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龍神と英雄に成る男  作者: 高錫裕貴
2章 王都アリア
25/29

25話 VS【謀略】のサラリット(前編)

 ─── シグル視点 ───


 転移した場所は少し開けた森の中。目の前にはお姫様と何人かの柄の悪そうな男たち、そして・・・あれは魔族か?


 ・・・って、そんな場合じゃねえ!


「まぁ良い。さっさと服を脱がせて・・・」


「させるかってんだ、このクソ野郎がぁぁぁ!!!」


「ふべらっ!?」


 下卑た笑みを浮かべてお姫様に手を伸ばそうとしていた男の顔面を勢いよく殴り飛ばす。ついでに2、3人ほど巻き込みながら茂みの方へ転がっていった。


 続けて信号弾も忘れずに空へ打ち上げる。赤い光の玉が花火のように夜空へ昇っていった。


「ふぅ、良かった。間に合って・・・ない!? その傷はどうした!?」


 振り返るとお姫様の口の端に少しだけ血がにじんでいた。殴られでもしたんだろうか?


「いえ、これは貴方を呼ぶために自分でやったものです。治癒も自分で出来ますのでご安心を」


 お姫様はそう言って手元に魔力を集中させながら口元へ持っていくと傷が淡く光りながら消えていった。


「おぉ、やるな。ところで俺を呼ぶためってのはどういうことだ?」

「その魔道具は"危機"の定義が少々曖昧でして。自傷との区別が付かないので能動的に効果を発動させることが出来るのですよ」

「なるほど、ものは使いようだな」


 それにしても、ペンダントが光るのが遅れたのはそのせいか。宰相さんちゃんと説明しといてくれりゃ良いものを・・・。


「やれやれ、思ったより早かったですねぇ。少々想定外ですが・・・まあ良いでしょう」


 ・・・ともあれ、愚痴るのは後回しだな。


「それで? お前は見たところ魔族のようだが、一体何者だよ?」


 俺は一際存在感を放っている魔族の男に問いかける。


「これは失礼。ワタクシ、偉大なる魔王様の配下でサラリットと申します」

「魔王の配下・・・か。それは直属ってことか? それとも単なる下っ端が勝手に吠えてるだけか?」

「もちろん直属ですとも。ワタクシ、これでも四天王の席をひとついただいておりますので」


 四天王、ねぇ。いきなりビッグネームすぎないか?


 こういうのはもうちょい旅を重ねて腕を鍛えて仲間も増えて冒険して・・・それから挑むようなもんだと思うんだがなぁ。たった数ヶ月で遭遇するような相手じゃねえだろうまったく。


 それにしてもどうしたもんか・・・人数差があるし、初手で"悪魔の舌(デビルズタング)"のやつらを吹き飛ばしてから・・・いや、情報収集が先か?


 周囲を警戒しながらこの後をどうするか考える。もちろん念話でヴォルガへの情報共有もしておく。


 するとサラリットと名乗った魔族の男は周りを囲む男たちに目線を向けた。


「"悪魔の舌(デビルズタング)"の皆様、ご苦労様でした。少し予定外ですがここまでで結構です。どうぞお帰りください」


 何のつもりだ? いくら雑魚とはいえ、数の力は侮れない。有効に利用する方法はいくらでもあるはずなのに・・・。


「はぁ!? 旦那、そりゃねえぜ!」

「そうだそうだ! 王女の報酬をまだ貰ってねぇじゃねえか?!」

「こんな小僧一人増えたところで関係ねぇ! 全員で囲んでフクロにしちまえば・・・ぁ゛?」


 突然の解散命令に反発していた男たちだが、その口が閉じるのも突然だった。


 サラリットが徐に上げた手を横に薙いだのと同時に、数人の首が宙に舞ったからだ。


 流石は魔族、容赦ないな。


「お、おい、いきなり何を・・・」

「ワタクシ、取引相手には誰であろうと敬意を払うようにしております。ですが、たかが人間の分際で口答えするのは看過しかねますね」

「う・・・」

「ワタクシ、これでも慈悲深い魔族を自称しております。今すぐ消えればわざわざ手を下すことはいたしません。報酬金の方は例の場所に置いてありますので持っていってください」

