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1日後に死ぬ勇者夫人  作者: とみやま象


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「はぁ~至高の金は我らの宝~」


「閉じた瞳の金は見えねど、長いまつ毛の黄金が美々しい~食欲マシマシ、ステーキ3枚イケます~」


「ワイン5本目空きました~おかわり~」


「ちょっと、侍女さんたち!いい加減に出て行ってもらえます?あと、収納魔法の中で飲み食いするの、やめてもらえます?」


「でも~我らはあるじの遺言に従いまする~」

「墓守改め、ひつぎ守侍女でございまする~」


「まあまあ、ココ様も一杯どうですか~」


「んもう。あ、これ高いやつ。じゃあ一杯だけ……くうぅ、五臓六腑に沁み渡るぅ、眠れる美女を肴に飲むワイン最高!」


「チョリソーとスペアリブもどうぞ~」


「ここは肉バルですか?まったく。いや、いただきますけど。おいしいですけどね。そろそろ柩を霊廟に戻してもいい頃合じゃないですかね?」


「でも、王弟がまた柩泥棒に来るかもしれませんし~キケン」


「やっとメリー妃を幽閉できたから、たとえ死体でも長年の想い人を傍に置いて愛好したいって……それ、変態だから~」


「あやつ、取り押さえたときの言い訳で『泥棒ではない、蘇生措置に来たのだ。他国の伝承では、美女は死しても王子のキスで目覚めるのだぞ。試さずしてどうする』とか宣っていました~キモイ」


「王子と言っても50歳手前のおっさんなのに厚かましい。そもそも当時15歳の主に求婚した時点でド厚かましく許し難い病的変態犯罪者~」


「ああいうゴミカスは反省しないからまた来る……きっと来る~」


「いや……ゼノの必殺技、モロに食らっていましたけど……アレ、まだ生きていますかね?」


「棄てられた森で100年ぐらい凍っているかもですね~なら安心か~」


「『眠れる森のゴミカス』」

「それってただの不法投棄~」


「アレ、一応王族ですが、放置しておいて大丈夫でしょうか。ゼノが罪に問われたりしませんかね……」


「勇者は国王の次に偉いから大丈夫~」

「国王と王弟は仲が悪いから大丈夫~」

「我らは主を肴に美味い酒が飲めれば、どこに住んでも大丈夫~」


「だから、収納魔法の中に住まないでくださいってば。柩泥棒の危機が去ったなら、やはり霊廟に戻しましょう。あたしはゼノほど冷却魔法に精通していないので、温度管理に不安があります」


「それは一大事~パーシャル大事~」


「でも、そろそろ聖女様が再婚チャレンジに来る頃だし~」


「聖女様が来ると勇者は柩と共にシールド魔法内に引きこもるから。その間、主のご尊顔が拝めなくなる~」


「それは嫌だ~でもパーシャル大事~」


「セリーヌ様は昨年末に再婚したから、しばらくは来ないのでは?」


「そうでしたっけ~?ライヒ子爵、爆速で亡くなりませんでしたっけ~?」


「いえ、あたしの記憶が確かならば、ライヒ子爵は3度目の再婚相手だったかと」


「あ、そうでしたそうでした~ここまでの流れを整理してみましょう~」


「えーっと、勇者が王命を蹴ってポッサロ村に移住した後、聖女様はまず、大司教の神託により大司教本人と1度目の再婚をしたけれど、イーダル大司教は半年で事故死なさったのでしたね~」


「狭心症の薬と間違えて殺鼠剤さっそざいを服用されたとか。その時、セリーヌ様はイスキブ地方で開催の温泉祭に来賓として出向かれていて、治療が間に合わずお亡くなりに」


「不幸な事故~」


「たしか、聖騎士ロドリゲス様の時と同様に、神殿関係者の遺産は神の物だから貰えなかったのですよね~」


「聖女様、お気の毒~」


「それで、今度こそはと勇者に求婚に来たけれど、一言も喋らず目も合わせずにシールド内に逃げられたから、ドミンゴさんに『神殿からの助成金だけでは、女ひとり幼い娘を抱えて思うように暮らしていけません』と泣きながら生活苦を訴えて~まとまった現金とロリーヌちゃんへのお土産の手作り木製宝石箱(琥珀アンバーの髪飾り入)をせしめて王都へ帰ったのでしたっけ~」


「たしかに助成金だけでは、聖女様が思うようには面白おかしく遊んで暮らしていけないでしょうし、誰もが羨むキラキラしい高みに君臨したいと望む虚栄心の塊みたいな人にとっては、泣くほど苦々しい生活かもね~あながち嘘はついていないか~」


