第二話
「私と、【血濡れの猫】と――一緒に戦ってくれない?」
赤い髪に赤い瞳、赤いマフラーに赤いジャケットとスカート。
全身を血で染めたかのような赤い少女が、その瞳に底知れぬ憎悪と殺意を宿しながら差し出した手。マフラーで隠された口から紡がれた、誘いの言葉。
誘いの言葉と言っても甘いとか、そういったたぐいのものではない。これは、この誘いは――少年を地獄へと誘う、悪魔の誘い。少年を血濡られた道へと引き摺りこむ、さながら地獄への片道切符。
本来なら誘うという行為は、それによって生じる利点を説明してから行うこと。だが少女はこの手を取ることによって何が起きるか、といったことを一切合切説明していない。
……いや、それは違う。少女は、説明する必要がないと悟った……感じたのだろう。
少年の瞳に、自身と同じ憎悪と殺意が宿っているのを見て、そう感じたのだろう。そして、少女が少年に感じた感情は――間違っていなかった。
「……」
銀色の髪を持つ少年は、少女が差し出した手を、迷うことなく取った。その手を取ることによって何が起こるのかを完全には理解してはいないものの、大体のことは把握出来ていた。分かっていた。
この少女の手を取ることが、正しい判断なのだと。正しい道なのだと……少年は確信していた。
「……ん」
「う、わっ、わっ……わ」
自身の手を取り、共に世界と戦う決意を決めた少年に、少女は当たり前だとでも言わんばかりに、尻餅をついていた少年の手を引っ張り強引に立ち上がらせる。
少女の背は、少年の背と大して変わらなかった。つまりは、少年の顔のすぐ前には少女の顔。
……ち、近い、な。
瞬く間に、少年の顔がカァァッとリンゴのように真っ赤になる。何を隠そうこの少年、今まで生きてきた15年間、触れ合ってきた女性……ひいては人間は母一人で、母以外の人間に会うのは初めてだったのだ。そして、目の前にいるのは自身と同じ年頃の、美少女と言って差し支えない容姿を持った少女。顔が赤くなるのも仕方がないだろう。
口をパクパクと開閉させて動かなくなった少年に少女は首を傾げるも、大したことではないだろうと判断し。
「名前」
「あ、あぅ……え?」
「だから名前。あなたの名前、教えて」
少女は無感情……それ故に無垢な瞳を少年に向ける。
その視線を受けて少年は、自身の名を目の前の少女に告げていないことと、少女の名前を知らないことに気づき。
「えっと……僕の名前はギルト・フェステイン。母さんにはギルって呼ばれてた。それで……キミの名前は、何?」
自身の名前を告げ、少女に名を尋ねる。
少年――ギルの問いに対して少女は。
「私の名前は……アルティ・フォルチュナ。アルティでいい。それと――」
相変わらずの無表情で、自身の名を告げて。
「これからよろしく。ギル」
これまた相変わらずの無表情で、そう言った。
お互いの名前を教え合った後、ギルはアルティと手を繋いだまま、左右を木々に挟まれた道を歩いていた。向かう先は、アルティが仲間と事前に決めていたという合流地点。
『もし機界兵と会ったら面倒だから』と、アルティはギルの手を離さずにいた。逆に手を繋いでいた方が面倒なことになるんじゃ? とギルは口を開きかけたが、二体の機界兵が目の前の少女によっていとも簡単に斬り倒されたことを思い出し、喉まで出かかった言葉を抑え込む。おそらくアルティにとってはこの状態の方が色々と対応し易いのだろう――ギルは心の中で勝手にそう納得して、無言のまま足を進めようとして。
「――そうだ。ねぇ、アルティ」
ふと頭に浮かんだ疑問をぶつけることにした。
ギルの呼びかけに、アルティは首だけを動かして振り返り。
「何?」
「どうしてアルティはここに来たの? ここ、自分で言うのもなんだけど、凄い田舎だと思うんだけど……」
