第213話 再現
まだ若いショウリュウに、はっきりと図星を突かれたのが分かったのか。
レイクは顔に血でも溜まったように、一瞬にして顔をむくませ、頬を赤く染め上げる。
「黙らないか、雇われが生意気な口をきくな! 民の統率が必要なのだ。私達は、国の危機に対して国民の危機意識を──」
「そのお言葉」
何やら言葉を並べるレイクに、エリーナは割り込む。
氷のような冷え切った声に、ナエカとレオナルドは思わずビクッと肩を震わせた。
「バート社長の前で、直接仰ったらどうですの?」
今日一番の冷たい風が、通りを駆け抜けていく。
流石のレイクも、父親の名前を出されると口をつぐんだ。
周りが静まりかえる中、エリーナはゆっくりと団員達を見渡す。一人一人、じっと見つめて。
──オーガ、やっぱり私はあなたのような団長には、なれそうもないわね。
エリーナは、僅かに笑みを浮かべて告げた。
「みんな、話は分かったわね」
戸惑ったり憤ったり冷静になろうとしたり。忙しかった団員達の顔が、徐々に色を落として落ち着きだす。
「お、おっしゃあ!」
「仕事せな」
「後始末かよ」
「……早くしないと」
「カリン、頑張る〜! ウフッ」
「急ぎます」
ニアラお嬢様と見えざる者を探しだそうと、一気に通りにとびだす。そんな彼等に、レイクはわたわたと焦ることしか出来ない。
「ま、待ってくれないか! まだ話は──」
「細かい話は後にしましょう、当然でしょう?」
時間が無いのです。
アイリは、毅然とした態度のエリーナをポカンと見つめた。
先程から、会話の意味も流れもさっぱり分からぬまま、アイリは一人立ち尽くしていたのだ。
──これは一体、どうしたんだろう。エリーナさんも、他のみんなも、ショウリュウだって。通りの人達も何があったの?
バートの娘さんがいなくなった、見えざる者にさらわれた。アイリが分かっているのは、それだけ。
皆どうして、あんなに怒っていたの?
とにかく、お嬢様を助け出せばいいってこと?
「アイリ」
その時、誰かがアイリの腕を掴んだ。
ハッとアイリが振り返ると、ルノだった。真剣な眼差しで、アイリに目配せする。
「行くよ」
「は、はい!!」
アイリは状況が理解出来ないまま、とにかくルノと救出に向かうことになった。
各々が、今度こそ動きだす。ニアラを救うために。
「ここまで人がここに集まったら、その見えざる者も惹かれてここにやって来るかもしれへんな」
「通りにいる皆さんも危ないですよ」
「ジェイ、探すのはラナマンのお嬢様よ。あなたの能力で探せるかしら?」
「うーん、自信ないなぁ。とりあえずやってみるわ」
「分かったら、すぐに知らせてちょうだいね。ドナ達に連絡をとって、指示に従って。それと、さっきドミトリーさんが気になる事を言っていたのよ」
エリーナがテキパキと指示を出すと、団員達は次々と、通りを駆け抜けていく。
それを見届けると、ようやっとレイクの方を振り向いた。
今だに落ち着かない様子で、バートのお付きの者にチラチラと視線を送っている。周りの人々の冷たい視線を受け、顔色を青くしながら。
エリーナは構うことなく、スッとレイクの目の前にしゃがみこむ。
「あなた達が流した噂について、もう一度話を聞かせてくださるかしら」
「え?」
「あなたが私に話した噂の内容だと、子供達が鐘の音に操られて勝手に外に出て行くような、そんな内容に聞こえたわ」
どうやってか噂を聞きつけた見えざる者は、その噂を利用した。実際に再現することで、本当に攫われたか否か、分かりにくくしたのだ。
だが、その噂を見えざる者が利用したなら、腑に落ちない部分がある。
「ニアラお嬢様はまだ赤ん坊で、自分で立って歩くことが出来ないの。これだと、噂の再現にはならないでしょう。どんな噂を流したのか、もっと正しくはっきりと教えてくださるかしら?」
「正しく、だと?」
「えぇ、あなたは仕事をしないんですの?」
「……」
レイクは今だに体を震わせていたが、なんとか口を開いたのだった。




