第205話 川
【コドマ通り】
近くに川が通る、見晴らしのいい通り。石畳の道をスクーターが一台と、スケートボードが駆け抜けていく。
駆け抜けていくのは、スクーターだけではない。爽やかな風も。
「ふぅー!!」
アイリは、車輪がついた靴をブラブラさせながら、ぐっと空に腕を伸ばした。
ずっと乗ってみたかった、スクーター後ろの特等席。頰を撫でる風も心地よい。
隣でスケートボードを走らせるヨースラは、思わず苦笑する。
「ご機嫌ですね、アイリさん」
「気持ちいいです〜」
アイリが乗るスクーターを運転しているのは、ルノだった。
あれから、適当に何組かに分かれて調査することになり、この三人になった。
車輪付きとはいえ、横で足で併走されるくらいならと、ルノがアイリを後ろに乗せてしまったのだ。
勿論、ナエカにボヤかれたのは言うまでもない。
「ふぅー!!」
自ら決めたとはいえ、ここまで楽しそうだとルノも気恥ずかしくなってしまう。
そんなルノを、隣でヨースラがニマニマしながら眺めてくるのが、癪に触るのだった。
住宅の多い地区に到着し、自然とスクーターの速度を緩める。
「街の人に聞いていくんですよね、噂のこと」
「うーん、はっきりと噂の内容を伝えて大丈夫でしょうか。怖がっちゃうかも」
噂を知らない民を、恐怖に陥れることになりかねない。
難しい所だ。
「……」
「ルノさん?」
気が乗らない様子のルノを他所に、ヨースラはあっさりと民に話しかける。
「こんにちは」
「ひゃあ!!」
優しそうな若い婦人だ。ヨースラの顔を見るなり、顔を真っ赤にした。
「ちょ、ちょっとみんなぁ、ヨースラよ!!」
「きゃあああ!!」
「びゃああ!!」
「こんにちは、皆さん」
大人気だ。
人が人を呼ぶ。ヨースラはあっという間に、人の波を集めてしまった。
眩しい笑顔で婦人達と会話するヨースラに、アイリとルノは後ろで目を見合わせる。
アイリは、ふぅ、と息を吐くとルノの腕を掴む。腕に走った感覚に、ルノはギョッと目を見開いた。
「い」
「ルノさん、行きましょ!」
なんとなくでも勇気を出し、人の波に近付く。
標的は、波の後ろ側にいた。野次馬で寄ってきたであろう一人、がっしりした腕が剥き出しの男。
「あの、こんにちは!」
「お、おお!! アイリちゃん」
思いの外大きな声が出てしまい、驚かせてしまう。
驚かせてしまったのは、アイリだけではなかった。男は、アイリに腕を引かれてやって来たルノに、目を丸くする。
「おわ」
「……」
「剣の団、巡回です!」
アイリが元気に話しかけると、男もぎこちないながらも笑みを見せた。
「そうか、ご苦労様だね」
「あ、あの、どうですか。見えざる者について、何か噂とかないですか」
「へ?」
……上手い。
ルノはアイリが放った言葉に、僅かに感心する。この聞き方なら、違和感なく情報を集められる。
「うわさ?」
「……例えば、不審な物音がするとか、誰かがいなくなっているとか」
「そ、そうそう! どうですか?」
突然口を開いたルノに驚きながらも、アイリはブンブン首を縦に振り、肯定する。
さり気なく、噂の内容を盛り込んでみた。
男はああ、巡回だからと納得したようで、首を傾げ考えこむ。
「うーん、今のところそんな話は聞かないなぁ。少し前に教会で騒ぎがあったようだが、そこからは平和なもんだよ」
「そう、ですか……」
ここの通りには、噂は広まっていないのか。
「何かあったのかい?」
「い、いえ! そういうわけではないんですけど」
さり気なくヨースラの方にも視線を送ってみるが、そちらもどうやら収穫は無さそうだ。
どうやらこの通りの婦人達は、皆知らないらしい。子供がいる婦人も、多くいるのに。
例の噂、シティー全てに広がっているのではなかったのか。
「場所を変えた方がいいでしょうか……」
ヨースラは困った様子で、他に人がいないかさり気なく辺りを見渡す。
その時川のそばで、人の波を通りかかる二人組の姿。
杖を持つ少年と、老眼鏡をかけた厳格そうな中年の女性。女性は見覚えが無いが、あの少年は。
「あっれぇ、あそこに人たくさんいるよ。何かあったのかな」
「おや、そうでございますでごさいますね」
聞こえてくる、二人の会話。
ヨースラは、聞き覚えのある声にハッと顔を向けた。
「トニーくん!!」




