37.呂布との再戦
初平4年(193年)4月 司隷 河南尹 陽武
陽武を落とした俺たちは、その勢いに乗って、河南尹の各都市を奪還していった。
幸いにも反乱軍の主力は敗走していたため、抵抗はさほどでもなく、公孫瓚と別行動で攻略できた。
その過程で我が軍は、降伏した兵の吸収にも成功し、戦力が増している。
ざっといえば、俺が10万で、公孫瓚が5万になった。
さらに寿春から打って出た程普軍も、汝南郡の都市を落としており、戦果は上々だ。
しかし1ヶ月もすると、敵も態勢を立て直してくる。
「酸棗と陳留に、敵が集結しているのか」
「はい、しかもその数が、尋常ではないようです。この勢いだと、また20万に届くかもしれません」
「それは凄い話だ……まあ、敵は中原の要所を押さえてるからな」
なんと反乱軍は、またもや20万を集める勢いだという。
なぜそんなことが可能かというと、敵は黄河下流域の大人口地帯を押さえているからだ。
具体的にどれぐらいの人口があるかというと
幽州:196万人
冀州:593万人
青州:371万人
兗州:405万人
徐州:279万人
豫州:618万人
これで合わせて、2462万人にもなる。
特に冀州と豫州は、ずば抜けてるな。
それに対して、こちらが押さえている州はといえば
司隷:282万人
荊州:627万人
涼州:40万人
并州:69万人
揚州:434万人
これで合計1452万人なのだから、かなり不利である。
半分以上はあるが、6割にも満たない。
この他に益州(724万)は劉焉が独立を宣言し、交州(111万)は遠すぎて役に立たない。
ただし益州の劉焉には兵を出す余裕はないらしく、おとなしくしているのが不幸中の幸いだ。
いずれにしろ、俺たちが劣勢なのは変わらない。
しかし俺が率いる涼州兵と、公孫瓚ひきいる白馬義従中心の官軍であれば、その劣勢もはね返せると信じていた。
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初平4年(193年)4月下旬 兗州 陳留郡 酸棗
ところが酸棗の攻略に出た我が軍の前に、強力な敵が現れた。
「呂布だ~! またヤツが出たぞ~!」
「げえっ、またかよ。防御態勢を取れ~!」
前線の部隊に緊張が走ると同時に、そこへ一団の騎兵隊が突撃してきた。
その先頭に立つのは呂布 奉先。
董卓を裏切って殺そうとした、恩知らずの野良犬野郎である。
しかしその強さは並外れており、見事に配下を統率してもいた。
そして呂布に従うのは、屈強な幽州突騎兵だ。
しかも兵士だけでなく、馬体も革や木製の鎧で覆われていて、遠距離攻撃への備えがしてあった。
つまり簡易的な重装騎兵である。
そんな奴らが300騎ほども固まって、戦場を駆け抜けるのだ。
味方の歩兵部隊に、被害が続出していた。
「くそ、またしても呂布にやられたか。相変わらず逃げ足の速いヤツだ」
「それはそうですが、ヤツの采配も侮れませんぞ。我が軍の弱点を突かれることで、そこから崩れることが多いのです」
「チッ、ただの脳筋じゃないってか」
本来、騎兵突撃なんてものは、やる側の損害も馬鹿にならないので、そうそう多用できるものではない。
しかし呂布は正面からの激突を避け、斜めからかすめるような攻撃で、自軍の損害を減らしていた。
さらに敵の態勢を崩すことにも長けているため、こちらの損害だけが積み重なっているのだ。
「我が軍の騎兵が駆けつける頃には、すでに撤退しているため、有効な手立てが打てません。このままでは味方の士気に関わりますぞ」
「ああ、早急になんとかせねばならんな…………よし、俺が出よう」
「ええっ! それはあまりにも危険ではありませんか?」
