22話 まさかの事態
"改革派"の貴族たちと顔合わせをしていると、しばらくして会場の雰囲気が少し変わった。
振り返ってみると、どうやら今回の主役が登場したらしい。
レナリア王女と一緒にいるのが国王とそのお妃様か。さっき話していた人たちによると、改革派よりではあるが保守派を刺激しないよう上手くバランスを取りながら善政を敷く賢王だそうだ。
国王一家が前に用意された豪華な席に着いたところで貴族たちはその場で頭を下げ、俺もそれにならう。
「皆の者、面を上げよ」
すっかり静かになった大広間によく通る声が響く。
俺は国家元首を見るのはこれが初めてだが、やはり国家という大船を背負って立っている人間とは、かくも威厳のあるものなのだなぁと感心した。
「本日は我が娘、第三王女であるレナリアが15歳誕生日を迎えたとてもめでたい日である。こうして皆が集まり、祝ってくれることを、この国の王として、そして一人の父親としても感謝している。今宵は皆も心行くまで楽しんでいってくれ。乾杯!」
「「「「「「乾杯!!!」」」」」」
再び会場が賑わいを取り戻し、今度は王族への挨拶をするための行列が出来始めた。
侯爵も行かないのかと尋ねたら、最初は下位貴族が一言だけの簡単な挨拶を済ませていき、後で上位貴族が会話も交えながら挨拶をするのだそうだ。
それから一時間程経って侯爵の番が回ってきたことを近衛騎士らしき男が伝えにきた。
「クライム侯爵様。陛下のもとへどうぞ」
「ああ、ご苦労」
「それと、陛下からのお言葉ですが」
「ん?」
「『娘の恩人も共に連れてくるように』とのことです」
「・・・まぁ、そう来ますよねぇ」
いくら娘の恩人だからって、わざわざ平民の冒険者をここまで招待したのだ。パーティーを楽しめ、はい終わりとはいかないだろう。
しかも侯爵と一緒にいるのが分かってるあたり、監視がついていたのか、侯爵が報告をあげていたか。まあ十中八九両方だろうけど。やはり王家からの関心はそれなりに高そうだ。
正直いうとあまり気は進まないが、ここまで来たのだから行くしかない。というわけで俺は大人しく侯爵についていくことにした。
「エドワード・フォン・クライム、国王陛下にご挨拶申し上げます。レナリア殿下におかれましては、15歳のお誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます、侯爵」
相変わらずこのお姫様はすごい美人だよなあ。・・・っと、顔に出さないように気を付けないと。
「シグル様もお顔を上げてくださいませ」
「はい、え~っと。国王陛下にご挨拶を・・・」
「ああ、無理に堅い挨拶をしようとせんでもよい。君は客人なのだから楽にしてくれたまえ」
国王は話に聞いていた通り器の大きい人物なようで助かった。堅苦しい挨拶とかやり方もよく分からんうえに疲れるからな・・・。
「恐縮です。それとレナリア殿下、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます。あなたのお陰で私はこうして無事に15歳を迎えることが出来ました。改めて、心より感謝いたします」
「私も君に感謝を伝えたい。よく娘を救ってくれた」
さすがに公の場だから頭を下げることはないものの、こうも心からの感謝をされるとどうにも照れくさい。悪い気はしないが。
「重ね重ね恐縮です陛下、殿下。それにこちらこそ十分すぎる程の報酬をいただいておりますので」
お金はいくらあっても困らないし、メダルにいたってはかなり強力だ。
実際にクライム侯爵も撃退してしまったくらいだからな。
・・・今となっては黒歴史だが。
「クスクス。そういえばあのメダル、クライム侯爵を相手に大胆な使い方をしたそうですね」
「あ~、それについては・・・」
「いえ、良いのですよ。元々あれはそういう目的だったのですから」
「しかし、殿下の寛容なお心に甘えて考えなしに濫用すれば王家、ひいてはこの国の憂いとなるのだからな。くれぐれも忘れぬように」
「へ~い・・・」
侯爵の言葉はいちいち耳に痛い。まるで学校の先生に怒られている気分だ。
「ところでシグルよ、この後時間をもらいたい。構わないかな?」
「はい、分かりました」
いくら侯爵が上位貴族で会話できる時間があるとはいえ、長話は出来ないので本格的な会話は他の貴族たちの挨拶が終わった後別室に移動してからということになった。
その時、ヴォルガから驚きの連絡が入った。
『あ、主、たすけて・・・とても、まずい・・・』
一体、何が起きた・・・!?
――― ヴォルガ視点 ―――
「はぁ・・・ノーラ、ヴォルガ。どうしてこうなっちゃうのかな・・・」
儚げな翡翠色の瞳に憂いをたたえてそう呟くのは、主の仲間であるエルフ姉妹の姉シェーラ。
対する妹ノーラと僕は・・・・・・地に倒れ付して意識を彼方へ飛ばしていた。
・・・話は一、二時間ほど前に遡る。
主が八雲とともに王城へ向かった後、僕・シェーラ・ノーラは日用品の買い出しに出ていた。
「え~っと、今回必要なものは・・・」
「・・・姉さんの使う矢とか薬草なんかの各種消耗品、あとは食料品」
「あら、そこのエルフのお嬢ちゃんたち!食べ物ならウチの店が一番だよ!見ててってちょうだい!」
姉妹の話を耳ざとく聞きつけたお店の女性が声をかけてきた。特にこだわりはないのでその店で調達をすることになった。僕は中に入らず表で待機。
「ふーん、野菜も結構新鮮で美味しそうね」
「そうでしょう?お嬢ちゃんたちのその美貌と、ウチの食料で料理を振る舞えば、男共のハートと胃袋をガッチリよ!」
「ハハハ・・・そうね・・・」
ん?シェーラの顔色があんまり良くない。どうしたんだろう?
