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アホな彼女 受験編

二学期最初の塾の実力テストで俺は初めて二位に転落した。


「いや〜やっぱここは眺めがいいな〜。」

一位になった三好がさっきから横でうるさい。


「あれ?席代わってる。」

成瀬がやってきた。


「やぁ成瀬さん。そうなの、今回俺が一位。もう俺と付き合っちゃう?」

「はあ?誰だよおまえ…付き合うわなけないだろ。」


参ったな。こんなとこでつまづいてる場合じゃないのに……


「だって成瀬さんて頭が良い男が好きなんだろ?」

「ヒロ〜私またベッタだった。一生懸命勉強してるのに〜。」

成瀬が三好を無視して泣きついてきた。

頼むから今は話しかけて来ないでほしい……


「まあいいけどね…成瀬さんに付きまとわれたら俺も成績下がっちゃうし。」


今回は凡ミスが多かった。

別に成瀬のせいじゃない。


「そんな派手な格好で誘惑まがいのことされたら勉強に集中できないよね〜。アホ菌もうつりそうだし。」

「おい三好っふざけたこと言うな!」


確かに成瀬は相変わらず金髪だしスカートも短い。

でも化粧はかなり落ち着いた。

俺が素っぴんの方が良いって言ったからだと思う。


「高橋も成瀬に付きまとわれて迷惑だって言ってただろ!」


──────それは……


確かに三好にそう言ったことはある。

でもそれは成瀬のことをまだよく知らなかっただけで

むしろ今は……


どう説明すればいいのだろう。

三好の前で愛の告白みたいな風になるのは避けたい……

成瀬はずっと無言で三好の方をにらみつけていた。


授業の始まりを告げるチャイムが鳴った。


「……ごめん。」

成瀬は一言そう言って自分の教室に戻って行った。

明らかに傷付いている。


「こえ〜。俺殴られるかと思った。」

三好……コイツ覚えてろよ。

成瀬に何も言ってあげることができなかった。

帰りに謝ろう……



いつも帰りは俺のことを待っていたのに、その日成瀬の姿はなかった。








次の日学校に行くと学校がザワついていた。

人だかりの原因は成瀬だった。


「成瀬、ちょっとこっち来い。」

俺は成瀬の腕を掴んで人のいない所まで引っ張っていった。


改めて成瀬の姿を見る。


金髪でツインテールにしていた髪型が黒いおかっぱになっている。

化粧だってまったくしていない。素っぴんだ。

スカートも膝丈になっていた。


「どうしちゃったのおまえ?」

「……だって、ヒロの成績下げちゃったから。ごめんなさい。」


やっぱりか……

なんで三好の言うこと信じるかな。


「でもヒロのそばにいたいから…これなら大丈夫だよね?」


めっちゃ健気じゃん。なんだよもう……

てか、今の格好の方が俺どストライクだからね。

可愛すぎるだろ。


面接があるから金髪は染めて落ち着いた格好にしろといつか言おうとは思っていたけど……

三好の言ったことを間に受けて変えたということがなんかムカついた。

クソっあのヤロー……


「……ごめんねヒロ。」

俺が怒ってるのを見て成瀬がまた謝ってきた。


「成瀬謝るな。成績落ちたのはおまえのせいじゃないし、俺、成瀬のことは好きだから。」

怒りのあまり言わなくていいことまで口走ってしまった。


「いや、と、友達としてね?」

「……うん。わかってる。」


「とにかく今日から学校でも休憩時間は俺んとこ来い。」

「えっ?」


「三好が成瀬のことをアホ菌呼ばわりしたのが俺は一番腹が立つんだよ。勉強教えてやるから。わかったな?」

「うん。ヒロのとこ行く!毎日行く!」


わーいっと言って成瀬は俺に抱きついてきた。


俺の理性がぶっ飛ぶから…

あんまり胸を押し付けてこないでね……








次の塾の実力テストで成瀬は一気にCクラスからAクラスにアップした。

勉強の仕方がわからなかっただけでちゃんと教えてあげたらどんどん吸収していった。