ギルとアルティが立つこの大地の名は、トレンディア大陸。大小様々な国が存在していた歴史ある大陸だ。
ギルが知る中で、今も現存している大国は三つ。
大陸の中央に位置する【騎士国】ラスガティルト、大陸の北側に位置する【商業国】ハルヴェルディ、そして――機界兵を用いて大陸中の国という国、村という村を破壊している、機界帝国。
ギルが知っているのはこれぐらいだ。ラスガティルトとハルヴェルディについては母がよく教えてくれたのだが、機界帝国についてはあまり教えてくれなかった。教えてくれたことと言えば、帝国は機械で身体を構成した機界兵という兵士を使って大陸中を侵略していることぐらい。
更には、ギルとその母が住んでいた家があったのはハルヴェルディから見て東、ラスガティルトから見て東北にある、大陸の端っこだ。家の外にあるのは森だけで、周りには自分と母以外人っ子一人いやしない。そんな環境でどうやって母は食糧などを調達していたのだろう、今考えれば不思議な話だ。だがそれは母を助け出してから聞けばいい、とギルは結論づけ、アルティの答えを待つ。もしかしたら、機界兵が何故母を連れ去ったのかも知っているかもしれない。そうギルは淡い期待を寄せていたのだが。
「私たちを支援してくれている国の市長からの依頼。この場所に機界兵が現れるって言うから来た。そうしたら――」
「僕がいた?」
「そう」
期待している答えは返って来なかった。
しょうがないか、と思う反面、またしても疑問が浮かび上がる。アルティに『この場所に機界兵が現れる』という情報を与えた市長とは何者なのだろうか。その人物のことについて尋ねるために、ギルが口を開こうとした瞬間。
「アルティ様! ご無事ですかーーーー!?」
森の静寂を破るとんでもない声量の、女性特有の甲高い声が聞こえた。
あまりの大声にギルは両手で耳を塞ごうとするが、アルティと手を繋いでいることを今更ながらに思い出した。仕方がないので頭が上下左右に揺さぶれられるような大声を必死に耐えて、目に涙を溜めながら声が聞こえた方向を見る。
するとそこには、背はアルティと同じぐらいで、黒いジャケットに黒いスカート、ジャケットの下に着たシャツの上から胸を護る役割を持つ白銀のプレートアーマーを身に付けた、黒髪を左右に結んだ黒目の少女がいた。
……誰? ギルが疑問に思っていると件の少女は、右手に握っている先端に天使の羽の様な装飾がされた白い長杖を手早くギルに向け。
「術式解放! 光弾!」
「ええ!?」
杖の先端から光の弾丸を放った。放たれた弾丸はまるで吸い込まれるかのように、突然の出来事に慌てるギルの顔面に――
「……術式解放。炎盾」
――ぶつかる寸前に、アルティが突き出した左手の前に現れた、円形の炎の盾に阻まれた。
突然訪れた命の危機が去ったことにギルはホッと一息を吐き、光の弾丸を放った少女は「チッ、外したか……! でも、まだ!」と忌々しげに呟き、再度杖をギルに向ける。炎の盾を消したアルティは少女に視線を向け。
「レスティ。いきなり何するの?」
「何するの? じゃありませんアルティ様! 勝手に飛び出してどっかに行ったりして! そこら中を探したんですよ!? だというのに、だというのに……!」
アルティにレスティと呼ばれた少女はプルプルと拳を震わせた後、ビシィッとギルを指差す。
「こんなどこの馬の骨とも知れない男と一緒にいるだなんて! 一体何があったんですか!?」
「あの、どうしていきなり僕に向けて……ねぇ、アルティ。さっきの光ってたやつ、なんなの?」
「光弾。通常術式の一つで、その中でも下級術式に該当する術式」
「…………ごめん。その通常術式とか下級術式って一体――」
「――って、もう! 聞きなさーーーーい!」
