0話 救えない医者
昔、書き留めていた小説を少し編集しなおし投稿しています。
カクヨミで更新を先にし、
こちらで1週間遅れで更新となる予定です。
毎週金曜日更新予定。
耽美、不思議、妖怪、美少年好きな方はお付きあいいただければと思います。
あははは……!!
笑い声が、屋敷の天井に反響する。
赤い宝石を体中にまといながら、
私たちはお互いを触りあった。
よく見ると、
宝石を「まとっている」のではない。
皮膚が裂け、
その下から《《宝石が生まれている》》のだ。
触れたところから次々に皮膚が破け、
赤い石が顔を出す。
まるで柘榴の実を
そのまま宝石にしたかのような美しさ
――恐ろしくも、魅惑的でもある。
ほどなくして、笑い声は遠く消え、
そこには真っ赤な薔薇のような宝石だけが
残った。
平安京では触ると皮膚が裂け赤い宝石となる。
【玉瘡】
という病気が流行っていた。
◆
月が出ていた。
まんまるで、澄んだ光を放つ月。
優しい孤独を包む夜の光が、桜をそっと照らす。
私はその月をつかもうと手を伸ばした。
その瞬間、手の皮膚は裂け、そこから赤い石――まるで紅玉のような宝石が覗いた。
豪華絢爛な屋敷の中、絹の着物をまとった私は、無表情な木偶人形に囲まれていた。
月明かりに照らされる宝石だけが、きらきらと輝く。
屋敷も着物も、もう必要のないものだと分かっているのに、私は笑ってしまった。
「あはは!!あははは!!!!」
ふと顔に影が落ちた。
水琴窟のような
少女の声が響く。
『動かしてはいけませんよ』
かぐわしい白檀の香りが鼻をかすめる。
目をずらすと、肌の白い、
12歳ほどの少女が立っていた。
真っ黒な髪から覗く瞳は、
夜空の月のように輝く。猫のような瞳。
服はすべて真っ白。
表情は暗く、無機質で人形のような少女だと思った。
「蘇芳、
あなたには迷惑かけたわね」
私は少女に声をかける。
少女は数秒私を見つめ、
無表情のまま唇を噛む。
その指には、
木偶人形につながる細い糸が見えた。
人形はギィギィと音を立て、
私を抱きかかえる。
他の人形も同じく後ろをついてくる。
こうして、私の死出の旅は始まった。
木偶人形に抱えられ、豪華な屋敷を後にする。
この体になってから、
人は私に絶対に触れない。
私の病は“うつる”からだ。
子を失い、寂しさに耐えかねたとき、
私は自分を自分で触った。
すると、皮膚が裂け、赤い宝石が生まれた。
仕える女房に見せると、触れた瞬間の温もりを感じた。
美しい宝石を通じて、人と繋がれる喜び
……それは不思議で、少し危険で、
とても愛おしかった。
しかし、女房も人々も、やがて来なくなる。
私は気づいた――
私は穢れてしまったのだ、と。
ーもう一度だけ誰かに抱きしめてほしい。
長く、人の体温を感じていない。
触れても、もう温もりは返ってこない。
少女と人形を見つめる。
目が合い、少女は少し眉をひそめる。
そして木偶人形が、
私を抱きかかえるえる蘇芳は私を見つめながら
『この病は治せません。治す方法はない。
何か最後の望みはありますか?』
と言った。
私は意地悪を言いたくなった。
『ないわ。私はこれから都の外に放り出され、孤独に死ぬのでしょう?』
少女は肯定も否定もせず、私を見つめた。
その時、遠くの記憶が蘇る。
病にかかり私と引き離された同い年の子のこと。
自分の腕が鉛のように重く、動かすのも辛い。
少女の頬に触れようとしたその瞬間、
皮膚が裂け、紅玉のような宝石が覗いた。
美しく、恐ろしい宝石。
ほどなくして、
都の外へ通じる赤い門が見えた。
黒衣の門番と、黄金の瞳を持つ少女が頷きあい、門は開く。
木偶人形だけが私と共に門の外へ出る。
久しぶりの外気は、肺まで冷たく浸みる。
木偶人形に下ろされ、
一緒についてきていた木偶人形も
私を取り囲むようにしゃがんだ。
湿った土の香りに包まれる。
土の香りに包まれて何かが焼けた匂いもした。
ここが、私にふさわしい場所なのだろう。
医者も祈祷師も、陰陽師も、
私を救わなかった。
神も仏も、私を見捨てた。
ならば私は、孤独をすべてに振りまく。
ただ温かな手があればーそれだけでー
パキピキピキー私の皮膚が裂ける音が響く。
あぁ----------------------
目の前がマエが真っ赤に染ま り
「ごめんなさい」
と水琴窟のような声が聞こえた気がした。
目の前を青い炎が囲む。
なんて綺麗な青-
それが私の見た最後だった。
◆
周りを取り囲んだ木偶人形の口が裂け
青い炎が
病から妖へと変化をする寸前だった
彼女を包む。
浄化の炎だ。
あまりの熱さに木偶人形を
操っていた糸が溶ける。
木偶人形は青い炎を出すのをやめ、
無機質な人形へ戻った。
鼻につく焦げ臭い香りがする。
蘇芳は人が”いた”場所へと近づいた。
・・・・思わず手をあわせる。
月明かりに照らされて
地面にひとかけら赤い宝石が落ちていた。
「・・・・・なんて美しいのでしょうか」
蘇芳は拾い上げ、
懐にある手のひらサイズの藁人形に
石を入れ込む。
後ろから綿のような軽さのある男性の声が
蘇芳にかかる。
「よくやりましたね。
病はー祓うか、
祓えならければ抹消せねばなりません。」
暗闇で表情が見えないが
白い装束を着た男性が立っていた。
蘇芳は目を伏せてそっと、
藁人形を隠すように懐へ入れて答える。
進行が進んだ病は治せない。陰陽師の基本。
平安時代、病は穢れだと考えられていた。
穢れを祓うのは祈祷師か、
病を封印か調伏できる陰陽師が
医者として扱われていた。
しかし、進行が進んだ病を
治せるという者は
この時代《《存在していなかった》》。
―――少なくも今は。
少しでも楽しんで頂けた方は
この後もお付き合いくだされば幸いです。
病、穢れ
現代の科学力をもってしても
わかない病気は沢山あります。
全てなおせたらー。