ついでに言うと俺は一位だった。

当然の結果だ。


三好は五位に転落していた。

ざまあ見ろだ。


「しょせんお前など敵ではないわー!馬鹿のひとつ覚えめっ!」

「だからぁ成瀬さんよりは俺の方が上だからね?」

成瀬と三好が言い合っている。


「負け犬の遠吠えめ!」

「ちょっと高橋、成瀬さん止めろよ。」

悪口を言いまくる成瀬に困った三好が助けを求めてきた。


「今、ことわざ勉強中なんだ。我慢しろ。」


「犬の糞も所びいきめ!」

「悪かったよ。もう謝るからやめてくれよっ。」




次は四文字熟語を教えてやろう。









時間はまってくれない。


暑さも随分和らぎ、薄い長袖一枚じゃ寒さをしのげなくなってきた。




────ハロウィーン────


成瀬は黒猫魔女の格好をして塾にやってきた。

塾に仮装してくるやつなんて初めて見た。

聞けば去年自分で作った衣装らしい。

みんなから可愛い〜と褒められていた。


三好なんか写真まで撮ってデレッデレだった。

すぐ消させたけど。


帰りに俺にトリックorトリート?と言ってくるので自販機でジュースを買ってあげた。

イタズラされても良かったけど……





────クリスマス────


成瀬は手作りサンタの衣装で来るつもりだったらしいが塾のスタッフにコスプレ禁止と言われたらしく断念した。

でもワンピースの下に着込んでたので帰りに俺にだけこっそり見せてくれた。

胸元とか太ももとかが際どすぎて参った。

風邪引くからすぐ着ろと言った。


クリスマスプレゼントと言って手編みのマフラーをくれた。

俺が好きなセルリアンブルーの色だった。

だからあの時図書館で俺の好きな色を聞いてきたのか……


ぎゅってしたくなる気持ちを抑えるのに苦労した。







────正月────


合格祈願もかねて成瀬と神社に初詣に行った。

成瀬は着物を着てきた。

おばあちゃんから教わって自分で着付けたらしい。

少し伸びて結べるようになった髪の毛も、自分で器用に編んでアップにしていた。


めっちゃ可愛い……


人が多くてはぐれるといけないからと言って手を握った。

心臓がドキドキしまくった。










─────三学期────


私立の入試がもうすぐそこまできている。


「……私立もヒロと同じとこ受けたい。」

成瀬がさっきから同じ言葉を繰り返す……


成瀬は今はSクラスまで上がってきている。

でも俺が受ける私立のレベルにはまだ足りない。

落ちる可能性が高いのだ。


「何度も言うけど、滑り止めの私立に落ちたら一ノ瀬代を一緒に受けることさえ出来なくなるんだぞ?」

成瀬を中学浪人にさせるわけにはいかない。


「この私立ならデザイン科があるから…おまえこういうの好きだろ?」

「ヒロは私が一緒の高校行くの無理だと思ってる?」




────はっきり言ってムリだ。


だから私立は安全パイを取らせたいと思っている。

でも俺だって成瀬とずっと一緒にいたい。

諦めたわけじゃない。


「今からこれを公立の入試までに死ぬ気で覚えろ。」

俺は成瀬に教科ごとのノートを五冊渡した。


「な、何これ?」

「俺が作った試験のヤマカンノートだ。」


この1週間ほぼ寝ずに作った。

もう正攻法ではムリだ。一か八かになるが俺なりに自信はある…成瀬が苦手なところはなるべくわかりやすく丁寧に書いたつもりだ。


成瀬はびっしりと書き込まれたノートをパラパラとめくった後、勢いよく俺に抱きついてきた。

「成瀬っちょっと!」

座ってる俺に抱きついてきたもんだからモロ顔に柔らかいものが当たっている。



「ありがとうヒロ。ありがと……」


……声が震えてる。




──────泣いてるのか……





「頑張れよ。一緒の高校行こうな。」

「……うん。」



俺は成瀬の頭を優しく撫でてあげた。

俺まで泣きそうになってきた……


「一緒の高校行って、ヒロと付き合いたいから頑張るっ。」

うん?

