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モーモー太郎伝説  作者: おいし
第二章
57/122

【第57話】 散りゆく者たちの誓い

 桃十郎は怒涛の勢いで王政軍に切り込み、敵兵を次々となぎ倒した。その姿はまさに戦場を舞う鬼神そのものだった。


「うおおおお!」


 圧倒的な速度と力に、王政軍は為す術なく崩れ始める。だが、桃ブーツが与える力は強力な反面、決して長くは続かない。この力が切れた時こそ、同盟軍の真の窮地となる。


 一方、別の死闘も限界を迎えつつあった。


 特秀同士の戦い――タオズとポクスン、そしてメロコトン。


「くっ……強すぎる……」

「なんだよこいつ……前より遥かに強くなってやがる……」


 二人の体には無数の傷が刻まれ、立っているのがやっとだった。


「双子よ、ここまでだ。潔く死ね」


 メロコトンは冷たい言葉とともに大剣を高々と振りかぶった。


(終わりか……!)


 その刹那――風を切る鋭い音と共に、一人の男が凄まじい勢いで飛び込んできた。


 ガキィィン!!


 大剣を両手でしっかりと受け止めたのはヨサクだった。


「なに……?」

 メロコトンは一瞬、戸惑いを隠せない。


「何をしてるんです!タオズ!ポクスン!あなた方は特秀でしょう!?まだ戦えるはずです!」


 ヨサクは気迫に満ちた声で叫ぶと、全力でメロコトンの剣を弾き返した。


「三人なら勝てます!一緒にこの男を倒しましょう!」


「ヨサク……仕方ねぇな……」

「欠陥品のくせに偉そうに言いやがって……」


 三人の視線が一つに交錯した。


「雑魚が何人集まろうと無駄だ!」


 メロコトンが叫ぶと同時に、壮絶な剣戟が再び巻き起こった。メロコトンは大剣を流れるような動きで振り回し、三人を同時に押し込んでいく。鋭い斬撃が次々と繰り出され、その速さと威力に圧倒されそうになる。


「くそっ、速すぎる!」

「連携で崩すぞ!」


 タオズとポクスンが絶妙なタイミングで鉤爪を交互に繰り出す。しかし、メロコトンの守りは完璧に近かった。


 一方ヨサクは隙を見つけては鋭い突きを放ち、メロコトンを牽制する。戦いはまさに一進一退。誰もが一瞬でも気を抜けば命を落とす、極限の攻防が続いていた。


 そしてその時、ほんの僅かな隙がメロコトンに生じた。


「そこだぁぁぁ!」


 タオズの鉤爪が、メロコトンの左胸を貫く。


「ぐっ……貴様ぁ……!」


 メロコトンは後退りし、傷口から流れる血を押さえる。


「……この俺が傷を……」


「次の攻撃で決めるぞ!」


 ヨサクの声に三人は再び飛び込んだ。激しい攻防の中、着実にメロコトンを追い詰めていく。


 ザンッ!


 メロコトンの足がポクスンの鉤爪に裂かれ、バランスを崩す。


「終わりだ、メロコトン!!」


 タオズが勝利を確信し、その鉤爪を敵の喉元に突き出したその時――


「殺すなぁぁぁ!!」


 ヨサクの必死の叫びが響いた。タオズの動きが止まる。


「もう十分です!戦えない相手を殺す必要なんてない!」


 しかし、その情けをメロコトンは見逃さなかった。


「甘いな……」


 片腕一本で大剣が閃いた。


 ズパァァーーン!!


「ぐはっ……!」


 凄まじい斬撃を受け、タオズとポクスンは倒れた。


 その瞬間、世界から音が消え、時が止まったような錯覚がヨサクを襲った。


(そんな……嘘だろ……!?)


 ヨサクは絶望の淵に立たされ、自分の判断を後悔した。


(私が……私が止めなければ……こんなことには……!)


 倒れていく二人の姿が、スローモーションのようにゆっくりと視界に映る。その姿はヨサクの心に深く刻まれた。


(また……また私の選択で……仲間を……)


 胸を締め付けるような悲しみと無力感がヨサクを支配した。


「この俺が……こんな奴らに……」


 その一撃を放ったメロコトンもまた、力尽きて倒れた。


「タオズー!!ポクスンー!!」


 ヨサクは叫びながら、血塗れの地面に崩れ落ちた二人に駆け寄った。彼らの胸はわずかに上下している。だが、それももう長くはなかった。


「ヨサク……お前は……本当に……甘すぎるんだよ……」

 タオズの声はかすれていた。


 ヨサクの瞳から涙が溢れ落ちる。震える手でタオズの体を抱きかかえながら、何度も首を振った。


「俺のせいだ……俺が……俺の判断が……また仲間を……っ」


「情けねぇ顔すんな……お前は間違ってなんかねぇ……」

 ポクスンが微笑む。だがその笑みは、もう力を失いかけていた。


「早く……戻れ……ヨサク……戦場が……お前を待ってる……」


「ヨサク……絶対に……勝てよ……」


 二人は、互いに背を預けるようにして横たわりながら、静かにその目を閉じた。


 その姿は、戦士としての誇りを最後まで貫いた者たちの、美しい最期だった。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 ヨサクの悲痛な叫びが、空を裂くように響き渡った。

 その声は戦場全体に届き、すべての者の心を強く揺さぶった。

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