「そして惨劇の夫婦喧嘩が……」


「むきぃぃっ!思い出すだけで亭主をタコ殴りにしたくなるから、その話はやめてください!あたしはね、別にお金が惜しくて怒ったわけじゃありません。余所の子に手製の宝石箱?琥珀の髪飾り?どうぞあげればいいですよ。ただ、なんで事後承諾?細身の女がグズグズ泣いたら簡単に騙されやがって……『可哀想じゃないか。冷たくしないで話を聞いてあげろよ』って何?あたしは相談どころか、まともに挨拶すらされていませんけどおぉぉ?」


「ま、まあまあ、その話は置いておいて~次の再婚相手が、中央神殿の熱心な信者だった65歳のベヘース伯爵でしたかね~」


「結婚式の直後、足を滑らせて神殿の大階段から落ちたのでしたっけ~痛ましや~」


「いかに聖女様の神聖魔法でも、首の骨が折れて即死では治療できず~」


「誓いの言葉を述べた後だったので自分は既に伯爵夫人だと主張したものの、結局、婚姻無効の司法判断が下って伯爵家の未亡人とは認められず~もちろん遺産もなし」


「聖女様、お気の毒~」


「それで、またまた勇者に再婚チャレンジに来たけれど結果は同じで~前回ココ様の制裁を受けて反省したドミンゴさんもポッサロ山に逃げてソロキャンプしていたから誰にも相手にされず、手ぶらでお帰りに」


「いいえ、あたしは見ました。鼻の下を伸ばした宿屋の入婿が帰りの馬車を手配してやり、そこに『土産にどうぞ』とバラッタ蟹やヒルバリーメロン等の名産品を大量に積み込んでいる現場を」


「おおぅ……タダでは帰らぬか」

「聖女様、ガッツある~」


「では、宿屋でも惨劇の夫婦喧嘩が……」


「ええ、若女将のボディーブローからの右アッパーで池に飛ばされ、水から引き上げられた後は3日ほど洗濯場の竿に干されていましたね。あたしに言わせりゃ、その程度で許すなんて甘いと思いますけど」


「……甘いのか」

「ドミンゴさん、どんだけボコられたの」


「ああ……思い出すと怒りで拳が疼くので亭主の名は出さないでください。とにかく3度目……いや、前回が無効だから正確には2度目?の再婚相手が、神殿施設の清掃とメンテナンスを請負う管理会社を経営していた78歳のライヒ子爵でした。結婚した夜に腹上死……いえ、発表された死因は心筋梗塞でしたね。第一発見者のセリーヌ様は眠っていて異変に気づかず、朝起きた時には夫が隣で冷たくなっていたと証言」


「新夫の死体と同衾とは、聖女様、お気の毒~」


「そう言えば『初夜の床盃とこさかずきにホットミードを用意していたら、ウォッカに替えるよう奥様から命じられた』という子爵家侍女の告発が、一時期話題になりましたっけ~」


「でもまあ、子爵はもともと吞兵衛のんべえだったらしいし、床盃に指定の酒があるでもなく、寝酒に何を飲もうがお酒の好みは人それぞれですから~我らはワイン~うぇーい」


「9本目を開栓しま~す」


「グビィ……そんなライヒ子爵、羽振りが良かった割に思ったほど遺産はなくて、しかも、親族に遺言状の正当性について異議申し立てをされて審議中のため、聖女様はまだ何ひとつ受け取れていないらしいですね~お気の毒~」


「それで、またまたまた再婚チャレンジに来て以下同文で……どこかで惨劇が?」


「宿屋の旦那ですね。泣いているセリーヌ様に『王都に帰ったら、これで娘さんと綺麗な服を新調して、おいしいものでも食べなさい』とその月の売上金を渡しちゃったのがバレて家を叩き出され、未だに馬小屋暮らしです」


