ロリコンだけど
「地獄だな」
目的地に着いた俺は静かにつぶやいた。この場を表す言葉があるとすれば今言った通り、地獄だ。ちなみに悪魔はうちのチームメイト2人です。
なんかすいません。
「うわあああああああ!」
「きゃあああああああ!」
男子学生女子学生、全てが逃げ惑っている。
大地の攻撃を見て集まった奴らがやられているのだ。
この大会ではまず敵を見つけなくてはいけないから、大規模攻撃につられて来るのは普通のことなんだが、ここまで一方的になるとは。
「おい大地、ストップ! ほむらも! プレートを壊せばいいんだよ!」
だが俺の言葉は聞こえておらず、ど派手な攻撃を延々と繰り返す。
どんな体力してんだこいつら。
能力は使えば使うほど疲れるものだ。訓練で多少は何とかなるものだが、それでもこいつらの体力は訓練でどうこうなるものではない。
こんな大規模攻撃を何度も何度も繰り返せるなんて、文字通り化け物だ。
「逃げている奴らが、可哀想だな」
俺は大地達の攻撃から逃げ惑う奴とすれ違いざまに、胸にあるプレートを粉砕する。
プレートを壊されたとも気付かない学生たちは、どこからか現れた竜王機関の人間によって強制的に退場させられる。
これ、こんな一方的でいいのか?
そう思っていると、やはりというかなんというか、大地やほむらの天敵とでも言うべき能力者が現れる。
「氷など、分解すればよい」
「火は水で消える。常識よね」
おそらくは同じチームであろう男女の二人組と、その後ろで縮こまっている一人の男が大地の出したどでかい氷塊と、ほむらの出した火柱にゆっくりと近づき、手をかざす。
「崩れろ」
「消えなさい」
2人がそう言った瞬間、大地の氷塊が形を崩し、ほむらの出した火柱が大量の水でかき消された。
「なに!? どこのどいつ!?」
「俺の邪魔をする奴はだれだ!?」
セリフが完全に小物悪役のそれだな。
「水星、終わらせろ」
「命令しないでよ。やるけど」
そう言って、水星と呼ばれた女子学生の手に、手に収まるぐらいの水球が出現し、大地とほむらのプレートめがけて飛んで行った。
あ、これ無理だ。
俺の予想通り、2人のプレートが粉々に粉砕された。
「ええ? これで終わり?」
「くっ……! アキト、後はよろしく頼むぜ」
何がよろしくだ。勝手に突っ走って勝手に負けて、あとは俺に丸投げって、馬鹿にもほどがあるだろ。
「というか、そろそろ潮時かね」
大地達が大量に敵を倒したし、俺もプレートを30は破壊したから、少なくとも60ポイントは稼いでいるはずだ。
全チーム数が600で、そのうち約10分の1は倒しということになる。このペースを3日間続ければ本選出場は固い。
「それで、納得するはずもないけどなあ」
わざと負けたら、きっと大地もほむらもクラスメートたちも激怒して、長い期間ロリコンと揶揄され続けるんだろうなぁ。
「そこの御人、私たちと戦うの?」
水星が雅な雰囲気で俺にそう聞いてきた。必要とあらば見逃しても良い、とも取れるその言葉に、俺は首を左右に振って後ずさる。
「敵前逃亡とは何事か! 男なら勝ち目無くとも立ち向かわんか!」
今度は一転、武人のような言葉使いで大地の氷塊を溶かした男が叫んだ。
こいつ、めんどくせ。
「つっても3対1じゃね。さすがの俺も男だなんだと言ってられないしさ」
敵は大地とほむらの能力を無効化したほどの実力を持つのだ。さらにそれに加えて未知数の能力者が一人。こいつらの仲間なら、それなりの実力を持っていても不思議ではない。
「安心せい。この私が単身で貴様と矛を交えてしんぜる。構えよ」
だから武人かっての。
「剛力、やられても私は手を出さないわよ」
「無論だ。私は単身であやつと戦うと自分自身で言ったのだ。それを違えるような自身を落とす真似、するはずがない!」
こっちにとっては好都合な武士道だな。だけどまあ、めんどくさい人間であることは間違いない。この剛力さんは。
