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龍神と英雄に成る男  作者: 高錫裕貴
2章 王都アリア
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23話 国王との対話

『なんだ、まずいってそっちかよ・・・いや、それは大変だったな』

『うぅ・・・あんな不味いもの初めて食べたよ・・・』


 仮にも神狼(エンシェントウルフ)であるはずのヴォルガを少しの間とはいえ気絶させる程の威力とは・・・なんて恐ろしい。まさか歌まで殺人級だったりしないだろうな?


 それにヴォルガが気絶させられるなんて、父さんとの訓練初期以来じゃないだろうか。


 ちなみに後で聞いた話だが、シェーラが何ともなかったのは、幼い頃からあらゆる薬草や時には毒草なんかも片っ端から口に入れてきたおかげで耐性がついていたかららしい。


 思ったより探究心が強いというかわんぱくというか・・・またシェーラの新たな一面が見られたな。


『それはそうとヴォルガ、頼んでたことは?』

『・・・そっちは順調。やっぱり何ヵ所かおかしな魔力の流れを感じたよ』


 おかしな魔力というのが、おそらく例の黒装束たちの命を奪った魔族のものだろう。そうなるとやはりこのパーティー、ひと波乱起きる可能性が高いかもな。


 ヴォルガから受け取った情報は、侯爵を通して国王にも伝えてもらった。


 一応事前に思い付く手は打っておいたが、さてどうなるかな・・・。




 さすが王女の誕生日ともなると大規模な催しになるようで、日が暮れてもまだパーティーは続いていた。


 今は休憩時間のようなもので、参加者たちはあちこちに固まって「談笑」という名の腹の探り合いをしたり、夫婦やカップルでダンスに興じていたりする。


「あたたた・・・まだ少し頭が痛いのじゃ~」


 そう言って頭をおさえているのは先ほど復活したばかりの八雲だ。


「酒弱いくせにあんなにがぶ飲みしたんだから当たり前だろ・・・ほら、これ効くか分からんけど一応な」

「うむ、すまぬな」


 八雲に渡した薬は近くにいた給仕に頼んで持ってきてもらった。人の薬が神獣に効くかは分からないが、何もしないよりはマシだろう。


「おお!いくらか良くなった気がするぞ!」

「そりゃあ良かった。案外ちゃんと効くもんなんだな」


 なにしろこの後は国王との対談も控えているし、魔族が何かを企んでる可能性もある。そんな時に酒のせいで不覚を取った、なんてことになったら笑えないしな。


 そうこうしていると、先ほどまで国王と話していた侯爵が声をかけてきた。


「シグルよ、ここにいたか。陛下が応接間の方でお待ちになっている」

「えっと・・・俺らだけでですか?」

「そうだ、あまり私が首を突っ込みすぎるのもよろしくないからな。取りあえず、考えなしに無礼をはたらいて不敬罪になるのだけは気を付けるんだぞ」

「さすがにそこまでバカじゃありませんて・・・」


 まったく、侯爵は俺のことを何だと思ってるんだ。


「ところでそちらのお嬢さんは見覚えがあるが、君のお仲間かね?」

「うむ、そういえば妾の挨拶がまだじゃったのう。妾は八雲と言う。どうぞよろしゅう」

「フィリップ・フォン・クライムだ。見たところ狐の獣人のようだが、我々改革派や王室の方々は特に気にする者はいないので安心すると良い」

「気遣いに感謝する、侯爵殿よ」


 正しくは獣人じゃなくて神獣なのだが、わざわざ訂正する必要もないか。


「さ、あちらのメイドが案内してくれる。陛下をお待たせしないうちに早く行きたまえ」

「ええ、そうします。それでは」


 俺たちは言われた通りメイドの案内で応接間へ向かった。




 コンコン。


「失礼します。シグル様とお仲間の八雲様をお連れしました」


 部屋に入るとすでに国王とお姫様が座って待っていた。その側には近衛兵らしき騎士が控えて・・・おや、あれはお姫様の護衛隊の隊長さんじゃないか。確かロバートといったかな?向こうもこちらを覚えていたようで軽く会釈してくれた。


「ご苦労、下がってくれ」


 メイドは国王の言葉に一礼すると、スッと下がっていった。・・・って、なんて自然すぎる動きだ。さすが王城に勤めるプロフェッショナル。


「よく来てくれた、シグルよ。遠慮せずかけたまえ」

「それじゃあ、失礼します」


 勧められたソファに腰かけると、すぐにお茶と茶菓子が出された。早速一口。うん、美味いな。


「さて、まずは改めて君に感謝するとともに私からも何か礼をしたいと考えている。希望はあるかね?」


 う~ん、どうしたもんかな。


 今の心境としては偶然龍の玉を2回も揃えてしまったような気分だ。今何か欲しいものがあるかって言われても特に思いつかんしなぁ・・・。身分保証もお姫様のメダルで事足りるし・・・。困ったな。何か考えとくんだった。


「特にないのであれば男爵位と王都の一等地に屋敷をひとつ・・・」

「いや、それはちょっとご勘弁願いたいですね」


 あ、やべ。国王の言葉を遮ってしまった。あ~あ、お付きの何人かがこっちを睨んでるよ。


『主様よ、今のはもらうと何かまずいのか?』


 俺がどうしようか悩んでいると、八雲が念話で話しかけてきた。


『どっちも俺たちをこの国に留めておきたい下心があるだろうからな。特に貴族になるというのはこの国に、そして王族に忠誠を誓うことを意味する。行動の自由を制限されるのは避けたい』

