第7章 : この三つ巴の戦い、先に倒れるのは誰だ?
◆◇◆
またあの夢だ……
なぜ……こんな夢ばかり見るんだろう
「?」
あの叫び声は何なんだ……
あれ……あそこから光が来ている
私はだから走った……あの光に向かって……全力で
光へと伸ばした手が何かに触れた……木のような感触
私はその板をありったけの力で押し開けた……
ギン!
「これは!?」
生まれ故郷の診療所に似ている……でもずっと近代的だ
「キャーーー!!!」
でも……周りの人たちはその叫び声を無視して何も気にしていないようだった……だから私はその声の方へと歩いて行った
私は自分が親族でも患者でもないことはわかっていた……でも周りの誰一人として私のことを気にする者はいなかった
「……………」
私は廊下の角まで走ってきた……病院の中では走ってはいけないのだが……でもさっき見た通り誰も私のことなど気にしていない
目の前には……大きな扉がふさいでいた……叫び声はその向こうから聞こえてくる
「分娩室?」
私は言った……でもやはり誰も気にしない
「!@#$#$#$$^^^%#」
「#$%&*()((&&&^^%$#」
看護師は異国の言葉を話しているのか?……でも構わない。「私には魔法が使える」
ふっ……赤い光が人差し指と親指に灯った。私はそれを喉と両耳に当てた
「ねえねえ……あの子かわいそうよね。こんな年でお腹が大きくなって、重い病気だっていうのに父親が誰かもわからないんでしょ」
「しかもその子を妊ませたのはうちの病院の医者だっていう話よ」
「えっ……それは大変ね」
妊娠した子供がいる?でもあの叫び声は……
「うーん……あれだけ大声で泣いているなら赤ちゃんはもう死んでるんじゃないかしら」
「かわいそうに」
「そんな……」
私はすぐにその部屋へ駆け込んだ……誰にも私が見えないなら……あの子を助けられるかもしれない
私は大扉を開いた……そして真実と向き合った
「……大変申し訳ありません……テラシマ・エミリ様。お子様は……助かりませんでした」
なぜ……なぜ医者たちはあんな無表情でいられるんだ?
いや……たとえ自分の子でなくとも……あんな態度は冷たすぎる
「……私の子供……」
あの子が……あの小さくてか弱い少女が泣きながら恨めしそうな目で横たわっていた
「貴様ら……殺したのね」
無表情の医者はエミリに近づき、言った……
「何を言っているんだ……おまえが愛情を与えなかったから腹の子は死んだんだ……だから……俺たちが"その体"を代わりに愛してやる」
「いや……いや!返して!! 私の子を返して!!」
「縛って口を塞げ……魔法使いを呼んで洗脳して路地に捨てろ……子供の体は手に入れた」
残酷だ……これほどの残酷さがあろうか
「やめろ!!」
私はあの子を奪い返そうと駆け寄った……だが
「なぜなんだ!?」
私の体は医者たちの体をすり抜けてしまった……魔法で探知しようとしても何もできなかった
医者たちは何かの仕掛けを押すと……地下室への隠し通路が開いた
「放して!! 放してよ!!」
エミリをも地下室へと引きずり込んだ……
「でここはどうする」
「異次元の道具を使えばいい」
「あー……そうだな……」
そして医者の一人が大きな帆布の袋を力いっぱい床に投げつけた……
「そんな!?」
私は重力魔法で止めようとした……だが……それでもやはり床に落ちた
そして袋が床に落ちた瞬間……この世の終わりを告げる業火が病院のすべてを残らず焼き尽くした
私はただその光景を見ているだけで何一つできなかった
すべてのものが灰燼と化した
炎がすべてを燃え尽くしていくたびに……聞こえてくるのはただ叫び声だけだった
「見たでしょ?」
あれは誰だ!?