そう言えばそんな約束してたっけ……

一緒にいすぎて忘れていた。

はたから見たら俺達って恋人以外の何者でもなくね?


じゃあ何か…

成瀬が落ちたら俺達付き合えないってこと?


それは困るっ!!




私立の滑り止めは二人ともなんなく合格した。









────公立入試日────


問題を見て俺はガッツポーズをとりたくなった。

ヤマカンがほぼ当たっている。さすが俺っ!


前に座ってる成瀬を見ると問題をスラスラと解いているように見える。

イケるかもしれない……

成瀬と一緒に一ノ瀬代高校に。


成瀬は授業についていくのはしんどいかもしれないけど大丈夫。俺が教えてあげたらいい。

今までみたいにずっと一緒に過ごすことができる。



そう……思っていたんだ。


本気でそうなると思っていたのに……






世間はそう甘くはない。









俺は合格し、成瀬は落ちた─────




高校まで合格発表を二人で見に行った帰り、電車の中で俺は落ち込んでいた。

成瀬の当日の試験の点数は自己採点した限りでは合格ラインをギリギリ超えていた。

でも三年の一学期までの散々たる内申点が足を引っ張ったようだ。

過去に戻れるなら中一に戻って成瀬にみっちり勉強を教えてやりたい……

ため息が止まらない。



「頑張ったんだからもう仕方ないよ。」


成瀬がなぐさめてくれた。

これじゃあ立場が逆だ…


小学生の頃からあれだけ入りたかった高校に受かったことより、成瀬が落ちてしまった方がショックだった。


なんで成瀬は普通でいられるんだ?

受からないと俺と付き合えないんじゃなかったのか?

俺と一緒にいたいんじゃないのかよ……



「ヒロ大学どこ受けるの?」




────────っ?!


まさか…………


成瀬はまっすぐに俺を見つめていた。



「……東大。」

「げっ!」


「受かったら俺と付き合う?」

「……一生ムリかも…」

だよな。


「やっぱり頑張る!しゃかりきに頑張るよっ!」

「成瀬は俺に高校生活の3年間を彼女ナシでいさせる気か?」

成瀬の顔が一気に曇る。


「そうだよね…周りにはいっぱい可愛い子がいるだろうし……ワガママ言ってごめんね。」

待て待て待て。なんで俺が他の子と付き合いたいみたいになってんだ。


電車が乗り換えの駅に止まったので成瀬の手を引いて降りた。



「成瀬、俺達はこの駅までは毎朝一緒だ。」

「えっ…?」


「私立のあの高校を勧めたのはここなら途中まで一緒に登校できるなって思ったからなんだ。」

「えっ、デザイン科があるからって……」


「それもあるけど、それは成瀬を納得させるための口実ってやつでもあった。」


成瀬はまだキョトンとした顔をしている。

鈍いなコイツは…アホなのか。

いや、アホなんだった。



「だからっ好きなんだよ成瀬のことが!毎日会いたいくらいにっ!」


「へ……へぇえええ?」





成瀬は呆然としたまま固まってしまった。


「成瀬?」

頭で理解できるまで時間がかかるのだろうか?