「はぁ~、俺って結構、苦労人だよな」
自分の状況にため息をつきながら嘆き、目の前の男との戦いに身を投じる。
こいつの能力は、さっきの感じから見て、分子振動を引き起こすものなのだろう。分子を高速で動かすことにより超高温を発したり、物質が形状を維持できなくなる、強力な能力だ。
ま、俺には効かないけど。
「隙だらけだぞ。貴様、舐めているのか?」
一瞬の出来事だった。剛力は俺との間合いを瞬時に詰め、俺の腕を掴もうとした。
能力だけでなく、身体能力も相当なもののようだ。
「まさか。能力の都合上、敵が近くにいないと始まらないだけだよ」
俺はその腕を払うでも避けるでもなく、何の抵抗もせずに掴まれた。
こいつの能力が予想通り分子振動なら、ここで俺の腕はドロドロに溶けるんだろうな。
だけどな、もう勝負はついているんだよ。
「剛力さん、だよな? 自分の胸に手を当ててみな」
俺は掴まれていない左手で、プレートが付けられている胸に親指をトントンと当てる。
それを見て剛力は、自分のプレートがある場所を確認する。
そこには、なにもなかった。
「なに!? な、何故……!」
剛力はその場に跪き、自身の胸に手を当てる。まるで心臓を撃ち抜かれたかのような仕草をし、何度も「なぜ!?」と繰り返している。
竜王機関さーん、さっさとこのめんどくさい武人ぶった男を退場させてくださーい。
そう願った瞬間、剛力は竜王機関の人間に連れていかれた。
「舐めていたのはそっちだったな」
何の警戒もすることなく近づくものではない。近づくのならある程度、思考を巡らせて近づくものだ。
「そこの2人、俺と戦う?」
形勢は依然あちらのほうが優勢、俺が劣勢であることに変わりはない。
しかし、敵はそうは思っていない……はずだ。味方があっさりと倒されたことにより、多少ながら危機感を感じていると思う。
ここで撤退してくれた方が、俺としては助かるんだけどな。
「君の能力、衝撃波かな?」
敵の一人がつぶやいた。俺はそれに反応しないように意識した。
たとえ間違っていようとも、敵に情報を与えることもない。こいつらは強い、と思う。本選で戦うことも十分に視野に入れて振る舞わなければ。
何といっても本選では地上波のテレビで流されるので、俺の雄姿をアイに見せなければいけないからな。
「見村、なぜそうだと思うのかしら?」
「彼、剛力のプレートには一切触れてなかった。なのにプレートが壊れた。衝撃波じゃないにしても、それに類する能力なのは間違いない」
「だとすると候補は、風が有力ですね」
「そういうこと。水星との能力の相性は互角。ここで無理するよりも、他の雑魚を倒した方が良い」
「そう、見村がそう言うなら、そうしましょう。あなた、名は何ていうの?」
一つの結論を出した2人が、俺に聞いてきた。
あれー、俺の都合の良い展開になっていくな。これってなんかの罠だったろするのかな。
「……赤坂大地です」
なんかめんどくさそうだし、大地の名前つかっとこ。
「大地さんね。あなたの名前、覚えておくわ」
そう言って、2人は別の場所へと向かった。正確には、大きな音のする方だ。
ポイントを稼ぎに行ったのだろう。
さて、俺はどうしようか。
2人が向かった場所に行くのは論外にして、また別の場所に行っても強そうな輩と出くわす可能性が高いしな。
「ここはのんびり行こうか。予選は3日、自分の能力は極力晒さずに…………っと!」
適当にぶらつく俺の顔を、何かがかすめた。はあ、サバイバルだし、しょうがないか。
「飛んできたのは……石か。方角は向こうから…………うおっと!」
方角を確認しようとすると、またしても石が飛んできた。まるっきり同じ場所からだ。
敵の位置の大体は把握した。さて、ここでクエスチョン。逃げるオア戦う。
正解は…………逃げる1択だ!
