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前編第終章 再会する三人2(パトリック視点)

ライアン王国王都中央街、噴水の広場。日が沈み、周りの道は静かだった。広場の噴水を回って三方向に道化師、騎士、黒ずくめの男がお互いを対立していた。沈黙の中、先に声を出したのは囚われていたイーアン・ケインだった。


「お、王子!騎士を連れて助けてくれたんですか!?ああ、ありがたい!どうかこのイカれたピエロを天罰を与えてください!貴族と王族に仇なす者がどうなるか思い知らせてください!」

「イーアン…」

「ロシェーン!?君はなぜここにいるんだ!?ここは危ない!早く逃げるんだ!」


そんな状況でロシェーンの安全を気にするイーアンはその父親を殺したなどとても思えない。イーアン・ケインは騒いでいた傍らに道化師は動じもせずずっと他の二人の男を見つめていた。沈黙が破れたからか仕方ないという風に彼は話し始めた。そして、


「やれやれ。懐かしい顔がぞろぞろと来やがって。同窓会でも始まんのか?わりーが今晩は先約があってね。パーティーのピエロは他を当たってくれ」

「コンラン…」


ピエロの仮面を取りその顔を見てクイーン公女は彼の名前を呼んだ。コンランとは確か彼女の下町の友人だったはずだ。その人が貴族街を騒がせたというのか。下町の人間が貴族たちを弄んだのか。

道化師、コンランの言葉に答えたのは黒ずくめの男。彼もまた口元のマスクを取った。その顔に、頬には大きな傷跡が残っていた。


「お前たちに用はない。用があるのは一人の男にだけだ」

「ローカン…」

「ローカン...!?なぜ...?」


今度はロシェーン嬢とイーアン・ケインがその男の名前を呼んだ。ローカン・ケイン。イーアン・ケインの弟で自分の師を恋人を守るために殺した後姿を消した謎の人物。その理由も不明で、今となっては実は殺していないだという事実が発覚した。それにしても、ケイン兄弟とは小さいころお茶会で会ったこともあるがそのころより雰囲気がずいぶんと変わった。別人と言われても不思議ではない。

さらに続いて騎士、リアムは自分の兜を外しローカンの言葉に賛同を発した。


「右と同じ。そして俺は仕事で来ている。お前らの相手をする暇はない」


これで三人は本当の意味で顔合わせをした。リアムによっては約10年ぶりの再会。なのに状況は古い友人が再会を喜び合うのそれではなかった。三人の目的はただ一つ。


「「「イーアン・ケインをよこせ」」」


一つの目的のために三人の口論が始まった。


「聞いてなかったのか。仕事だと言ってるんだ。大人しくその男を引き渡せコンラン」

「横暴だなー騎士サマがよ。説明なしで連行するったーいいご身分なこった。なあローカン」

「リアムの任務など関係ない。お前も退け。俺はその男に用がある」

「その男、ねえ。テメエの兄貴に対してずいぶんとそっけないな。ほらお兄さんが戸惑ってるぞ」

「いい加減にしろお前ら。これでも王太子命だぞ。イーアン・ケインはこちらで保護する」

「ハッ。腑抜けたもんだ。平民の犯罪者ならことごとくしばいてんのに貴族の犯罪者は保護かぁ。それで意味なく裁判してまた逃がすのか?」

「だったらお前はどうする気だ?またいやがらせでもするのか?それこそ何のも意味がある?」

「これでも...我慢してたんだぜ。罰する権力(ちから)もなく、悪党貴族どもをいやがらせ程度でこじらせ平民(おれたち)のモノの取り戻しだけはしてきた。そんなことしてもなんも変えられねぇってことくらい分かってる。それでもすっ立ってるよりマシだった。そう繰り返してやっとデカいヤマが暴かれたのにその親玉をやすやすと見逃したんのはどこの誰だ!?」

「間抜けなのは分かっている!だが、この国が危ういのも分かっている!あの変態ジジイでも国を支える柱の一つ。徹底的に潰せば国は崩壊する!そうなれば民を守るどころじゃないだろ!」

「それで民をその国の柱とやらに生贄にしてしまったら本末転倒もいいところだ。救けるべきものを見失ってんじゃねぇぞ!」

「野放しなんてさせるか!二度と悪事なんかさせない!そのためにもそいつを捕らえるのが必要だと言ってるんだ!」

「それがムダだっつってんだろ!この国があの野郎をシバくなんざできゃしねー!だからオレはこの手で息の根を止めてやる!あいつの下にアメェー蜂蜜吸ってる豚どももな!!」

