永遠の誓い
それから何時間が経っただろうか。進めど進めど景色は海、なにも変わりはなしない。
だけど、さっきまでの灰色のどんよりした海ではない。
俺とアイの門出を祝うかのように晴れ晴れとした空が、眼下に広がる広大な海を鮮やかな青に染め上げてくれている。
「アキト、うみって……きれい、なんだね……!」
暗い海しか知らなかったアイは、初めて見る鮮やかな海に心躍らせている。
それが何よりも俺の心を高揚させ、俺の決意を固めてくれる。
アイに言おう。正直な気持ちを。
考えてみれば、俺の告白はすべて第三者に見られた複雑なものだった。
この場で、俺とアイだけの世界で、正直な言葉をアイに伝えよう。
俺はバイクの移動を止め、宙に漂わせる。
そしてアイの方を振り向き、アイの目を見て話すことを決意する。
「アイ……その、なあ……」
「……どう、したの?」
いざ口にしようと思ったら、照れくさくて口がうまく動かない。
さきほどまでの決意が紙のように薄っぺらなものだったのか、俺の決心は鈍りつつある。
こんなにも、告白というものは難しいものだったのか。
今までもアイのことを好きだと言っていたのに、面と向かって言うとか恥ずかしすぎる。
最初好きだと言った時は、その場にアイはいなかった。アイを助けに行ったときは、なんというか極限状態に近かったから、ノリで行けた。
だけど今は、邪魔するものが誰一人としていない、アイに対してのみに向ける正真正銘、俺一人の告白。
緊張しないわけないだろ!
「アイ……俺、は……お前が……」
舌がうまく回らない。
お前のことが好きだ。そう言うだけなのに、難解なテスト問題を解くよりも難しいものに感じる。
そんな俺を不思議そうに見つめるアイを見ていると、心臓の鼓動が早くなり、さらに俺の緊張を増大させる。
今すぐ抱きしめてやりたい気持ちがある。アイのことが愛おしくて、これほどまでに愛しているのに、どうして好きの言葉が言えない。さっきの戦いの方が、よっぽど緊張するものだろ。俺の死がかかっていたんだぞ。
なのに、死の恐怖すら告白の緊張が上回る。
「アキト……こわいかお、してる……」
アイがほんの少し怯えたようにそう言った。
それを見て、俺はどうしてこんなにも緊張するのか、分かった気がした。
俺は、アイに拒絶されることが怖いんだ。
アイは俺を好きだと言ってくれた。だけどそれが恋心かどうか、俺は知らない。
それは感謝の気持ちかもしれない。憧れかもしれない。
俺がアイを恋愛感情で好きだと認識された時、もしも拒絶されたらと思うと、心の苦しみで自殺してしまう可能性すら無きにしも非ず。
というか、高校生が小学生ぐらいの年頃の女の子を本気で好きだと言っても、拒絶されるのが普通だ。確率的に見ても拒絶される可能性の方が高い。
だからこそ、きちんとしたアイへの告白が怖くてたまらない。
でも、言わなくちゃいけない、
これは誓いでもある。俺がアイを一生守り続ける、消えることのない永遠の誓い、
言わなければ、俺はアイとい続ける資格がない。
だから言え! 言うんだ!
アイのことを好きだと!
「アイ……俺は……!」
確固たる決意をして俺は口を開き、その口はすぐにふさがれた。
『チュッ』
アイが口づけをした。俺の口に自分の口を重ね合わせ、やわらかい唇の感触が残る。
「え……? え……えっ!? えぇ!?」
動転した俺は何度も違うニュアンスの「え」を繰り返す。
それを見たアイは恥ずかしそうに頬を赤らめ、満面の笑顔でこう言った。
「アキト、大好き!」
……俺の中の何かが、激しく崩れ落ちて行くような気がした。
「……………………」
「ア、アキト……?」
アイは俺を不安そうに見ている。
何か言わなければいけない。アイの行動に、告白に、俺は報いなければならない。
だけど、声が出ない。体が動かない。
それどころか、俺の両目から暖かい何かが流れ落ちるのを感じる。
「ご、ごめん、なさい! アキト……泣かない、で……!」
「え……? 俺……泣いてる?」
アイに言われ、初めて自分が涙を流していることに気づいた。
悲しいわけじゃない。痛いわけじゃない。苦しみで涙を流しているのではない。
これは……うれしいから。
「アイ……」
俺が呼ぶと、アイは一瞬ビクッと体を震わせた。
クソだな、俺は。俺がヘタレなせいで、アイを怯えさせた。
本気で愛している女を、不安にさせた。一生かけて償わなければいけないぐらいの罪だ。
だから俺は、アイにこう言わなければならない。
「好きだよ」
どれだけ決意を固めようとも言えなかった言葉が、すんなりと言えた。
そうさ、こんなこと、怯えることもなかった。
アイが悲しむのに比べたら、俺が傷つくことなんて些細なことだ。
「俺は一生、アイと一緒にいる。アイは……一緒にいてくれるか?」
「……うん、ずっと、いっしょだよ」
海の上、永遠の誓いを立て、俺はアイを抱きしめた。




