第14話 巨頭病 前編【押し付ける心】
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私は、叫びだしたいような衝動に駆られる。
謎の女に、首に×印をつけられてから、自分と目を合わせてくれない慈眼に対して、不安感を覚えていた。
あの温泉から出て、今は月夜の中ひたすら山道を上へ上へと上がっている。
暗い山は足元が見えづらく、山肌に足を取られて転びそうになると、慈眼がこちらを支える。
陶器の時と違って温かい手。
思わずドキリとしてしまい、お礼が遅れる。
「……ありがとう」
お礼が遅れたことに気を悪くしたのか、慈眼はそのまま目を合わせずに
「気をつけろ」
と言って離れる。
「…………っ」
会話がない。
後ろからついてきていた芹が、私達の肩を急に掴んだ。
泣きまねをする。
「なんすか! この空気しんどい!! やめて」
と言いながら私と慈眼の手をつながせる。
思いのほか慈眼の手が温かい。
「はい! 仲直り!!」
無理やり握手させて腕をぶんぶんふられる。
慈眼は、細かい皺を眉間に寄せながら言った。
「うるせぇな!ほっとけ!」
手を振りほどいた。
離れた手の温度に寂しさを感じる。
そんな話をしていると、その集落は突然目の前に現れた。
真っ赤なきつねの装飾がされた大きな門。
遠くに、町の中心だろうか?
都でも見たことないほど高い建物があり、その中心からぐるりと囲むように円を描いて町が広がっていた。
中心からは、黒い煙が上がっている。
建物はみな赤で統一されており、夜だが提灯が建物の軒先にぶら下がり幻想的な灯りをともしていた。
「あれ、さっきまで山道だったのに」
私が疑問に思って言うと、芹が私達に抱き着きながら言う。
「いや、これ突然現れましたよね。
絶対おかしいですよ」
ぶるぶると体が震えている。
慈眼は、芹をうっとおしそうに引きはがしながら言う。
「早く入って来いってか、上等じゃねぇか」
慈眼がいうので、私達は覚悟を決めて門の中に入った。
門をくぐると、拍子抜けしてしまった。
何かが襲ってくるかもと思ったが、何にもなかった。
ちゃんとした町だ。
私は歩を進める。
「焼き鳥いらんか!」
と声を張り上げる人。
ご飯をこれでもかと口にほおばりまた食べる人。
人目を気にせず、接吻をしている人がいて思わず目を逸らす。
大声で歌いながら歩く人もいた。
ずいぶん自由に過ごしている。
清潔感はないが、都よりも豊かな気がした。
町の人々はお揃いの黒い着物を着ている。
その中で、私達の薄汚れた白い陰陽師の服は浮いていた。
すれ違う人にじろじろと見られる。
その中で、一人が声をかけてきた。
赤い着物を着ている。
「貴方達、旅人さん?」
私に声をかけた人は、短い黒髪の女性だった。
穏やかな笑顔で私達に声をかける。
慈眼が警戒したように、私の一歩前に出て言う。
「あぁ、あざねってやつに、この集落を紹介された」
女性は、慈眼にあざねと言われた瞬間に破顔する。
「あぁ!! あざねさまに言われたの?