『なるほどのう。しかし先ほどの言葉にはあまり邪な感情を感じなかったが?』

『そりゃあ断られる前提であまり本気度が高くないからじゃないかな。受けてくれたら儲けもの、程度にしか考えていないんだろう』

『・・・まさか、それすらも折り込み済みだったりするのかや?』

『さあな。さすがにそこまでは分からん』


 あー、ひとつ思い付いたけどこれ言っても大丈夫かな・・・まあいいか。怒られたら素直に謝って適当なお金だけもらおう。


「えっと、何かあったときに国王陛下が一回だけ助けてくれる・・・とかはダメですかね?」


 お付きの者たちの目がさらにつり上がった気がする。


 やっぱり一国の王様に対して『貸し一つ』は大きく出すぎただろうか?


「ふーむ・・・・・・良かろう」

「へ、陛下!?」


 隊長さんが思わずといった様子で声を上げた。お姫様も少々驚いたようで、国王の方を見ている。


「ただし、人道から外れるような無茶な頼みでなければ、だがな」

「ええ、もちろんです」


 すげぇ、通っちまったよ。言ってみるもんだな。


「君は貴族のような堅苦しく腹黒いやり取りは好まないだろうから、単刀直入に言わせてもらおう。私は是非とも君とは友好的な関係を結びたいと思っている。最も望ましいのは仕官するなり王家に婿入りするなりしてくれることだな」

「は、はあ・・・」


 本当に直球で来たな。確かに俺は遠回しな表現とかそういうのはあまり得意ではないのでありがたいことではある。


「そしてこれが本題なのだが、ひとつ依頼を受けて欲しい」

「依頼・・・ですか。それは王女殿下の護衛とかですか?」

「察しが良いな、その通りだ」

「何か狙われる心当たりが・・・って、例の魔族ですか」

「そうだ。君が伝えてくれた情報を元に騎士や衛兵を派遣したところ、"悪魔の舌(デビルズタング)"のアジトのひとつが摘発されてな。捜査の結果、レナリアの似顔絵や警備態勢を調査した資料などが発見されたのだ」


 なるほど。それは確かにレナリア狙い以外の何物でもないな。


「しかし、何故わざわざ俺に依頼するんです?護衛なら専門のトレーニングを積んだ騎士なり冒険者なりいるでしょう」

「それはほら、守り守られる男女の間に恋心が芽生えるのは物語の定番ではないか」

「・・・」


 あまりにもぶっちゃけすぎである。胸襟を開いてくれているのはありがたいが、ここまで全開にされると困惑しかない。


 周りの空気も唖然、といった感じだ。隊長さんは顔に手を当てて空を仰いでいるし、八雲はおかしそうにケラケラ笑っているが。


 そして当の国王は自信に満ちた笑みを崩さず、お姫様は満更でもないような表情をしている。


「えっと・・・あの、俺はどう反応すれば良いんですかね?」

「ふふ、そのままで構わんとも。おかげで君の人柄が少しずつ把握できているからな。もちろん、信頼に足る人物としてだがね」

「・・・そりゃどうも」


 結局、本気なのかどうかいまいち分からん。いや、多分本気()()あるんだろう。気を付けないといつの間にか逃げられなくなってた、なんてことになりかねない。


「まあそこまでいかなかったとしても、親交を深めるくらいは期待しても良かろう?」

「ええまあ、とても光栄なことではありますが・・・」

「心配せずとも、君の望まぬことをして縁を切ってしまうなどという愚は犯さぬよ。それから、当然近衛騎士による護衛も継続される」

「ククク、嫁入り前の姫を相手に間違いがあってはいかんからのう?」

「・・・八雲、いちいち俺を色情魔みたいに言うのやめてくれないか?」


 まったく、八雲も俺のことを何だと思ってるんだ。


 あの、お姫様も口元に手をやりながら「あらあら・・・そうなんですのね」みたいなリアクションやめてもらえませんかね?

 確かに竜族は強靭な肉体を持つ故に精力も非常に強いが、ところ構わず猿みたいに盛ってると思われるのは甚だ心外である。


「とにかく!依頼の方はお受けします。条件などの詳細は・・・」

「それについては、宰相のノイラート侯爵から説明を受けてくれたまえ。私はそろそろ次の予定があるのでな」

「分かりました」

「ああ、それと・・・」

「はい?」


 国王が口元をニヤリとさせて続ける。


「レナリアについては、きちんと責任を取ってくれるのであれば間違いが起こっても私が許そう。もちろん、先ほど話した礼とは別にな」

「だからそんなことしませんて!」

「あら?私には女としての魅力が足りませんでしたか?」

「姫様まで俺をからかうのは勘弁してください・・・」


 国王との対談は終始和やかな雰囲気だったのは良かったし、思わぬ収穫もあったので結果としては上々なのだが、なんか釈然としない・・・。


 俺はため息を吐きつつ、宰相さんと詳しい話を詰めるために別室へ移動するのだった。

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