私は後ろを振り返った……するとそこには……あの少女、エミリが業火の中で憐れむような目で私を見つめて立っていた
「"私の体に入り込んだ"あなた……見たでしょ……なぜ男という男は全員死ぬべきかを」
「お前……何を言っているんだ……」
彼女は少し首を傾けた……そして私に手を差し伸べた……
指先が頭に触れた……その瞬間……彼女の記憶が脳に直接流れ込んできた
すべて……何もかも……
私は膝から崩れ落ちた……そして吐いた
嘔吐……体の中にあるすべてのものが喉から一気に出てきた
これは……何だというんだ……なぜ
この子は……一体何を経験してきたんだ
「お前は……なぜ」
「私がまだ正気でいられる理由はたった一つ……復讐心だけよ」
そうだ……今私の目の前に立っているのは……もはや息子を奪われた母親だけではない
男を冷酷かつ残忍極まりなく殺す殺人鬼でもあった
「…………だから……近づいてきた男を皆殺しにするのか?」
「そう……なぜなら私に近づいてくる男は……体を奪おうとするだけだから」
「でも殺すのは……」
「なぜ悪いの?……殺さなければ向こうが私たちを犯すのよ……」
「では何故彼らの肉を食べるのか」
「汚れ切ったその肉を誰にも触れさせたくないから」
理由というものはあるのか……
「だから……目覚めなさい……私の体を継ぐ者よ。あの男を殺しに行きなさい」
あの男……
「私は誰も殺さない……特にゴロウさんは」
「私に近づく男はみんな……強姦機械に過ぎないのよ……あなたもわかっているでしょ……あなたも……愛した人に裏切られたことがあるんだから」
そうだとしても
「いや……私は彼を傷つけない……」
彼は……私の命を救ってくれたから
「では地獄へ落ちなさい」
◆◇◆
「……………」
私は病院の建物の前で目を覚ました……いつの間に眠っていたのかわからない……でも確かなのは雨が一向に止む気配がないということ
周りはまだ廃病院のままだった
開いているのは窓だけだった
「ゴロウさん……大丈夫かしら」
あの夢は一体何だったのか……
なぜ……元の体の持ち主はあんなことを言ったのか
しかもあの子は……ゴロウさんを殺せと言った……
「いや!」
そんなことは絶対にしない……
それに彼は……そんな人じゃない
たとえ私が婚約者である王子様に死刑を命じられたとしても……
でも私は……あの子のように……エミリじゃんのように……男を恨んでいるわけじゃない
「……ちょっと待って……ここって」
よく見ると……この建物には見覚えがあった
そうだ……さっき夢で見た診療所と同じ場所だ
ゴロウさんが危ない!!!
「早く行かなきゃ! ミズキが危ない!!」
ゴロウさんの声だ!!
ギンギンギンギンギンギン
何百もの足音が私に向かって走ってくる
{ハハハハハハハハハハ ママ……ママどこ!}
今私の目の前にいるのは……透明な体をした赤ちゃんの霊が何百……いや何千もいて、こちらへ向かって来ていた……
「えっ?」
「ミズキ!!!!」
◆◇◆
ゴロウが暗い廊下を歩き始めた、あの時に戻ろう……
ゴロウはそれほど遠くまで行かなかった……あの子の病室へと向かっていた
引き戸を開けて中に入ると……今の様子はあの頃とはまるで別物だった
「……………」
物や様々なものが辺り一面に散らばっていた……病院のベッドさえもまともな形を留めていなかった
「……ここが……お前がいつも窓越しに俺を見ていた場所か」
窓が割れていた……ここから見ると……かつて孤児院だった空き地が見えた
だが今はもうずいぶん前に閉まってしまっていた
ゴロウはただ微笑んだ……あの子がいつもそこで彼の公演を見ていたとわかったから
「俺のユリにふさわしいな」
ゴロウはカビだらけのベッドに腰を下ろして……脇の引き出しへと手を伸ばした
するとそこにスケッチブックが一冊出てきた
「?」
そしてゴロウはその絵たちを開いて見始めた
◆◇◆
ギー……
シロとカエデは廃病院の窓を少し開けて中を覗き込んだ。すると一人の少女がカウンターに突っ伏して眠っていた
「……………」
二人は顔を見合わせた……一瞬、彼女をナナちゃんかと思ったが……髪の色が違うと首を横に振った
「一通り探して、ナナちゃんを連れて早く帰ろう」
二人は知らなかった……ナナちゃんはすでに、この世に存在しない何者かによって殺されていたことを
二人は急いで建物に入り、暗い廊下を走り出した
ギンギンギン!
ゴロウは二人の足音を聞いて素早く振り返った……
最初はミズキかと思ったが、二人分の足音だとすれば良い話ではない
「……………」
彼はスケッチブックを叩いて空中に消した……そして鉄製のトランプを身を守るために準備した……
ギー!!!
影が走り過ぎた瞬間……ゴロウは病室の扉を開けてすぐにトランプを投げつけた……
しかし……白髪の男の後ろ姿がその瞬間に後方宙返りをした
白髪の若い男……シロはためらわずゴロウに向けて銃を撃った
その弾丸は急所を外した急所に正確に命中した
「!」
しかし……弾が肉に触れた瞬間、ゴロウの体は綿入りの人形に変わっていてシロは一瞬固まった
シュウ……
すると人形から煙が噴き出してきた……
「シロ!」
「来るな! 麻酔ガスだ」
助けに来ようとしたカエデはただ見ていることしかできなかった……道具なしには麻酔ガスに対処できなかったから———
パンパンパン!!