「・・・姉さんの料理は絶望的。百年の恋も一瞬で冷める」
「んなっ!?ノ、ノーラ!何を言い出すのよ!」
「あらまぁ、じゃあ料理は妹さんの役かい?」
「・・・前はそうだった。けど今はシグルに任せっきり。逆に男に胃袋を捕まれちゃった」
主の作るご飯は里で作ってた調味料や香辛料も使ってるから、そこら辺の料理人よりもはるかにおいしいのだ。
「あらぁ~・・・そんなんじゃいけないねぇお嬢ちゃん。彼氏に愛想尽かされちまうよ?」
「なっ、か、彼氏じゃないし!それに、シグルの調味料を借りればあたしだってあのくらい・・・」
「・・・ふっ」
「こらぁーーー!!鼻で嗤うなぁーーーっ!!」
僕のような狼や犬なんかは自分の中で順位をつける習性があるけど、似たようなものって人の間にもあるんだろうか?
それでいうと、多分ノーラはシェーラよりも上みたいだ。
「良いもん良いもん!私だって頑張れば出来るもん!」
「・・・姉さん、いい歳して「もん」はちょっと引く」
「~~~ッッ!!!」
シェーラがうつむいてプルプルしだした。なんだろう、嫌な予感がする・・・
「分かった。そんなに言うならやってやろうじゃない」
「・・・あ、しまった。からかいすぎた・・・」
ノーラはやっちまった、という感じの声を出している。主が何かやらかした時に出している声と同じだ。
「二人とも!帰るわよ!こうなったら意地でもやってやるんだから!」
「・・・ね、姉さん?つまらない意地を張ると地獄を生み出す。故郷で学んだはず」
・・・とても不穏な言葉が聞こえた。もうこの場を離脱すべきだろうか。
こっそりその場を離れようとしたが時既に遅し。ノーラの襟首をがっしり掴んだシェーラがすぐ側に立っていた。
・・・まったく気付かなかった。おかしいな、僕に察知されずに近づくなんて主ですら出来ないはずなのに。
なぜかこの時のシェーラは抗いがたい雰囲気を発しており、逃げることは叶わなかった・・・。
結果から言うと、ノーラが警告した通りの地獄となった。
まず、料理は街の外で行われた。ノーラが強く推奨したからだが、理由はすぐに明らかになった。
臭いが!臭いがとんでもない!前に主が食らわされた臭い爆弾と近い感じがする・・・っ!まさか料理でこんな激臭に襲われるとは予想外だったので風の防御が間に合わなかった・・・。
「キュ~ン、キュ~ン」
うぅぅ、くさいよぉ。
「うっ、ね、姉さん。何を入れてるの?」
「何って、スメリートレントの実よ。香り付けにね」
「・・・おかしい。絶対におかしい」
「ノーラはちょっと敏感すぎるのよ。確かに独特でクセのある匂いだけど、味はわりといけるんだから」
「グルゥ・・・ッ、ウォン!」
ぜっっったいに、嘘だ!
たとえ本当でもこんな臭いじゃおいしさを感じるなんて出来ないし!あとなんか「ゴポッ・・・」って謎に粘りけのある泡出てるし!
「さ、出来たわ!召し上がれ!」
「・・・全力で拒否する」
「ガゥッ!」
誰が食べるかそんなもの!
食器に盛り付けられたそれは、紫色でドロドロとした名状しがたいナニカだ。
「なによ、あなたがあんまり言うから証明しようとしてるんじゃない」
「・・・証明ならもうしてる。姉さんの料理はヴォルガすらも萎縮させる世界最強レベル」
「キュ~ン・・・」
ノーラがどれだけ言ってももはや聞く耳を持っていないシェーラは、「いいから黙って食べなさい、ほら早く♪」と謎スープを近付けてくる。
「"全速力で"・・・あ、あれ?うごけな、あばばば」
「ガ、ガウゥ・・・」
からだが、しびれて、動かせない・・・。ノーラも精霊魔法をうまく発動出来なかったみたいだ。
「あら?どうしちゃったの二人とも?」
「・・・し、し、しびれた・・・」
「薬草とブレンドした何かが反応しちゃったのかな・・・これは新たな発見になるかも」
「・・・そんな、ことより、はやく、たすけて・・・」
「あ、ごめんなさい!ちょっと待ってて・・・」
シェーラはハッとした様子で慌てて謎スープのお皿を脇に置いた。
良かった、これで謎の物体を食べさせられずに済みそう・・・ん?
「はい、これで痺れがとれて食事にもなる。一石二鳥よ!」
・・・なんでまた同じモノが出てくるの?
「・・・きょ、拒否する・・・」
「ワガママ言わないの。ほらあーん」
「や、やめ、ぐっ・・・・・・」
ノーラが、動かなくなっちゃった・・・。
「はい、ヴォルガも。あーん」
「ガ、ガウゥ、がふっ・・・・・・」
これは、ひどい・・・あらゆる味覚が絶妙にバランス悪く混ぜ合わされて、とにかく不味い以外の感想が出てこない!
『あ、主、たすけて・・・とても、まずい・・・』
『ヴォルガ!?何があった!?』
あ、だめだ、意識が・・・・・・
薄れゆく意識の中、僕が目にしたのは・・・
「はぁ・・・ノーラ、ヴォルガ。どうしてこうなっちゃうのかな・・・」
翡翠色の瞳に憂いをたたえてそう呟くシェーラだった。