「うおおおおおおおおおお!」
走った。それはもう一心不乱に走った。敵の攻撃に当たらないように細心の注意を払って、走りまくった。敵の位置は分かってもそれは現在地だ。動かれてしまえば意味はない。どころか、もしかしたら誘導されているのかもしれない。
だとすれば、逃げるしか選択肢はないでしょおおおお!
「いつ退場になっても構わないが、痛いのはいやなんじゃあああ!」
それから5分ほど、全力の走りでフィールド内を駆け巡った。
*
「ここまでくりゃあ、大丈夫かね」
行動自体はみっともないことこの上ないが、間違いではないはずだ。
でもクラスメートに何言われるか分からないから、何人かは倒しておこう。
おあつらえ向きに、逃亡先では10チームほどが交戦している。
「さっきのスナイパーに倣って、俺も石を飛ばそうかね」
そこら辺に転がっている石ころを拾い、俺は狙いを定めた。
準備した石は、本当に小さな小石30個、敵の数も30、うまくいけば全員一気に退場できる。
「狙いを定めてええええ…………シュート!」
掛け声とともに石が散弾銃のごとく乱れ飛ぶ。だがそのすべては散弾銃みたいにどこに飛ぶか分からない攻撃じゃない。すべてどこに行くかは完璧に計算されつくした、一つ一つはライフルで撃ちだされたかのごとき精度の銃弾だ。
うまくいけば10人ぐらい片づけることが……。
「ぐふっ……!」
「きゃっ!」
「ええっ!?」
突然の石ころに、驚きの声をあげる者が続出する。
その数は実に、30人。この場にいる人間すべてのプレートに命中したのだ。中には勢い余って心臓を思いっきり叩かれた学生もいる。
うまくいきすぎだなあ。もしかして俺、強くね?
『しゅーりょー。30分が経ちました』
俺が敵を倒した瞬間、試合終了のアナウンスが鳴り響いた。
うん、ベストタイミングだ。この戦いでのポイント獲得数は、十中八九ベスト3に入っているな。勝利を確信しながら俺は控室まで戻る。
そこにいる人間たちは、みな一様に俺のことを出迎えてくれた。
「やるじゃねえかアキト! ロリコンだけど」
「すごいね佐藤君。ロリコンだけど」
「よくやったぞ佐藤、担任として鼻が高い。ロリコンだけど」
「ロリコンロリコンうるせえよ! まともにほめてくれても罰は当たりませんよ!?」
「ローリーコン! ローリーコン!」
止むことのないロリコンコール、頭がガンガンと痛んでくる。
「というか大地とほむらは? あのバカども、一言ガツンと言ってやる」
勝手に突っ走って負けた奴らにはそれ相応の対応をしてやらなければならない。
どこだ、どこにいる?
周囲を見回すも、2人の姿は影も形もない。
「2人なら遊びに行ってくるとか言ってもう出たわよ」
「あ・の・ば・か・ど・もー!」
人が退場した2人のために何人か倒していたってのに、自分たちは悠々自適に遊びですか。あーそうですか。よっぽど俺のことを怒らせたいと見えるな。
「な、なあアキト、落ち着けって」
ワナワナと震える俺にクラスの男子たちが宥めようとしてきた。が、あらゆる人間のあらゆる行動が癪に障る。全員の俺への言動がすべて腹立たしい。
「帰る!」
「か、帰るって……他の奴らの戦いを見てかないのか? 情報は大事だぜ?」
「知るか! あの2人がそれを放棄してんだ。俺だけ真面目にやるとか、ばかばかしくてやってられるか」
それ以降も俺を引き留めようとする声が聞こえてきたが、そのすべてを無視して、バイクに乗って家に帰った。