彼女は天井に向けて三発撃った……ここが異次元の影響を受けているなら……
シロとともに一晩かけてジェポンヌを調べた二人は、ここには天の門から出てきた異次元の技術や文化が持ち込まれていることを知っていた……そしてひとつ確認できていたことがあった
火災が起きると天井から水が噴き出てくるということ
ザー……
「やった!」
これで麻酔ガスは水で洗い流された……
カエデがシロの様子を見に駆け寄った
「シロ!」
「俺は大丈夫だ……ありがとう」
二人は背中合わせで立ち……ゴロウを警戒した
チリン……
鉄の玉が転がってきた……二人はすぐに病室の中へと走り込んだ
間一髪だった……二秒後に ドーン!
爆発の威力は大きな爆竹くらいだったが、もし食らっていたら皮膚が焼け焦げたに違いない
そして中に入ると同時に、ゴロウが伸縮する棒で接近戦を仕掛けてきた。狭い空間では銃が使えなかった
ゴロウはその棒を巧みに振り回した……盗賊たちと戦ったことのあるカエデでさえ息を切らすほどに
シロがゴロウの腕を掴もうとしたとき、シロの袖から大量の紙の鶴が現れ、ゴロウはその鶴の群れの中に消えていった
二人はまた背中合わせに戻った……しかしあまり意味はなかった
「くっ!!」
伸縮棒は時折二人の死角を突いてきた
対処しようとしたがうまくいかなかった……
だから固まっていた
シロは足音に耳を澄ませた……紙の音が邪魔をしていたが……それは問題ではなかった
二人はスパイだ
それが単なる言葉であったとしても……二人は鍛えられた技術こそが最大の証明になると信じていた
「……………」
「……………」
そして……本当に聞こえてきた……
ギク……ギク……
ギク!!!!
シロは目を開け……手品師の腕を掴んだ
手品師に勝つには、手品師より速くなければならない
「捕まえた」
「!」
シロはゴロウの顔面に真っ向から強烈な直拳を叩き込んだ……
しかしゴロウも一方的にやられはしなかった……すぐに打ち返してきた
「!」
二人の視線が絡み合った……そしてその瞬間……二人は同時に、見当違いの言葉を吐き出した
「お前がナナちゃんを連れ去ったのか!」
「ミズキに何をした!」
その言葉を聞いて……互いに目が点になった
◆◇◆
「そういうことか……お前は行方不明の子を探しに来たんだな」
停戦してしばらくしてから……二人は誤解を解いてここに来た経緯を話し合った
「……先に顔を殴ってすまない」
「いや……俺の方こそ先に攻撃した」
「でも……お前は二人同時の攻撃をかわしたんだからすごいな」
「俺はいっぱい練習してきたから……そうだ……まだ雨が降ってるな……俺はちょっと……」
しかしゴロウが言い終わらないうちに、廊下から何かの音が聞こえてきた
{ハハハハハハ}
笑い声……赤ちゃんの
「……………」
ゴロウは廊下へ歩いて行った……すると……
男の赤ちゃんがゆっくりとこちらに向かって這ってくるのが見えた
「ゴロウ?」
しかしゴロウは答えなかった……ただそこを見つめていた
「……何が……」
二人も病室から出てきた。同じく赤ちゃんの姿を見た
{ハハハハハハハハ ママ……ママかな?}
「あなた……」
ゴロウが指でカエデの口元を指し静かにするよう促した
{ママ……絶対ママだ……}
そのとき……
赤ちゃんが何百何千と、三人に向かって素早く這い寄ってきた……
ゴロウは赤ちゃんたちに麻酔ガスを噴射しようとした……しかし
赤ちゃんたちはかえって廊下を這い進んで行ってしまった
「さっきの……何だったんだ……」
ゴロウはその光景を見ながらしばらく考えた……なぜあの赤ちゃんたちはママと言っていたのか
向こうに誰かいるのか……
「早く行かなきゃ! ミズキが危ない!!」
ギンギンギンギンギンギン
何百もの足音がミズキの方へと走って行く
{ハハハハハハハハハハハ ママ……ママどこ!}
「えっ?」
「ミズキ!!!!」
その瞬間……ミズキが両手を広げた
そして————
ビィィィィィィン!!!!
赤いバリアが現れてミズキを守った……それをしたのはゴロウでもシロでもカエデでもなかった
ミズキ自身だった
「ゴロウさん……本当の名前を教えなかったこと、ごめんなさい……でも私は……あなたが知っているエミリたんじゃないんです」
「えっ?」
「それ……魔法じゃないか」
「私は……レグラの王子様である婚約者に……」
三年前に体を奪われ、ずっと暗闇の中にいた少女……
その後……男を殺して食べる殺人鬼と体を入れ替えさせられた
「私の名前は……クロエ・アンダーソンです」