レスティを無視してアルティに術式のことを聞き始めたギルに、レスティは顔を真っ赤にして叫ぶ。
少し前のギルと同じように顔を真っ赤にしているレスティに、アルティは再び首を傾げ。
「本当にどうしたの? 合流地点はまだ先だったはずだけど」
「だ、だからですね……ええい、そこの軟弱そうな男!」
「は、はい!?」
レスティが叫ぶ。レスティのあまりの迫力にギルは思わずたじろぐが、それに構わずにレスティは異様なオーラを身に纏わせたままギルの前に立ち、ズズイっとギルに顔を近づける。
女性特有の甘い匂いにギルは思わず顔を真っ赤にするが、レスティはそんなギルの様子を気にかけることなく。
「あなた、アルティ様の何なのよ! 正直に答えなさい。でないと、痛い目見ることになるわよ!?」
「い、痛い目って一体……あ、アルティ! 助けて!」
杖の先端に集まっていく光を見て、ギルは頬を引き攣らせる。先程の光弾とやらはアルティが防いでくれたおかげで助かったが、この状況はまずい。首にナイフを突き付けられているようなものだ。むしろギルとしてはついさっき機界兵に機関銃の銃口を向けられていた時よりも怖い。先刻の機界兵たちはギルを捕らえるつもりだったようだから殺気などは放っていなかったが、レスティはそれだけで人を殺せるのではないかという視線をギルに向けてきている。
あまりに凄みのある殺気に気圧されたギルは、自身の命の恩人であるアルティに助けを求める。
「……ん」
ギルからの救援要請に対してアルティは、少し考えただけでこの状況を打開する答えが考えついたようで、考えついた言葉を早速口にする。
「拾った」
「「は?」」
アルティの口から発せられた意外な言葉に、ギルだけでなくレスティまでもが呆けた声を漏らす。
口をあんぐりと開けて動かなくなった二人に構わず、アルティは言葉を続ける。
「拾ったの。この先の家で、機界兵に襲われているところを拾った。だから、ギルは馬の骨なんかじゃなくて……」
「じゃ、じゃなくて?」
機界兵に襲われたという非常に気になる単語があったが、レスティはそれをスルーして先を促す。何故だか聞いてはいけない気がしたが、目の前の少年が何者なのかを知ることが最優先だと判断し、アルティの言葉を待つ。その言葉によって今まで積み重ねてきた何かが壊れるとしても。
[動くな!]
だがしかし。それが壊されることはなかった。
突然聞こえた叫び声に、アルティとレスティはギルを間に挟むように動いて守りやすい態勢をとる。二人が警戒を最大まで引き上げたその瞬間、周りの木の間から幾つもの影が飛び出してきた。
そしてその影たちは、ガシャンガシャンと物々しい音を立てながらも、すばやく三人を包囲する。一瞬にして退路を塞がれたことにレスティはチッと舌打ちを漏らし。
「機界兵……!」
自身たちを包囲している影たちの名を忌々しげに呟いた。何故ここまで接近されるまで気付けなかったのか――原因は当然先程までの騒々しいやり取りなのだが、杖を構えるレスティの思考はそこまで及ばない。周りを囲む十二体の機界兵が持つ機関銃。もし一斉に放たれたりすれば、指一本動かす暇もなく蜂の巣にされるだろう。それ故に、レスティは全神経を警戒に回していた。何が起きても即座に対応できるようにするためだ。
「……アルティ、こいつら……!」
「そう、機界兵。私たちの、敵」
アルティはギルと繋いでいた右手を離して腰に提げた片刃剣の柄を掴み、鞘から引き抜く。ギルを連れ去ろうとした機界兵二体を葬った、赤い刀身の片刃剣だ。
アルティは無言で目の前の機界兵に片刃剣を突きつけ、憎悪と殺意が混じり合った瞳で睨みつける。
[ッ……た、隊長……!]
[うろたえるな! 数では我らが有利、そしてそれ以前に――我らは機界兵なのだぞ!? 人間を超越した、完全なる存在なのだ!]
