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1日後に死ぬ勇者夫人  作者: とみやま象


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3/3


「リナリー、目が覚めた?穏やかな寝息で、よく眠れたようでよかったよ。どこも苦しくないかい?」


 はっ、走馬灯を見ていたわ。


 時間がないというのに、気を失っている場合ではない。


 わたくしはもぞもぞと身じろぎして顔を上げ、夫と目を合わせた。


 流れにまかせてほぼ初対面の勇者の嫁になったけれど、夫は金髪金目のわたくしを『至高の金』と崇め奉って愛してくれた。自分にそっくりな金髪金目で光属性の可愛い娘も授かった。わたくしを好き過ぎる7人の侍女たちも嫁入りに随行して至れり尽くせり世話を焼いてくれた。


 難病に罹って早世するのは運がないが、まあ、総じて良い人生だったのではなかろうか。


「ゼノ様、わたくしは幸せ者ですわ」

「リナリー!」


 ギュッ、と抱きしめられる。強い強い、ミが出るぅ。でも、おかげでクタクタの体に喝が入ったわ。


 さてと、後顧こうこの憂いを取り除いて、スッキリと逝かねば。


 王は元々、勇者と聖女が結婚したら特別な力を持つ子が生まれるのではないかと期待していたようなので、わたくしが死んだら聖女との再婚を命じるだろう。


 わたくしと娘の持つ光魔法も、攻撃のみならず治療ができて稀少だけれど、やはり神聖魔法ほどのブランド価値はない。


 ちなみに、わたくしの光魔法は3ワットほど。小型の懐中電灯とほぼ同等。攻撃力は静電気程度。治療に関しては、1週間ほどかけ続けたら指のささくれ位は治せるわ。え?それは自然治癒だろうって?うん、つまり魔力は超微量のレベル1未満。


 対して、聖女の魔力はレベル10。まあ、勇者とココの魔力は測定不能の無限大らしいから、上には上がいるけれど、聖女がこの国に於いて五指に入る魔法使いであることは間違いない。


 ウェブ小説の聖女セリーヌは、世間の評判に反して大変な裏の顔を持つ大悪人として描かれている。それは彼女の不幸な生い立ちや腐敗した神殿による魔法と金と性の搾取さくしゅが人格形成に悪影響を及ぼしたせいだと語られる。


 彼女は王に次ぐ地位を得た勇者ゼノに選ばれ結婚することによって、神殿の支配から逃れたかった。だから、その希望を横取りしたわたくしを深く恨んでいる。いや、恨まれましても……横取り?いやいや、していません。わたくしは悪くなくない?


 魔王討伐の後、褒賞のほとんどを寄進という形で神殿に吸い上げられたセリーヌは、大司教の受けた神託による縁組で聖騎士ロドリゲスと結婚して娘のロリーヌを生んだが、ロドリゲスは一昨年に落馬事故により死亡。


 世間的には不幸な事故。聖女様、まだ幼い娘を抱えてお気の毒に……と、わたくしも思っていたわ。でも、小説では、馬のたてがみ飾りに神聖魔法で眠らせた蜂を仕込むトリックで、DV夫を崖下へ葬り去る完全犯罪をやり遂げている。


 ロドリゲス様、ミルクティーブラウンの巻毛の優し気な方だったのに、暴力夫だったの?余所の家庭内事情はわからないものね。恐ろしい。


 さらに恐ろしいのは、本編が始まってからの展開だ。


 ゼノが失踪しても、ポッサロ村には猟師のお義父様と治部煮じぶにが得意なお義母様、今ではわたくしのマブダチになってくれているココとその旦那様になった木こりのドミンゴさんがいるし、ミッテ家の両親も祖父母も健在。妹大好きな姉夫婦だっているのだから、忘れ形見のジュヌヴィエーヴが孤立する筈はないのだ。


 はい、全員が聖女に殺されます。


 DV夫ロドリゲスを葬った聖女は、その成功体験に味を占め、自らの意に染まない邪魔者を殺して殺して殺しまくる。途中、母娘で男を奪い合って敵対した娘のロリーヌまでも、神聖魔法でロボトミー手術を施して自由意思を奪い、奴隷商人に売り飛ばす。500話目からこのロリーヌが不気味に再登場して話をややこしくするのだが、それはまた別の話。とりあえず、敵の敵は必ずしも味方ではない。


 ロリーヌは600話目で脳が爆発して死亡退場する。ざまあ。


 紆余曲折を経て、聖女セリーヌが勇者の娘ジュヌヴィエーヴに『黄金のいかづち』で成敗されるのは1008話目。焼けただれた聖女は廃墟と化した神殿へ逃げ込み自らを治療して再起を図ろうと目論むも、聖女の肉を食せば800年生きられるという八百比丘尼びくにの人魚伝説みたいな迷信に踊らされた狂信者たちが押し寄せ、貪り食われて凄惨な最期を遂げる。残酷な描写ありのタグは伊達だてじゃなかった。ざまあ。



 で。



 わたくしが前世で読んでいたウェブ小説『勇者の娘は荒野を彷徨う』は、この世界に於いてドキュメンタリーなのかしら?


 懸念がある以上は、わたくしの死後、家族に聖女とは一切関わってほしくない。


 でも、ウェブ小説がフィクションなら、わたくしの持っている情報はフェイクニュースということになる。


 推理物の連続テレビドラマを見ながらキャストの中から殺人犯を考察するのはいいけれど、現実の殺人事件を報じているワイドショーを見て「絶対にあいつが犯人」と考察をSNSで語ったり、適当な生い立ちや家庭環境を捏造して投稿したり、拡散したり、いいねを押したりしたら、名誉棄損罪だよね。


 捕まるよ、マジで。


 だから「中央神殿が腐敗していて、聖女は幼い頃から支配下で辛い目に遭ってきたがゆえに、性格が破綻している」とか「聖騎士ロドリゲスの暴力に耐えかね、聖女は事故に見せかけて夫を殺害した」なんて、証拠もなく言えない。ましてや「聖女はこの先100人以上の罪なき人を殺害する」などと、起きていない未来の悪事を予言して注意を促したところで、信じてもらえまい。わたくしのほうが虚言で罪なき他人の尊厳を踏み躙る加害者となるだけだ。


 せめて死ぬのが100日後なら、神殿や聖女の近辺を調べたり、まだ幼女のロリーヌを保護する手立てを考えたりできたかもしれないけれど……もう24時間を切っているのよ。



 ごめん、なんもできねえ。



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