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前編第二章 剣豪2(ロシェーン視点)

ケイン兄弟が入門してから半年、兄のイーアンは予想通り貴族子息の中で最も強い剣士になりました。最初のころにローカンを絡む人たちもイーアンには一本も取れませんでした。そんなイーアンは、いつも親戚の様子を見に来ているご令嬢たちにはモテています。一方ローカンは、こちらも悪い意味で予想通りでした。前よりは確かに少しうまくなりましたが、むしろ半年であれば当然の成長と思うのですが、どうしても周りはローカンをイーアンと比較したがります。いつの間にかはローカンはイーアンの劣等の弟と呼ばれました。


私はそんな周囲に腹が立ち、イーアンも何とかしようと思っていたのですが、当の本人はお構いなくの様子でいつものように動物とじゃれ合い、私とイーアンといるときの笑顔もいつも通りでした。そんな彼を見て、私とイーアンの怒りはもうさっぱり消えてしまいました。


「あいつは、本当に、いつもそうだな」

「いつもとは?」

「こっちの気も知らないでってところさ。あんな性格だから、実は前から悪く言われてるんだ。そんなやつらに俺が思い知らせる!と兄としては何とかしたいと思ってるが、肝心のあいつは俺の言葉を本当に分からない感じで、説明したらあいつは無邪気な笑顔で、「兄さんが僕のこと想ってくれるだけでうれしいよ」とさ。そう言われたらもう何もできないさ」

「そうですか。兄弟仲がいいって、うらやましいですね」

「大丈夫。ロシェーンにならローカンは任されると俺は思うからな」

「どの目線ですかそれ?でも、ありがとう」


イーアンは私の気持ちを知っていて、いつも私たちを気遣いながら応援してくれました。とても良い相談相手で、良き友達でした。この二人とずっと一緒にいたい。当時は強くそう思い、何の疑いもなくそうなると信じていました。


ある日、とある出来事でその確信が崩れ始めるまでは。


その日に珍しくローカンは稽古に遅れていました。イーアンに聞いたら先にケイン子爵家の屋敷から出発したとのことですが一向も来る気配がありませんでした。ブレンダン義兄上にも相談し、ローカンを探そうとその時、ローカンは突然道場に現れました。お父上と共に。しかも、ローカンはひどく傷ついていました。


「ローカン!どうしたのよ!?この傷、すぐに治療しないと!!」

「この傷は酷い…!誰にやられた!?こんなのは、もう許すことができない!!」


私とイーアンはすぐローカンに駆けつけたが、ローカンはまた私たちの心配を笑い飛ばしました。しかし、今までとは違う笑顔で。


「だ、大丈夫よ。兄さん。ロシェーン。僕なら、平気。見た目より痛くないし、やった人も、もう…師範がやっつけてくれたんだ」


ローカンは何かを押し切るための笑顔を作り私たちを安心させようとしました。そんな痛々しい笑顔は、ローカンにはとても似合わなかったと私は思っていました。そして、お父上の名前を口にするときの彼の目には悔しさを感じましたが、そんな感情がローカンにはないと信じていた私にはただの気のせいだと思い込んでしまいました。もっとローカンの気持ちを分かっていれば、今もずっと後悔しています。なぜならその後に、ブレンダン義兄上と話しているお父上が信じられないことを言ったからです。


「ブレンダン。こいつの傷の手当をしろ。それと、こいつは明日から”通常“の稽古に参加する。面倒見はお前に任す」

「お父上!?いったい何を仰いますか!?」

「…御意。ローカンと言ったな。俺はカロル流の中伝、ブレンダンと申すものだ。最初に言っておくがここから貴族の爵位は無意味だ。全員等しく師範の弟子だ。いいな?」

「…分かりました。よろしく、お願いします。ブレンダン先輩」

「義兄上!?ローカンまで!!」


私とイーアンを置いて、三人は話を進めていました。最後に去る前に、ローカンは私たちに言いました。


「兄さん。ロシェーン。ごめんなさい。これは僕自身が決めたことなんだ。だから大丈夫だよ。じゃあまた後で」


そしてローカンはお父上とブレンダン義兄上の後を追って行った。


“通常”の訓練は、別に危険な訓練ではありません。確かにより厳しいが、あくまで心身を鍛えるために人の身体が耐えられる鍛錬を行うのです。違うのは心構えのほうです。カロルは古くから剣の道を極める武家。戦乱の時代に戦果を挙げて貴族になりましたが本質は変わりません。剣で生き、剣で死ぬ。つまり、剣を学ぶのに命を懸けるのです。“通常”訓練の門下たちは誰もがその剣の技術を生かす道を選びました。ローカンがそんな道を歩むのを信じられませんでした。いいえ、信じたくはありませんでした。


それから一か月が経ち、ある日久しぶり稽古の休憩の間に会っていたローカンは変わっていませんでした。ただ庭の草原にのんびり座って、どこから来た動物たちとじゃれあっています。私とイーアンが話しかけたときに向けてくれた笑顔も変わっていません。しかし、


「ローカン!稽古の再開だ。早く来い!」

「はい!」


ブレンダン義兄上に呼ばれて、ローカンの目つきと雰囲気が一瞬に変わりました。近くのにいる動物たちもその変化に気づき、咄嗟にローカンから離れて行った。そんな様子を見た私とイーアンも一瞬鳥肌が立ったと感じました。ブレンダン義兄上だけが相変わらずで、そんなローカンの頭に木剣で軽く叩いた。


「こら。気が荒ってんぞ」

「あ、すみません」

「もっと気の回し方に意識しろ。余計な所に殺気立ってりゃ生き辛くなるぞ」

「はい。えっと、呼吸を整えて…ふぅ…。うん。ごめん、ロシェーン、兄さん。みんなも、ちょっと気合入り過ぎた。じゃあ、またね」


義兄上に注意されて、ローカンは元の雰囲気に戻りました。この雰囲気の変わりは、確かに“通常”の門下たちと一緒でした。普段は気さくで親切な人たちが、剣を握るとまるで別人のように変わる。敵を斬る。そんな剣幕が身体全身から振り出すように見えます。まさかローカンからそんな雰囲気を感じる日が来ると思ってもいませんでした。


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