アルティから発せられている無言の圧力に、片刃剣を突き付けられた機界兵は思わず後ずさるが、隊長と呼ばれた機界兵が士気を上げる為に声を上げる。自身の言葉に酔っているのか、軽く興奮したように部下に向かって捲し立てている隊長に向かって、レスティはふん、と鼻を鳴らし。
「みっともないわね。人の身体を捨てた末に、対価として手に入れた冷たい機械の身体が完全ですって? 笑わせるわ」
[ハッ、虚勢を張るのは止めろ【血濡れの猫】の術式術士! まぁ、こうして命を我々に握られている状況では、そうして虚勢を張ることぐらいしか出来ないのだろうな! ハハハハハハ!]
「……もう! 囲まれてさえいなければ、こんな奴ら一捻りなのに……」
下卑た笑い声を上げる隊長に、レスティは悔しそうに歯を食い縛る。相手のさじ加減一つで自身を含めた三人の命が散ってしまうという絶望的な状況。レスティに出来ることは、ただ逆転の機会を待つだけ。
「……ッ」
「ギル?」
そんな状況の中、ギルは自身の胸を押さえてうずくまる。突然苦しみ始めたギルに、アルティは片刃剣を機界兵たちに突きつけたまま、気遣うような声をギルにかける。だがギルには、その声に意識を傾ける余裕はない。
――殺せ。機界兵を、殺せ。
頭の中に直接響くような声。その声と、胸の奥から湧き上がって来るかのような痛みがギルを苦しませる。殺せ、殺せ、殺せ――その言葉だけが永遠に繰り返される。まるで洗脳するかのように繰り返される言葉を、ギルは必死に否定し続ける。
母を連れ去った機界兵は憎い。それは確かだ。だが、この声には……この声にだけは屈してはいけない。何故だか分からないが、ギルはそう感じた。
――殺せ。殺せ。機界兵を……殺せ!
しかし。頭の中に響く声は収まることを知らない。それどころか、勢いを増し続けている。
……あ、もう駄目だ。
濁流のように押し寄せる声に負け、ギルは遂に意識を手放し――
「ギル!」
「ッ……あ、アルティ?」
――そうになった瞬間、アルティの呼びかけによって意識を繋ぎ止められる。ハッとして周りを見渡すと、見える光景は未だ自身たちを囲み、機関銃の銃口を向けている機界兵たち。どうやら膠着状態はまだ続いているようだった。
「胸を押さえてたけど、大丈夫?」
「だ、大丈夫。ちょっと胸が痛んだだけだから」
自身の胸に手を当てる。胸の奥から湧き上がっていた痛みはなく、機界兵を殺せと囁いてくる声ももう聞こえない。
ギルの様子を見て問題無いと判断したのか、アルティは片刃剣を握る手に力を入れて。
「……そう。じゃあ飛ばされないようにしっかりと踏ん張ってて」
「え? それってどういう――」
意味? と、ギルは先の言葉を紡げなかった。
何故なら。
「術式解放! 集束波動!」
「う、わぁ!?」
目も眩むような白い光の奔流が、ギルの目の前にいた四体の機界兵を文字通りこの世から消し去ったからだ。
[な、何事だ!?]
突然の出来事に、隊長は静かに終息していく光の奔流が消えた先を見てうろたえる。当然だろう、部下たち四体が一瞬にして消え去ったのだから。
だが、彼の驚愕はまだ続くことになる。
「どうも、隊長さん。余所見なんてしてていいのかしら?」
[な――ぐっ!?]
背後から聞こえた女の声。隊長が慌てて振り返った瞬間、視界が闇に染められた。いや、視界が塞がれたわけではない。人間の手に、頭を掴まれたのだ。
隊長は、自身の頭を掴む手の指の間から、籠手を装備した手の主であろう女の顔を見た。空のように青い髪を後ろに結んだ緑色の瞳の女は、ニッコリと笑う。その笑顔に言い表しようのない悪寒を感じた隊長は、生き残っている隊員たちに助けを求めようと声を上げようとするが。
「術式解放……轟炎!」
[――!?]
瞬間、女の手に掴まれている頭が爆発した。正確には隊長の頭が爆発したのではないのだが、既に絶命してしまった隊長には知る由も無いし、知るすべもない。
[た、隊長!? く、くそっ……!]
