それに並び立てるだけの女だった。


 それでも、それにしたって…おかしい。明らかにおかしい。異常だ。特異過ぎる。

 完全に、逸脱している。



「……それでいい。今後のことについては、オレから連絡を入れる。お前から連絡を入れられても、こっちが取れる状況とは限らねぇからな」


 クラノスが秘密裏に会話をしようとすれば、まず彼を取り巻く監視をどうにかしなければならない。

 監視がある時は、どうあっても『ヴァスタードの最高権力者──クラノス・ローラテイズ』であらなければならないのだから。


「……わかった。オレの方の準備が終わったら、エルティア関連のメッセージを一通送る。それが、こちらの準備が整った合図だ。その後、お前のタイミングで連絡をしてくれ」


「ああ。わかった」


「だが、その特別な場所とやらへアルフを連れていくことが、出来るのか?」


 クラノスはヴァスタードの最高権力者だ。その男が、ただのCランク騎士と個人的に接点を持つ等ということは、どうにも不自然ではないだろうか。


 そんな心配から来た言葉だったが、それは無用な心配であった。


「あいつの親は誰だ? オレの親友だろうが。親友の忘れ形見に、会って話をすることの何が不自然だと言うんだ?」


「……ああ、そうだったな…。わかった」



 ラーノルドは、それから静かに、僅かだが頭を下げて言った。


「……すまないな、クラノス」


「…あ?」


 唐突に切り出された謝罪の言葉に、クラノスは眉を潜めた。

 目に入った、首を起こしたラーノルドの表情は、何とも言えない、どこか悲痛なものだった。



「本当は……オレが何とかしてやりたい。オレは…あいつの親代わりなんだから。兄貴達に、託されたんだから。……だが、オレには冥力は無い。収納魔法も使えない。……本当の意味で、今あいつがどんな苦しみや憤りを持っているのか…理解してやれない…。出来ることは、せめて平穏な暮らしを与えてやることくらいだ…。そんな自分が、時々情けなくなる」


「……」


 クラノスは、しばらくラーノルドを見て、それから唐突に立ち上がった。


「ふん、テメェにそこまで思われてんだ。グラディス達の忘れ形見も、幸せに思ってる筈だ。それで十分だろうぜ。グラディス達への手向け代わりだ。今回はお前に、全面的に協力してやる。かつての友としてな。……じゃあな」


 それだけ言い残して、クラノスは腰の鞘から短剣を抜き放った。

 なんてことはない、どこにでも売っていそうな短剣だ。


 その短剣を、自身の肩から脇腹を斬り裂くように振るう。



 その軌跡が黒い闇をもたらした。

 そして、闇は広がっていき、クラノスの姿を呑み込んで、そして後には何も残らない。


 これが、クラノス・ローラテイズの"時間超越(クロノシフト)"。


 斬った対象を5分以内の未来へと飛ばす能力。斬られた対象はすぐさま消え、5分以内の間の指定された時間に、その時と同一座標上に姿を現す。


 "今"に起こる事象を一時的に棚上げし、"未来"へ送る能力。


 だが、一つだけ例外的な使い方がある。


 自分に対してこれを行うと、少々違った作用になるのだ。

 5分以内の指定した時間までの間に、自身の身体能力で移動出来る距離ならば、移動した場所に出現出来る、というものだ。


 つまり、仮に3分後を指定したとすれば、その3分で移動しうる範囲であればどこにでも、指定した3分後に突如として姿を現すことが出来るのだ。


 この部屋にやって来た時の手法も、それだ。


 この"時間超越(クロノシフト)"があれば、暗殺だってお手のものだ。気づいた時には、後ろに立たれていて、その首筋に刃を当てられているのだから。


 そういう意味では、戦闘に用いる場合、クラノスの"時間超越(クロノシフト)"は、実質的に最強とも取れる。


 自身にとって不都合な攻撃──つまり、回避が間に合わないような攻撃は、その力で未来に飛ばし、そしてその力でもって不意討ちする。



 単純な戦闘力を見ても、化け物のような男だ。そんな男が、こんな"時間超越(クロノシフト)"を持っていれば、鬼に金棒もいいところだった。



 クラノスが去り、唐突に静寂が広がった。

 長いため息を吐いて、ラーノルドは項垂れる。


 ──果たして、クラノスにアルフのことを話したことは、正しかったのだろうか。

 これを機に、アルフが危険に巻き込まれることは、ないのだろうか。


 そんな思いが過る。しかし、どうあれクラノス以上に冥力について詳しい人間など、存在しない。


 クラノス・ローラテイズは、そうなるべくして作られたのだから。



 クラノスがこの部屋に来たとき、ラーノルドは不意に、クラノスに相談するべきだと思った。

 そして、それは多分、間違いではないのだろう。


 でも、それでも……かつての友であるクラノス・ローラテイズは、ヴァスタードの最高権力者だ。

 その男に、話して良かったのか。


 そもそも、何故そう思ったのか。何故、相談するべきだと思ったのか。



 ──予感があったのだ。

 今、きっとアルフは苦悩しているに違いない、と。


 ラーノルドは、ヴァンに対して、一つ嘘を吐いていた。

 アルフがヴェグナを「"バースト・レイ"で倒した」と。


 本当は、あのロザリオの力で創り出した剣で倒したのだ。

 冥力によって創られる、あの剣で。



 それをヴァンに隠してしまったのは、アルフの異常性が露見することを恐れてのことだった。

 ヴァンに、ではない。アルフ自身に、だ。


 アルフの周りには、良くも悪くも目立つ者が多い。

 新しく仲間になったリィルも、そういう意味ではとても都合のいい隠れ蓑となっている。


 だから、本人はあまり自覚が無いのだ。自分がどれだけ異常なのかを。



 だから、ヴァンにはあのような嘘を吐いた。

 そして、無事平穏に行き着くなら、"バースト・レイ"で消し炭になった刀を新しく作ってもらう、程度の話で済む筈だ。


 だが、どうしてか、直感したのだ。

 そのヴァンに会いに行ったことで、アルフの異常性は本人の知るところになる、と。


 何故かはわからない。だが、ちょうど今頃、アルフが打ちひしがれているのではないかと、そんな思いが止めどなく溢れて来るのだ。



 ヴァンは、きっとこれまで通りにアルフに接してくれるだろう。

 いや、これまで以上に、あれこれ手を焼いてくれるだろう。


 だが、それでも、ヴァンなら必ず告げるだろう。その異常性を。

 それは、本人が知って然るべきことであると、あの人ならそう考えるだろう。


 そう考えた時、じゃあどうしたらアルフを救ってやれるのか──。

 そんな時に都合よく現れたのが、クラノスだった。



 正しかったのかはわからない。

 だが、願わくば、どうか──。


「どうか、アルフを護ってやってくれ…兄貴……義姉さん…」


 そんな、自身の無力さを嘆くような声が、室内に暗く響いた。

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