第217話 賞
【パレス 大広間】
「ドレボティアーノ!!」
激しくしっぽを振って駆け寄ってきた犬を、バートは大きく腕を広げ、満面の笑みで迎えた。
「アン!」
「そなたにカテの称号を与えようぞ! セレナ勲章だ、ヴァルバード賞だ、アクロ肉を持ってくることだ!!」
「アン!」
名誉だ、大手柄だ、と褒め倒す。
大はしゃぎのバートに、犬も耳をぴょこぴょこと動かし、すっかり上機嫌だ。
彼の娘は、側にいる乳母が涙ぐみながら抱えている。眠いのか、まばたきしながらもぞもぞと動く。
ニアラだけでなく、見えざる者に攫われた子供達は皆、無事に解放された。
どうやらこの犬は、ニアラが攫われた時にニアラの側にいて、憐れにも一緒に見えざる者に連れて行かれたらしい。
この犬は健気にもずっとお嬢様の側にいて、お嬢様を守っていたのだ。お嬢様がいなくなった事に気を取られ、館の者達にすっかりその存在を忘れられたというのに。
そんな健気な犬に、屋敷の者達は皆涙を流しながら讃える。
「すぐに準備をすることだ。アクロ肉、どこぞで買えることか?」
「もう閉まってます、バート様」
「無礼な!」
「幼稚なことを仰いますな!!」
盛り上がるラナマン家の一行。団員達は皆、曖昧な笑みを浮かべて誤魔化す。
「見つけたん、俺らやで」
「だな」
「まぁまぁ」
ぼやきながらも、並んで座るその表情には安堵があった。
「人騒がせな奴だったな」
異能機関の情報局は、民に危機意識を植え付け、統率させようとした。見えざる者の噂をわざわざ作り出し、街に流したのだ。
だが結局その噂は意味を成さず、狡猾な見えざる者に噂を利用されてしまった。
もう少しで、ラナマンの後継ぎを失うところだったのだ。
「驚きましたよ、ロットマイヤーさんに話を聞いたんですけど」
ロットマイヤーが話していた、ガーデンに出資しているという人物。戸締まりせよと、彼女に噂を伝えた人物。
「異能機関ではなかったですが、政府の近い機関の方だったんですよ」
「え〜、そうなのぉ? ビックリ」
ヨースラの話に、レオナルドも頷く。
「オレが話聞いた酒屋のおっさんは、親戚が政府の人だったってよ!」
「ワーニャさんが言ってたケフの集会は、政府機関の麗しい奥様方の集まりだった」
──何とも皮肉な話だ。
噂の真実を確かめる為に、団員達は街中の人々に聞き回った。あれほど歩き回ったのに、結果噂の話を聞くことが出来たのは、この三人のみ。
要するに、レイク達が一生懸命に広げたこの噂。政府の関係者と関わった者以外には、さっぱり広まっていなかったということだ。
ナエカは、窓の外に視線を向ける。
「国の人達は、騙されなかったんだね」
「見えざる者とずっと戦っとるんは、俺らだけやないからな」
「その通りよ」
「エリーナさん」
エリーナは団員達を見渡すと、フッと笑みを浮かべて頷く。
姿の見えない怪物達。
おとぎ話のような街に、おとぎ話のような化け物がいる。レイクの言った通り、この国の民達は、毎日いつ襲われるか分からぬ恐怖と、隣り合わせで生きてきた。
だからこそ、剣の団が誕生した。
戦えない民達に代わり、見えざる者に対する剣となるように。
だが、その考えは少し間違っていたようだ。
「国のみんなも、見えざる者と戦ってきたのよ。あの噂が真実に変わった瞬間、みんなはすぐに反応した」
そして、すぐにその声を届けてきた。
これも、民達が日頃から関係を作り、連携をとっているからこそだろう。そしてその関係には、団も入っている。
だからこそ、偽の噂を見破ることが出来た。
「私達の仕事も、民のみんながいてこそね」
「ふーん」
「……」
アイリもナエカの真似をして、窓の外に顔を向けた。穏やかな夕陽が、街に射し込みオレンジ色に染めていく。
目に見えない恐ろしい化け物がいる街なのに、この街は今日も麗しく、賑やかだ。
「レイク局長のお考えより、この国のみんなはずっとずっと強いと思うわ」
私達も、負けてはいられない。
「私達は、この国みんなの剣、みんなの盾なんですもの」
age 15 is over.
次回予告!
「ショウリュウが!?」
「……あれは、おじいちゃんがショウリュウにあげたものだよ」
「おかしな事言ってるかな?」
「果てしねえぇーーーー!!!」
「大事にしてる物なくした時の気持ちくらいは、同じだと思うから」
次回、age 16!
君のたからもの!
「アイツは俺が逃した、だから俺がぶっ倒す」
お楽しみに!