よかったわねぇ、選ばれたのよ。
貴方達!」
そう興奮しながら告げられて、私の手を女性が引っ張る。
選ばれたって何を選ばれたのだろう。
言われた言葉に引っ掛かりを覚える。
でも、女性に案内してもらうのが一番いいと思い、慈眼達と目を合わせて、頷きあった。
「こっちよ」
そう言って私達を町の中心の高い建物へと連れて行った。
思わず見上げる。
芹が、私の後ろで
「ひゃー! くらくらするくらい高いですね!」
興味津々という風に、はしゃぐように喋った。
芹の言葉に、赤い着物の女性が振り向き嬉しそうに告げる。
「そうでしょ! 九十八結っていうのよ。
あざねさまが私達のために作ってくれた塔なの」
嬉しそうに告げる。
私の首を見て赤い服の女性は言う。
建物の名前に違和感を感じる。
横で慈眼が呟いた。
「仏教用語だな」
慈眼の呟きを拾って、赤い服の女は嬉しそうに答えた。
「よく知ってるわね! 心の執着を表した言葉らしいわ」
慈眼は説明を聞いて、村人の顔を見て、眉間に皺を寄せ顔を曇らせる。
「趣味わるぃ名前」
慈眼は呟くように言って、焦るが、赤い女の耳には聞こえていないようだ。
赤い服の女は塔がどんなにすばらしいか語りだしている。
芹が、小さく慈眼へ聞く。
「どういう意味っすか?」
「欲望や執着があると死んでもそれを抱えるって意味だ」
慈眼は、赤い服の女をじっと見つめた。
女は塔の説明が終わったのか、こちらを見て嬉しそうに言った。
「選ばれるってことは特別な事なのよ。誰かに価値を作って貰えるんだから」
赤い服の女性は心底嬉しそうに言う。
そして、慈眼を見る。
「あなた、髪色も目も人と違うのね。
羨ましいわ」
心底羨ましそうに言うが、慈眼は冷たい反応を返す。
「…………うるせぇ、俺に喋りかけるな」
慈眼の警戒した獣のような態度に、女性が半歩下がる。
「ご、ごめんなさいね、
羨ましくて、だってあなたはその子の特別じゃない?」
赤い服の女が、私を指さした。
「私にとって、たしかに慈眼は特別ですが……」
私はそのあとが続けられない。
慈眼にとっても私が特別だと言えない。
慈眼は、私達のやり取りを待っていられなくなったのか、赤い服の女に言う。
「早く、あざねを呼んで来い!」
「あぁ、ごめんなさいね。
私ったら、嫌わないでね。
少し待ってて頂戴、話してくるわ」
女性は慈眼を怒らしたことが気まずいのか、自分の首を引っ掻く。
そびえたつ塔へかけていった。
その建物には赤い着物の男が、一か所しかない出入口を両側から塞ぐように二人立っている。
背中に弓矢を背負っているのが見えた。
なにやら女性と話している。
女性が少し残念そうな顔をして戻ってきた。
「……残念だけど、今は会えないみたい
ごめんなさい、何もできなく……」
「会えない?」
慈眼は眉をピクリと上げて言う。
「えぇ、そうなの、今は会う時でないみたい」
赤い服の女がそう言うと、慈眼は私の首もとをみた。
慈眼の眉間に皺が寄る。
女性が言った言葉を無視するように慈眼は言う。
「じゃぁ、こっちから会ってやるさ」
女性を慈眼は押しのけて、摩天楼の門に足をかけて飛び上がった。
芹が慌てて慈眼に言う
「おれたち、おいていくんですか!!」
「すぐ片付けてくるから、待ってろ!」
慈眼は私達の方を向いた後、また建物に足をかけ上へ行こうとした。
その瞬間、門番が背中から弓を取り出した。
「慈眼、避けて!」
慈眼の目が、私に向いたのが、ほんの一瞬。
矢が飛ぶ――体の芯まで冷えるような音とともに、空気が切り裂かれる。
慈眼は反応しようとしたが、間に合わず、矢が肩をかすめるように刺さった。
落下していく姿が見える。
息が詰まる感覚。
ドスン――。
慈眼は、そのまま落下した。
「いてぇ……な!」
と言いながら弓を引き抜いてまた摩天楼へ上がろうとした。
その時だった。
摩天楼の窓が開き、一斉に弓を引いた人たちが現れる。
その弓の先は慈眼。
「は?」
弓の嵐に貫かれ、何本かがその身を刺し貫く。
見ていられなくて、私は駆けだそうとしたが
芹に止められる。
慈眼の苦痛に歪む顔が見えた。
心臓が痛い。
見てられない。
そして、地面に突っ伏した。
自分が弓で刺しぬかれたわけでないのに、体中が痛い。
ずいぶん長い間たったような気がした。
私がその光景を見て、絶句していると
門番の男性が二人が、私達を見て言う。
「時が満ちるまではお会いになること叶いません」
「旅の疲れを、この集落で休めてください」
そう言って門番の男達は、弓を構えるのを辞めた。
九十八結と呼ばれる塔の窓から、出ていた弓が引かれる。
心配して慈眼を見ると、苦痛に歪めた顔で寝転んでいた。
そして、眼光の大きさが元に戻り、周りを見渡す。
慈眼がゆっくり起き上がり、膝をついた。
自分の身から、いきおいよく弓矢を引き抜く。
歯を食いしばりっている慈眼の傷が、修復をしていく。
その中で、おかしなものがあった。
――落ちる白い羽。
「くっそ!」
慈眼は悔しそうに奥歯を噛んだ。
慈眼は、羽に気が付いていない。
弓傷は徐々に塞がっている。
「慈眼、大丈夫?」
私が心配で、慈眼の方へ行くと
「あぁ、問題ねぇ治るさこんなもん」
と自分の傷など気にしていないように告げる。
その時だった。
慈眼が吐き出す。
「うぇ……ゲェッ!!」
白い羽が口から溢れて
宙へ舞った。
私はその羽に見覚えがあった。
胸の中がざわざわする。
「これって、……帝の羽」
慈眼は信じられないものを見たかのように
その羽をじっと見つめる。
「な……んで?喰った分はあの時全部吐いたぞ」
芹がその姿を見て言う。
「慈眼から羽、発生していると思います。」
芹はバツが悪そうな表情をする。
私はその言葉に食って掛かる
――信じたくない
「そんなはずない!たまたまだよ
前食べたのがのどに引っ掛かっていただけ」
そう言いながら慈眼の背中を撫でて、地面に転がる羽を思わず踏みつけた。
そんなはずない。
慈眼が帝に浸食などされてるはずない!