「なぜ婿の失敗に学ばないのか……」


「とりあえず、聖女様がポッサロ村に来る度に被害が出るというわけですね~」


「ココ様、今の再婚相手は誰ですか~?」


「神殿に殺鼠剤をおろしているミュース商会の会頭で88歳のゲローン男爵ですよ」


「はちじゅうはち……」


「なんてあからさまな後妻業……ゲフンゲフン、年の差を超越した真実の愛ですね。毎回、死が二人を分かつまでの時間が短過ぎて、聖女様、お気の毒~」


「夏も近づく88歳のゲローン男爵が、村のためにも長生きされますように~」


「聖女様、今度こそ末永くお幸せに~」


「………………」

「………………」

「いや……あいつ、やってんだろ」


「これこれ、ココ様、滅多なことを言ってはなりませぬ~」


「あたしの収納魔法の中なのだから、ただの独り言ですよ。でも、侍女さんたちだって本当は疑っているでしょ?」


「まあ……ここだけの話~」

っているかな~」

「でも表向きは言っちゃだめ~」

「十中八九は十じゃないから~」

「チャコールグレーは黒じゃないから~」


「我らが口出しせずとも、殺っているならいずれ捕まるし、捕まったら『そんな方だとは夢にも思いませんでしたわ~』って、首を傾げて上品にコメントするべし」


「それが渡る世間の様式美~」


「分かっちゃいるけど納得はできません。一体『いずれ』っていつ?ずっと野放しにされていて、確たる証拠が出なければ結局やった者勝ちみたいなルールにモヤッとしませんか?ああ、何年経っても腹が立つ!うちの亭主にコナかけやがって!司法は何をしている!さっさと捕まえて死刑にせんかい!」



 当たり前のことだけれど、わたくしが死んだ後もこの世はあって、生きている人々の生活は、泣いたり笑ったり怒りに打ち震えたりしながら続いているのね。



「まあまあ、落ち着いて。綺麗なものを見ながらグビッと一杯」


「……うぃー、そこの雉のローストもいただきます。リナリー様がお好きでしたね」


「ローストビーフもお好きでした~」

「美味しい……リナリー様に乾杯」

「乾杯~主を見ながらの肉~ウマウマ」


 あら、本格的に酒の肴にされ始めたわ。


「限界まで肉を頬張ってパンパンになったほっぺが、お可愛らしかった~」


「いつもホースラディッシュの付け過ぎで泣きながら鼻水を拭いておられる姿が、お可愛らしかった~」


「くしゃみが『ぶべっし』なのも、お可愛らしかった~」


「あくびが『あおぉーん』なのも、お可愛らしかった~」


 やめろ。


「ところで、前々から気になっていたのでこの際だから訊いちゃいますけど、侍女さんたちは、どうして番号制で同じ髪型とメイクなのですか?もしかして7つ子?」


「職と給金が同じだけの赤の他人です~」

「侍女選抜デスゲームの勝者7人です~」

「寵愛は等分配当できないものなので~」

「名を呼ばれる回数で揉めたくなくて~」

「東の国の市松人形ドール姿に統一しました~」

「全員一括りに『侍女』と呼ばれます~」

「便宜上ナンバリングしておりまする~」


「……ゼノといい、侍女さんたちといい、向けられる愛が激重な上に特殊過ぎます。あ、王弟も同類か。度を超えた美人に生まれると大変なのですね。リナリー様のご苦労が偲ばれま……す、水滴?」


「ひいぃっ、柩に結露が!」

「パーシャルがぁぁぁっ!」


「霊廟へ戻しましょう!足の速い方、ゼノを呼びに行ってください!」


「えっと、どれが誰?」


「アガサ、足が速いのはエルザよ。キャロルと名札を入れ替えているからその➂」


「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」


「アガサ、ベラ、キャロル、ダリア、エルザ、フェイ、グレース……皆のことはちゃんと認識していますよ。名札をシャッフルしたって間違えません。自分たちが混乱してわからなくなるなら、無駄なことなのでおやめなさい」


「……リナリー様?」


「ココ、お久しぶり。あら?『死人に口なし』なのに声が出るわ。わたくし、お空の光になったのではないの?」


 目は見える。話もできる。だが、首を傾げようとしても、体は全く動かなかった。


「「「「「「我らが至高の金」」」」」」」


 ココの指示の下、1人が伝令に走り、6人でわたくしが入っている柩をエッサホイサと運び出す。ガラス製のドームが蓋になったこの柩、凄く重そうなのだけれど……侍女たち、相変わらず力持ちね。


「ねえココ、これってどういうことなのか説明してくださらない?」


「パーシャルは、0℃のチルドよりも更に低温のマイナス3℃に温度を維持して微凍結状態で細胞の破壊を防いで鮮度長持ちの冷却魔法です!あたしの雑な保冷箱の魔法じゃ無理―っ!」


 いや、パーシャルの説明をしてほしかったわけじゃないのよ。


「永眠したはずなのに眠いのだけれど?」


「眠っていてください―!」


 はーい。なんだかわからんが、わたくしは素直に目を閉じた。


 おやすみなさい。




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