「・・・く、くそがっ!」


 捨て台詞を吐く余裕もないようで、それだけ言うと脱兎のごとく逃げていった。うんうん、プライドが傷ついても逃げる判断がちゃんとできるあたり、二流くらいではあったか。


「さて、これで邪魔者はいなくなりましたね。それでは本題に入りましょう」


 ・・・どうせ仲間になれとかそんなやつだろ。


「ワタクシ、人を見る目はある方でしてね。アナタはとても素養が高い。是非とも我が国にいらして魔王様の覇道のため、力をお貸しいただけないでしょうか?」


 やっぱりそうか。まぁ、答えは最初から決まっている。


「当然、ノーだ」

「・・・まあ良いでしょう。元から期待はしておりませんでしたしね。では本来の目的を果たすといたしましょう。アナタ方には、ここで死んでいただきます」


 ・・・来るか!


 こっちはお姫様を守りながら戦う必要がある。まずは防御に徹して様子を見つつ、ヴォルガたちの増援を待とう。


「ちょっと失礼するぜお姫様!」

「きゃっ!」


 サラリットが先ほどと同じように手を横に薙ぐ。俺は素早くお姫様を前に抱えると、魔力で身体強化、風の魔術で防御と追い風を同時に行い、全力で森の中へ逃げ込んだ。


「シ、シグル様! どうされるおつもりですか?」

「取りあえず逃げと防御に徹して時間を稼ぐ! 安心しな、ヴォルガがいる場所もそう遠くはないから、合流してお姫様の安全を確保してから反撃に出る!」

「そうですか・・・では、よろしくお願いします!」

「任せとけ!」


 しかし、すぐに追撃してくるか追いかけてくると思ったんだが、まったくその気配がないな・・・?


 まったく気配が・・・ない? 待てよ、仮にも四天王を名乗る魔族だぞ、魔力なり気配なり感じないのはおかし、


「ってあぶねっ!!」


 目の前に殺気を感じて咄嗟にスライディングで回避する。ふわりと舞ったお姫様の髪の先端が少し切れた。


 これはサラリットの攻撃か! 一体どこから!? しかもさりげなく風の防御突破されてるし!


 そうこうしている間にも次々と攻撃が飛んでくる。


 どこから飛んでくるかも分からんし、目に見えないから避けるのも一苦労だ! まるでこの前にやった八雲との手合わせみたいだな!


「中々やりますね。全て避けきるとは大したものです」

「もしかして、魔力制御で魔力と気配を隠してるのか?」

「ご明察。ワタクシ、生来とても臆病者でしてね。力こそ四天王の中では最弱ですが、隠れることと守ることに関しては自信がございます」


 力が最弱とはいってもあくまで四天王の中では、だからなぁ。まともに食らえばお姫様はおろか、俺もただでは済まなそうだ。


 それに魔力の扱いに長けてるタイプか。たしか本で似たような魔物についての記述を見たような・・・。対策としては、外に漏れる魔力を魔力制御や道具で遮断するか、逆に魔力を放出してかき乱すか、ってところだったかな。


 なら・・・っ!


「お姫様、少し荒っぽくいくからしっかりつかまってろよ!」

「はいっ!」


 風の魔術で、周囲に広くて弱めの竜巻を起こす。ついでに、地面の土も巻き込んで魔力とともに視界も塞ぐ。


「ほう、良い判断です。やはり殺してしまうのが惜しいくらいですね」

「なら殺さないでほしいね!」

「そうはいきません。アナタを放置すれば必ず我らの脅威となる。その芽はここで確実に摘ませてもらいますよ」


 今度は上の方から何かが・・・っ!?


 それと同時に天から落ちてきたのは巨大な冷気の塊。急いで防御範囲を狭く厚くしたものの、完全には防ぎきれず、周囲の気温が急速に冷え込んでいく。


「ちょこまか逃げられると面倒なのでね、トカゲのように鈍ってくれればありがたいのですが」


 ったく、バカにしやがって畜生!