俺が出ると言ったら、すかさず賈詡に止められた。
しかしそれを聞いていた周瑜は、思案げに俺に問う。
「たしかに危険だとは思いますが、何か妙案でもありましょうか?」
「例のやつを使うつもりだ。あれを装備してる連中なら、当たり負けしないだろう」
「ああ、例のやつですか。それであれば、孫堅さまに出ていただくのが、一番いいかもしれませんね。大至急、騎兵隊を編成しましょう」
「うむ、頼んだぞ」
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グッドモーニング、エブリバディ。
孫堅クンだよ。
翌日になると俺は、選び抜かれた騎兵を率いて、最前線へ出向いた。
そして声の大きな兵士たちに、大声で叫ばせたのだ。
「裏切り者の呂布め~! てめえなんざ、犬畜生にも劣るド外道だ~! 悔しかったら、掛かってこ~いっ!」
「図体ばかりでかい呂布ちゃ~ん! 体のわりにアレは小さいらしいな~! 悔しかったら、見せてみろ~!」
「荊州牧の孫堅さまが、野良犬の相手をしてくださるそうだ ~! 怖くないなら、姿を見せろ~!」
俺の意図を説明してから、好きなようにやらせてみたら、みんな言う言う。
最近はいいようにやられていたので、鬱憤が溜まっていたらしい。
しばらくそうやって挑発していると、やがて敵の後方にもそれが伝わったのだろう。
ヤツがまんまと顔を出してきた。
「貴様ら! 好き勝手にほざきおって! 許さんぞ!」
100メートルほどの距離にまで近づいて、呂布が言い返してくる。
なのでこちらも大声で応じてやった。
「なんだ、裏切りが得意な卑怯者だから、出てこないかと思ってたぞ。ところで、本当にアレは小さいのか?」
「おのれ、孫堅! ぶっ殺してやる!!」
脳筋野郎が、簡単に挑発に乗ってくれた。
ヤツは騎兵隊の先頭に立って、こちらへ突撃してくる。
それに対して、こちらも負けじと駆け出した。
「野良犬野郎に、目にもの見せてくれるぞ! 我に続け!」
「「「おうっ!」」」
こちらも300人ほどの部隊が動きだし、騎兵同士のぶつかり合いが始まった。
どちらの騎兵も、それぞれ選りすぐられた精兵である。
しかしこちらには、有利な隠し玉があった。
「くたばれ、孫堅っ!」
「黙れ、野良犬っ!」
最初はそれぞれまとまって動いていたが、やがて乱戦になった。
俺と呂布も正面から矛をぶつけながら、一騎打ちを繰り広げる。
「ぐうおおおっ!」
「なんの!」
三国志で最強と目されるような豪傑が、全力で矛を振るう。
しかしこちらもソンケンの意識を解放して、全力で立ち向かった。
「ぐぬっ、なぜだ? なぜ倒せん!」
「はっ、以前とは違うんだよ!」
洛陽で戦った時は不覚をとってしまったが、今回はひと味ちがう。
馬と一体になったように操り、軽やかに敵の攻撃をいなしていた。
その強さの秘密は、”鐙”である。
元々、長沙太守になったあたりから、その研究は進めていた。
最初は革のわっかから始まって、いろいろな素材や形状を試し、実戦投入の機会をうかがっていたのだ。
そして洛陽で呂布に負けたことから、本格的な投入を決心し、ある程度の数を揃えておいた。
今回、使っているのは革製のもので、色合いも馬に合わせて、目立たないよう工夫されている。
もちろん乗り方が異なるので、気づくヤツは気づくだろうが、多少は目くらましになるだろう。
そして現実に呂布は、勝手の違う戦いに戸惑っている。
その戸惑いによる隙が、最終的な勝敗を分けた。
「この前のお返しだっ!」
「ぐはっ!」
俺が振り回した矛に頭を殴られて、呂布が落馬する。
おそらくまだ息はあるが、しばらくは立ち上がれないだろう。
これでようやく、洛陽戦での雪辱を果たせたな。