「成瀬、好きだよ。」

もう1回言ってみた。


「……ウソ…ホントに?」

ようやく理解できたようだ。

「うん。好きだよ。」


「ホントにホントに?」

「うん。好きだ。」

何回言わすんだコイツは。


「私も好き!」

うん。よく知ってる。


「私、ヒロと付き合えるの?」

「あぁ今から付き合おう。」


「受かってないのに?」

「それは成瀬が勝手にした約束で、今は俺から付き合いたいって言ってるからいいんだよ。」


「帰りとかもこの駅で待ち合わせしたりとかできる?」

「もちろんできるよ。」


「カラオケとかボーリングとか?」

「行けるよ。いっぱいデートしような。」


成瀬の顔がこれ以上ないくらい笑顔になった。


「やった────っ!」

「ちょっ、成瀬ここ駅だから。」


成瀬が俺に飛びついてきて、ぎゅっと抱きついたまま離れてくれない。



「夢みた〜い。るんるん。」



ホントにコイツ……


めっちゃ可愛いな。



俺は初めて成瀬を強く抱きしめた。

柔らかくて気持ちいい。



「……ヒロみんな見てるよ。」

「知るかよ。おまえが先に抱きついてきたんだろうが。」



これから毎日使う駅なのに



俺もだいぶんアホになってきてるのかも……












────9ヵ月前。中学三年一学期────


今日返ってきた数学のテストが0点だった。

あんなに一生懸命勉強したのに。

中三の一学期末のテストの結果は全教科けちょんけちょんだった。

私に行ける高校なんてあるのだろうか……


「はぁ〜シクシクもんだ……」


0点の答案用紙で紙飛行機を折ってみた。

学校から見えるあの川まで飛んで行けたら私の未来はきっと明るいっ。

こうなったら願かけ、神頼みだ!


屋上からえいやっと勢いよく飛ばした。

向かい風に流され、紙飛行機は下の階の窓から校舎へと入っていった。

ヤバいっあんなの誰かに拾われたら0点取ったのがバレる!


慌てて下の階に降りた。




「うっひゃ〜何かと思ったら0点の答案用紙じゃん。」

すでに誰かに拾われていた。

広げられたら名前が書いてあるから私のだってバレる……どうしよう。


「三好、何見てんの?」

もう一人きた。

あいつって確か……めっちゃ頭良くて有名なやつじゃなかったっけ?

サイアクだ……


「見ろよ高橋。0点の答案用紙が捨ててあった。まあ気持ちはわからなくはないけど。笑っちゃわない?」

あとからきた高橋というやつが紙飛行機を受け取って広げ出した。

きっと笑われる……


「すごいなコイツ…全部解答欄埋めてんのに全問間違えてるなんて。」

言わないでよ、それを……


「一生懸命やってて0点なんて、百点取るより難しいかもよ。」

「はあ?なんだよそれ。」


「それに綺麗な字じゃん。」


高橋は答案用紙を折りたたんで何かを書いたあと、教室のゴミ箱にそっと入れた。



二人が去って行ったあとゴミ箱を見に行ったらすごく小さく丁寧に折りたたまれていて……


頑張れって書いてあったんだ。



その一言になんか……すごく…

グッてきた。




そん時から私はヒロが好きになったんだと思う。











────高校生────


次の駅でヒロに会えると思うとドキドキしちゃう。


毎朝ヒロと一緒に学校に行く時はこの駅でお別れだけど、今日は初めて放課後に待ち合わせだ。

静まれ〜静まれ〜私の心臓。


「わっ、あれが成ちゃんの彼氏?超カッコイイじゃん。」

「しかもあの制服一ノ瀬代?すごい頭良いとこでしょ?」


「へへ〜ん。一ノ瀬代でも学年トップなんだから。」


友達二人と別れてヒロのとこまで駆けて行って抱きついた。


「成瀬っいちいち抱きつくな。」

読んでた参考書で頭を叩かれてしまった。


「こないだは抱きしめ返してくれたじゃん。」

「駅であんな恥ずかしいこともうできるか。」

ちぇっ、減るもんじゃないのに。


「行くぞ。」

そう言ってヒロは私の手を取り歩き出した。



「どこ行くの?図書館?本屋さん?」

「成瀬は俺と勉強したいの?」

だってヒロとは勉強くらいしかしたことがない。


「カラオケ行こう。」

「えっ!ヒロ歌うたえるの?」


「おまえ俺のことなんだと思ってるの?」

「因数分解の歌とかうたいそう…」


「なめんな。洋楽うたえるわ。」

「すごいっカッコイイ!」






あの日0点を取った日──────



私の人生は未来が見えずにどん底だった。


でもそれがあったからこそ今につながった。




大事なのは諦めないことだと思う。





英語で言うならNever Give Up !



古典で言うなら この思ひいかで断たん。



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