慈眼は、白い羽を見つめたまま。
「そうだな」
羽をつぶすように、握りしめた。
白い羽が風に舞い、空へ消えた。
慈眼の傷は塞がったのに、胸のざわつきは収まらない。
芹が小さく震える声で言う。
「……もしかして、あの羽、慈眼に何か残してるんじゃないですか?」
慈眼は羽を握りしめながら、肩をすくめる。
「……んなわけねぇ、たまたまだ」
でもその瞳はどこか定まらず、微かに揺れていた。
私の目を慈眼が、見る。
「何も心配いらない」
そういって立ち上がった。
傷はすべて治っていたが、血の跡がついた服が痛々しい。
私は息が苦しくなる。
芹がわたしと慈眼の顔を、しっかり見て言う。
「仮説ですけど、これ。
慈眼が怪我するたびに、進行しているかもしれないですよ置き換わるみたいに」
風が吹いた。
慈眼が吐いた羽が風に舞って攫われる。
私は唇を震わせた。
「そんなはずない!」
私達が言い争っていると
赤い服の女性が私達に近寄ってくる。
女性が、私達に頭を下げる。
「ごめんなさいね、
あざみさまに会わせることが出来なくて」
「うるせぇ、話しかけんな、こっちの問題だ」
いら立ちを隠せない慈眼は、ぶっきらぼうに言う。
そんな慈眼に、口元をひくりっと動かして
女性はまた私達へおじきをする。
さきほどより下げた頭が少し大きく見える。
「ごめんなさい、私ったら本当駄目だわ」
何度も頭を下げる女性に、芹も声をかける。
「いや、道案内してくれたし、すごく助かりましたよ!
性格がちょっときついんで気にしないでください」
慈眼を、指差す。
「おい!」
芹が言った言葉に、慈眼が足で芹の脛を蹴る。
「ぐぁ!っー!ひどい!」
芹が涙目になりながら、女性を気遣う。
「ほら、こんな感じなんですよ
気にしないで」
女性はそれでも頭を上げない。
わたしは女性の頭がまた大きくなっているような気がした。
胸に不安が占める。
「あの、本当に気にしないでくださいね?」
私が、恐る恐る肩を掴む。
顔を上げた頭が、凸凹していた。
「えっ」
こんな頭をしていなかったはず。
慈眼も芹も息を飲む音が聞こえる。
赤い服の女性がヒステリーに言った。
「貴方達、私がきちんと説明しなかったことを
怒っているでしょ」
私は、これ以上感情を高ぶらせてはいけないと思い、慌てて女性に言う。
「いえ、怒っていないですよ」
「いいや!何も出来ない奴だと思っているのよ!
あなたも!あなたも!そしてあなたも!!!」
そう言いながら女性は頭をかえて、うずくまる。
女性の豹変に呆気にとられて
何か、とても不安になる。
女性は、ぶつぶつと何かを言っている。
心配になり、声をかけようと近づいた。
「あなたのせいでなく、
私達が勝手にしたことですので」
女性の肩に手をかけた瞬間、慈眼が言う。
「それ以上、そいつに構うな!」
女性にその手を振り払われた。
「いや!嫌わないで、ごめんなさい!!」
頭が真っ二つに裂け虹色に光る石が、膨張するように現れる。
その輝きはみる角度で違う。
美しい色をしていたが、なんだか恐ろしい。
慈眼が、目を見開きながら言う。
「体は健康そうだったぞ……なんで病に」
女性は頭をかきむしった。
「私の価値がないと評価されてしまったわ!」
そして、さらに頭を抱える。
「有象無象なんて、いや」
赤い服の女性は門番に大声で言う
「私を罰してください!!」
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