 とはいえ、これはまずい。確かに俺たち竜族は一部を除いて寒いのが苦手だが、それでも変温動物のように動きが鈍るようなことはない。

 しかし、この寒さはそういうの関係なく手足がかじかみ、地面は凍り付いて素早い動きがやりにくくなりそうだ。それに、ただの人間であるお姫様は俺よりも辛そうだ。体が震えている。


 炎で溶かすこともできるだろうが、そうすると地面が溶けた水でドロドロになってしまう。どっちにしろ足場が悪くなり邪魔になる。


 くそっ、迷ってる暇はない! 取りあえずは少しでも反撃を!


「これでも食らえっ!」

「おやおや」


 魔力を練り上げるのに集中するため、お姫様を一旦降ろしてから薄く広げた炎を風に乗せて全方位へ放つ。気配を消すやつにはやはり範囲攻撃に限るな。


 ・・・ここは思いきり良くいくか。


「はあああああぁぁぁ・・・・っ!!」

「ほう・・・?」


 風と炎を掛け合わせて火災旋風を起こす。ただし、森をまるごと焼き払ってしまわないように調整はしておくが。


 炎の熱は凍り付いた地面を溶かし、さらに溶けた水を蒸発させた。


 奴へのダメージは・・・なしか。球体状の防御障壁を展開しており、涼しい顔をしている。


 向こうは気配を消してくるが、八雲のように姿まで見えなくなるわけじゃない。木々を焼き払って視界を確保し、逃げではなく防御に徹する!


「さ、ラウンド2といくか!」

「面白い・・・。ワタクシ、ヴァルターのような脳筋ではないのですが、少し楽しくなってまいりました」


 甚だ心外だが、俺も心の中で少し楽しんでいる自分がいる。何気に命懸けの実戦は初めてだからな。黒竜の血が騒ぐってもんだぜ・・・!


「ククク・・・シグルさん、アナタも血気盛んですねぇ。表情に出ていますよ」


 口許に手をやると、凶悪な笑みで歪んでいた。


 やれやれ、血は争えないってか。


「・・・そうだな。俺は『漆黒の竜王』レクスの息子、シグル! 黒竜族の誇りにかけて、テメェをぶん殴るっ!!」

「これはご丁寧に。ではワタクシも改めまして・・・」


 サラリットの纏うオーラが一気に膨れ上がった。奴も本気ってことか!


「ワタクシはパフォライン皇国が誇る四天王が一人、【謀略】のサラリット。アナタと王女の首を魔王様に献上し、我が悪魔族の繁栄の糧とします!」


 そう言うが早いか、今度は拳を振り上げて突っ込んできた! こちらも拳で応戦すると、ぶつかったところから発生した衝撃で、地面にも大きなヒビが入る。


  肉弾戦もやるとは多才だな。だが望むところだっ!


 ・・・と言いたいところだが、お姫様を守りながらじゃ分が悪すぎる。


 いや、そろそろか。


「なあ、お姫様。俺に命を預ける覚悟はあるか?」


 俺が問いかけると、お姫様は強い意思を宿した瞳で答えた。


「今さらですね。私の命は、最初からあなたに預けておりますよ」


 フッ、良い返事だ。


「よし、じゃあ舌を噛まないように気を付けろよ!」

「・・・え? 何を、っきゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!!!????」

「・・・? 一体何のつもりです?」


 サラリットの攻撃の隙をついてお姫様を再び抱えると、力一杯に夜空へ向けて放り投げた。風魔術のブーストつきで。


 突然の出来事に空中で目を白黒させるお姫様だが、そこはご安心あれ。


「な、な、な、何が、きゃっ!?」

「ウォン!」




 我らが頼れる相棒。ヴォルガ君のご登場であるっ!