「だからそれが国の崩壊に繋がるって言ってんだろうが!貴様はこの国が壊れてもいいのか!?」

「悪を許せないと生きていけねぇ腐った指導者が治める国なら滅ぶべきだ」

「ふざけるな!国の保護無しで生きれるほど人々全てが強くなんかじゃない!」

「もういい。くだらない言い争いは他所でやれ。その男は頂く」

「「テメェ/貴様には一番渡しちゃいけねーヤツだろうが!」」

「しつこい奴らだ。身内の問題だ。首を突っ込むな」

「いいや突っ込むね。土足で踏み込んでやるね。テメェにだけは絶対渡さねーから」

「もう十分だろローカン。これ以上自分の手を汚す必要はない。身内殺しになんかさせない」

「…リアムに言いながらお前もそう変わらんなコンラン。腑抜けだ。剣は斬るために使うもの。守るだの救すけるだの、この鉄の棒一本で背負えるものなんざたかが知れている。ならばやれることは一つ。悪を根の底まで叩き切る。それが誰であろうともな」

「けっ。強がるなよ泣き虫が。その道の先は孤独だ。道の果てに泣きわめいても誰もいやしねぇぞ」

「引き返せローカン。まだ間に合う。身内殺しは悪党を斬るのとワケが違うんだ。自分が守りたいものを思い出せ」

「引き返す?今更どこに帰るというんだ?涙ならもう乾いた。もう俺には進む道しかない」

「このままだと貴様も悪党に成り下がると言ってんだ!!分かれよ!」

「分かっていないのはお前だリアム。言っただろ。悪党だと身内も関係ない。無法に悪党を斬捨ててきた俺は人殺しだ。もうとっくに罪人なんだ。報いはいずれ受ける。その前に、身内の不始末はこの手でけじめをつける。だから、お願いだ。二人とも、俺の邪魔をしないでくれ」

「…妙だと思ってたんだが、ローカンてめぇ最初(はな)っからわかってたんだな。感づいたってゆう方がいいか。犯人捜しってんのは嘘っぱちで知り合いも誰もいない場所で一人で決心を固めていた。ハッ。進むしかないだぁ?テメェで逃げ道を塞いでんじゃいねぇか、ざけんな」

「何かあった時ってそういうことか…笑えない冗談だな。頭にきたぞ」

「そう…だな…」


お互いの考えを話し気持ちを洗い出し、それでもなお三人の会話は平行線についた。僕は、僕たちは三人の話についていくことが出来なかった。面を食らっていた。エームルも同じか、震えた声で僕に自分の戸惑いを聞かせた。


「パトリック様、どうしましょう?わたしは、どちらが正しいか判断しかねます。民を守り悪を正す。そういう意味三人ともわたし立と同じ思いで同じ目的を持っているのになぜこんなにも違うのですか?」


僕は何も答えられなかった。なぜなら僕もまた同じ疑問を抱いていた。


「いいえ、そもそもこれは本当にわたし自身の思いなのでしょうか…?貴族だから、王家になる人だから…そんな裏付けしないとわたしは彼らのように、今も民や国のことを思っているのでしょうか…?」

「いやしっかりしろ!エームル!俺たちは貴族で王族だ!民と国を思うのは当然だ!それがまぎれもない事実で正しい在り方」


まるで自分に聞かせるように僕は言葉を紡いだ。それを否定したら僕たちの今までの人生全てを否定することになる。それだけは認めてはいけないと思った。


「そうね…別に貴族じゃなくても自国を、隣人を、大切な人を思うのは皆同じ。だから助けようと思えるの。私の大切なコンラン…なんで、今までそんな気持ちを話してくれないのよ…馬鹿ッ」


クイーン公女、いや、今のはただのショーナとしての気持ちなのだろう。下町に育ち、生きるために助け合うのが当たり前のあの教会の、お神父(とう)さんの教えに従って幼馴染のコンランと暮らしていた。なのにその幼馴染が自分に抱いていた悩みを打ち明けてくれなかった事実にショックを受けていた。同じように、自分には何も知られず恋人に置いて行かれたロシェーン嬢は最早発する言葉もなくただただ泣いていた。

向こう側にいたイーアン・ケインもまさか自分の弟が自分を殺しに来るのは思わなかっただろう。ずっと目の前の光景に信じられないと言わんばかりな顔をしていた。

僕たちが戸惑って気持ちの整理を出来ていない中三人は動いた。それぞれが自分の腰にぶら下がったものに手を掛けた。


「ローカンにゃコイツをさせねぇ。そしてリアムにわりーがもう国を信じられねぇ。今度はオレがこの手で前からやるべきことやる」

コンランは左手でこの国にはなじみではない細い剣の鞘を持ち右手の逆手で刃を少し出しながら柄を握り独特に構えた。


「ローカンをこれ以上手を汚させはしない。そしてコンラン貴様もだ。自己満足の正義は通させやしない」

リアムは王国騎士のセイバーを抜き、王国騎士流に片手剣を構えた。


「剣で生き剣で死ぬ者同士…その道がぶつかれば己が剣で切り開き押し通すのみ。コンラン、リアム。また会えてよかったよ」

ローカンはカロル流が使用する諸刃の剣を両手で構えた。


しばしのにらみ合いの後、少なくとも僕の目には追うのもやっとの速度で三人の影がぶつかりあった。

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