第209話 造反
【パレス 大広間】
「つまり、ハーショウさんもほとんど知らんってことかいな」
広間に集められた一同。
エリーナの話を待っていた皆は落胆したり、戸惑ったり。忙しなく表情を変えて返す。
「待たせてごめんなさい」
「ハーショウさんったら、つまんないの〜。情報局の話なのに変なの〜。ウフッ」
「ジョウホウキョク……」
折角ハーショウに話を聞いたのに、ほとんど空振りだったようだ。
「あのハーショウさんにも、知らないことあるんすね」
「……何それ、ちょっと怖い」
眉を下げるナエカを横目に、ヨースラが考え込む。
「えっと、ハーショウさんの話をまとめると」
レイク局長はその噂を、長く調べていたらしい。
エリーナに噂の話をしたが、詳しく話したわけではなかったらしい。調査しろ、ではなく、調査まではして欲しくなかった。
噂について詳しく知られたくないから、手を引けと言ってきた、ということらしい。
何か裏がある、らしい。
「らしい、ばっかりじゃねーか」
「そうなるわね」
「きゅー」
アイリは考えることを放棄し、目を回してしまった。どこから考えればいいのか、さっぱり分からない。
「でも、噂が広がっているのは本当の筈だよ。この僕が、わざわざワーニャさんに聞いてきたんだからね。ケフの集会で、そんな噂を聞いたって」
「何回言うんだよ、それ。てか、誰だよワーニャって」
「向かいの通りの、酒屋のおっさんも言ってたっつの!」
「ヨーも、トニーのおる施設の人に聞いたって言うとったよな」
「トニーくんのおかげです。局長さんが、噂のことで知られたくないことって……」
噂そのものは、意味を持たない。
噂の存在は間違いなくても、噂の内容そのものが真実かどうかすら、まだ分からないのだ。
「本当に攫われてんのかねぇ?」
「噂そのものはありますからね」
「ちっちゃい子達、大丈夫なのかなぁ〜」
「……」
「エリーナさん?」
反応が無いエリーナに、カリンは心配そうにエリーナの顔を覗き込む。
何やら、ずっと考えこんでいるようだ。
そんなエリーナに、ジェイが声を少し張り上げ、尋ねる。
「どないするんや、団長。調査続けるんか、それともやめるんか?」
「続けるったって……」
続ける、事が何を意味するか。
異能機関は帝国の政府管轄の機関であり、情報局は機関の中でも特に力を持つ。
そのトップに立つ局長からの指示は、実質的に政府からの、つまり国からの指示になる。
そしてこの剣の団も、一応ではあるが国が立ち上げた組織で、政府の下についている。
最早、指示という軽い言葉では扱えないかもしれない。
指示に従わないことは、国への造反にあたる可能性があるのだ。造反とみなされた者は、無論罪に問われる。
「反逆者……」
ナエカの小さな呟きが皆の耳に届き、場に緊張感が流れる。
状況がよく分かっていない、アイリを除いて。
「そう呼ばれちゃうのかな」
「国に逆らう、か」
二の足を踏む、とはこのことか。オーナーは、これを警戒していたのだろう。
「いいのかよ?」
「俺は、団長の指示に従うで」
ジェイの言葉は、透き通り揺らぎなく。
平然とした表情で、じっとエリーナを見つめる。
ジェイの言葉に押され、皆もエリーナの方を向いた。
「……」
エリーナは悩んだ末、口を開く。
「──子供達が攫われていない可能性は、消えていないわね?」
「うっす」
唐突な返しだったが、レオナルドが戸惑いながらも返す。
「確かに、私達は国に仕えているわ」
レイクの指示に逆らうことは、国や政府に逆らうことになるだろう。
「でも、その国や政府は誰の為にあるのかしら、民の為にあるものよ」
その言葉に、皆もハッと顔を上げた。
「私達は、見えざる者から民を守る為にこうして集められた。見えざる者に攫われている子がいるかもしれないのに、私達が動かないなら、ここにいる意味も必要も無いわ」
「……」
「反逆者と呼べるものなら呼んでみろと、そう言いたいのは私だけ?」
皆の瞳に、どんどん色がついてくる。
はっきりした、決意の色。
エリーナは、フッと口元を緩めた。
「調査を続けましょう。明らかにこの一件は不自然だわ、慎重にね」
「おっしゃあ!!」
「急ぎましょうか」
「了解〜! ウフッ」
「あーあ、手間のかかる」
皆は、気合い十分で扉を開けて部屋を出て行く。
アイリは、一人広間に取り残されてしまった。
「えー……」
分かっていないのは、アイリだけらしい。
アイリは困惑しながらも、部屋を出て行くのだった。