「ッ……!?」
隊長がやられたことに生き残っている機界兵たちは動揺するが、せめて目の前の敵は、と機関銃をギルへと向ける。撃たれると思ったギルは思わず目をつむるが。
「術式解放! 光剣!」
[がっ!?]
[ディック! こ、この……ぐあ!?]
「あ……」
銃声が響くことはなく、代わりに響いたのは機界兵たちの悲鳴だった。
ギルが目を開けるとそこには、機界兵の胸に杖の先端から伸びている光の刃を突き刺しているレスティ。レスティの足元には頭部を失っている機界兵が一体。おそらくこれもレスティがやったのであろう。
自身と同程度の年頃の少女が今の一瞬でこんなことをやってのけたことにギルは驚き、無意識に視線がレスティに縫い付けられる。
ギルの視線に気付いたのか、レスティは機界兵から杖を引き抜いて、眉を顰めながら振り返り。
「何見てるのよ」
「あ、いや。僕と同じぐらいの歳の女の子なのに、凄いなぁって」
「あなた、案外余裕そうね……帝国と戦うんだからこれぐらい出来なきゃ駄目よ。それに――」
[う、うわあああああ!?]
レスティはギルから視線を外し、みっともない悲鳴を上げながら機関銃を乱射している機界兵を見る。
機界兵が銃を向けている先には、首から上がなくなって……いや、斬り落とされて地面に崩れ落ちた機界兵が四体。
そして。
「ふっ――!」
それを成した赤い少女。
アルティが振るった片刃剣が、機関銃を乱射していた機界兵の頭部を斬り落とす。斬り落とされた頭部はクルクルと中空を舞い、重力に負けて大地へと落ちる。
片刃剣を左右に振るい、左腰の鞘に納めたアルティを見てレスティは。
「――私は、あの方を護れるぐらい……強くならないといけないの」
並々ならぬ決意を宿した言葉を、口にした。
レスティは、様々な感情が混ざり合ったような表情をしていた。一体彼女の……いや、彼女たちの過去に何があったのか。ギルはそれが異様に気になった。出会ってから一時間も経っていない二人の少女に、ギルは惹かれていた。
「……よし。全体倒したわね。フランツ! 周辺に敵はいる?」
「いえ、もういませんよ。影一つ見えません。市長の情報は当たっていたようですね、まさか機界兵の数まで正確だとは……」
「相変わらずよく分からない人よね。まぁ、いいけど……アルティ。大丈夫だった?」
隊長を倒した青髪の女の返事に答えたのは、緑色の髪を端正に切り揃えた穏やかそうな雰囲気を持つ金色の目の、フランツと呼ばれた青年。だが、そんな穏やかそうな雰囲気とは相打って、彼が手にしているのは白色の巨大な突撃槍。槍の先端から光の粒子らしきものが漏れ出ていることから、先程の砲撃はこの槍で放ったもののようだ。
状況を把握した青髪の女は、アルティに声をかける。声をかけられたアルティはコクリと頷き。
「大丈夫。二人が助けに来てくれたから」
「……全くもう。私たちが来るのがもう少し遅かったら死んでたかもしれないってのに……」
「ははっ。無事だったから良かったじゃないですか」
「そうだけど……まぁ、いいわ。で? あの男の子は誰?」
青髪の女がレスティの隣に立つギルを指差す。それに伴い、その場にいる全員の視線がギルへと集まる。
自身が話題の中心になっていることに気付いたギルは、
……と、とりあえず自己紹介!
何故かそんな結論へと辿り着き、慌てて口を開こうとすると。
「えっと、僕はギルト・フェステ――」
「ペット」
「――イン?」
何やら聞き逃せない単語が聞こえた。
全員の視線がギルから、その単語を発した人物へと移る。その人物――アルティは何故皆が怪訝そうな顔をして自分を見ているのかも分からぬまま……いや、考えようともせずに。
「だから、ペット。ギルは私の――ペットだから」
今までギルが積み重ねてきたものを……木っ端微塵に破壊した。