 飛び出してきたヴォルガが空中でお姫様を華麗にキャッチ。そのまま背に乗せてから着地する。


「さっすが俺の相棒! いつも最高のタイミングだぜ!」

「ウォン!」

「命を預ける覚悟はしていましたが、これはさすがに肝が冷えましたわ・・・」

「悪いなお姫様。だが、おかげで時間が稼げた!」


 悲鳴をあげながら空を舞うお姫様にサラリットが目をとられている間に、新たに練り上げておいた魔力を手に纏う。


「こっからは俺も反撃させてもらうぞ!」

「ククク、少し驚きはしましたが、無駄なことです。ワタクシが守りにも秀でていることをお忘れですか?」

「もちろん覚えてるとも。だからこそ、だよっ!!」

「なに・・・っ、ぐはぁっ!?」


 サラリットが防御障壁を展開するが、俺の拳はそれを一撃で突き破り、驚愕に目を見開いた奴の顔面に突き刺さった。


「よっし、まずはファーストアタックいただきだな! ヴォルガ! 今のうちにお姫様を連れていけ!」

「ウォン!」


 ヴォルガはひとつ吠えて返事をするとそのまま反転し、王都へ向かって一目散に駆けていった。よし、これで俺も戦闘に集中出来るな。


「くっ、一体何が・・・っ? ああなるほど、『破壊』ですか。これは油断しましたね、まさかその若さでここまで使いこなしているとは」


 まともに俺の拳を食らったサラリットは青紫色の鼻血を流していた。手で血を拭うと奴はより一層笑みを深める。


「しかし、同じ手は食らいませんよ。ワタクシ、実はかの竜王と一度だけ相まみえたことがございましてね。もちろん当時は手も足も出ずに敗北してしまいましたが、対策は考えてあるのですよ」


 ・・・おいおい、マジか。父さんとまみえたことがあるだって? それで今もまだ生きてるってだけで相当な実力者じゃねえか! 四天王って称号は伊達じゃないんだな。


 俺がまさかの事実に戦慄している間にも、サラリットは手元に魔力を集めているが・・・白く発光している?


 まさか・・・!?


 ひとつ思い当たったが、それが本当ならかなりヤバイしなぜ奴が使えるのか訳が分からない。・・・とにかく、阻止しなければ!


「はあっ!・・・なにっ!?」


 もう一度『破壊』を纏った拳を振るう。しかし、今度は障壁に難なく止められてしまった。


「その力は・・・『再生』、なのか?」


 竜族の中でも特異な能力を持つのが俺たち黒竜族ともうひとつ、白竜族だ。そしてその白竜族が持つ能力こそが、黒竜族の『破壊』と相対する能力。それが『再生』である。


「ククク、惜しいですねぇ。確かにアナタの『破壊』を確実に相殺するのは白竜族の『再生』。しかしこれは『再生』とは似て非なるもの。ワタクシ、いくら魔力の才があるとはいっても種族の固有能力を模倣出来るほどではないのでね」

「・・・?」


 『再生』とは似て非なるもの? どういうことだ?


「正確には『反・破壊』です。ワタクシ、相手の魔力を解析して反作用のある魔力を作り出すのが特技なのです」

「なるほど・・・それにしても、ずいぶん親切に教えてくれるんだな?」

「ワタクシ、しかるべき者にはきちんと敬意を払うのですよ。アナタは敬意に値する"敵"です」


 こいつがお姫様にしようとしたことは許しがたいことだ。それでもこいつはガルベージ伯爵や悪魔の舌(デビルズタング)みたいなクズとは違って、こいつなりのきちんとした信念を持っているのだろう。


「・・・それは光栄なことで。俺もそういうのは嫌いじゃないぜ!」


 俺は改めて拳を握りしめる。そこから、サラリットとの応酬が始まった。


 殴る。防がれる。蹴られる。そして防ぐ。合間に魔術を撃ち合う。


 互いの戦闘スキルは互角か向こうが少し上。しかし決定的に差があるのは防御だ。奴の防御障壁はあまりにも硬く、通常の打撃や魔術では歯が立たない。『破壊』しようにも『反・破壊』で無効化されてしまう。


 このままじゃジリ貧だ。どうしたもんかな・・・。

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