25.公孫瓚との出会い
初平2年(191年)7月 司隷 河南尹 洛陽
周忠と会って3日もすると、董卓から呼び出しがあった。
たぶんあれかと思って出向くと、公孫瓚に引き合わされる。
「この度、右中郎将に就任した公孫瓚 伯珪だ。よろしく頼む」
「荊州牧の孫堅 文台です。こちらこそよろしく」
公孫瓚は口ひげをきれいに整えた、ダンディな武将だった。
年齢はたしか俺より4つほど上なので、40歳か。
「貴殿の噂は聞いている。ただ強いだけでなく、荊州の改革にも力を振るっているそうだな」
「そんな大したもんじゃありませんよ。そちらこそ、無敵の騎馬軍団を率いると聞いていますが」
「ハハハ。まあ、戦ばかり強くても、政治が苦手ではな……」
そう言って、彼は苦笑いする。
その原因は知っているので、あえて指摘してみた。
「ひょっとして、劉虞さまとのことですか?」
「ああ、なかなか上手くいかんものだ」
この頃の公孫瓚は、皇族の劉虞と揉めていた。
事の発端は186年に起こった、”張純の乱”だ。
公孫瓚はこの頃、俺と董卓が参加した”辺章と韓遂の乱”鎮圧に合流する予定だった。
ところがその移動中に、張純が烏丸族と組んで、幽州で反乱を起こす。
そこで取って返して鎮圧に当たったが、局地戦では勝てても、張純を捕らえるまではいかない。
やがて2年も経つと朝廷がしびれを切らし、今度は劉虞を幽州牧として送りこんだ。
劉虞という人物は元々、幽州で刺史をしていたこともあって、あちらでは人望が高い。
そんな彼が烏丸族に反乱の愚を説き、張純の首を差し出せば帰順を認める、と誘った。
この懐柔策は図に当たり、烏丸は降伏しようとするも、公孫瓚には納得がいかない。
さんざん烏丸と戦ってきたのは自分なのに、それを頭越しに解決されては立場がない、と考えた。
彼からすれば功績の横取りだし、何より公孫瓚は烏丸族のような異民族が大嫌いだった。
”異民族なんて制御できないんだから、徹底的に討伐すべきだ。劉虞のやり方は一時的に有効でも、長期的には漢朝に不利である”
という考えの下に、劉虞と烏丸の交渉を邪魔しまくったという。
しかし結果的に劉虞の交渉は成功し、公孫瓚の面目は丸つぶれとなった。
これを恨みに思った彼は、その後も劉虞の邪魔をし続ける。
異民族に向けた使者を襲い、恩賞なんかを横取りしてたらしいな。
史実だと、そのまま関係が悪化しつづけて、公孫瓚が劉虞をぶっ殺してしまう。
これで声望を失った公孫瓚も、袁紹に攻められて自死を選ぶ。
それはあまりにもったいないと思ったので、董卓に献策して召喚してもらったわけだ。
「そういえば、公孫瓚どのは、”白馬義従”という部隊を率いられているとか。今回は連れてきているんですか?」
「ああ、あれがないと私の存在意義は示せないからな。さすがに全部隊は無理なので、一部だけだが」
「おお、ならば後学のために、見せてもらえませんか?」
「かまわないぞ。このまま移動でよいかな?」
「ぜひお願いします」
やった、”白馬義従”が見られる。
これは白馬で統一した騎兵隊のことで、弓射を得意とする精鋭部隊だ。
その戦闘能力は高く、幽州の遊牧民にも恐れられたという。
そんな公孫瓚の武力の象徴を見るため、俺たちは場所を移した。
公孫瓚の駐屯地へ赴くと、本当に白っぽい馬ばかりの部隊がいた。
さすがに演習なんかはやっていないが、てんでに馬の世話をしたり、駆けさせたりと活気がある。
興味深くそれを見ていると、近寄ってくる影があった。
「お戻りになられたのですか? 公孫瓚さま」
「ああ、あいさつ回りは終わったよ。こちらは荊州牧の孫堅どのだ。白馬義従を見たいと言われてな」
「なんと! あなたが孫堅さまですか! はじめまして、趙雲 子龍と申します」
うおおっ、趙雲だよ、趙雲。
彼はスラリとした肢体に、整った顔だちを持った美青年だった。
年齢はたしか、25歳ぐらいのはずだ。
「ほ、ほう、趙雲どのというのか。なかなか見どころがありそうな青年だな」
「フハハッ、そうだろう? 俺もけっこう期待しているのだ」
「いえ、とんでもない。私なんて、まだまだです」
俺が彼を褒めると、公孫瓚も嬉しそうに応じる。
それを謙遜する趙雲の仕草も、さまになっていた。
三国志でも有数の有名キャラに興奮していると、さらなる有名キャラが現れた。
「あっ、もどったんすね? 兄貴」
「こら、上官に兄貴はないだろう、劉備」
「おっと、いけねえ。まあ、勘弁してくださいや。公孫瓚さま」
おお、今度は劉備だ!
そういえばこの頃、公孫瓚の世話になっていたんだっけ。
すると劉備の後ろの偉丈夫が、申し訳なさそうに頭を下げた。
「すみませんな、公孫瓚どの。私からもよく言っておきます」
「そうだよ、あにい。いくら昔なじみだからって、けじめはつけねえとな」
「なんだよ、お前ら。いい子ぶりやがって」
そして劉備とくれば、関羽と張飛だ。
関羽はひと際大きな体躯に、豊かなヒゲをなびかせている。
張飛も負けず劣らずの立派な体格で、顔中に無精ヒゲを生やしていた。
一方の劉備は中肉中背の体格に、大きな耳たぶが目立つ。
顔立ちはそこそこ整っているが、それ以上にどこか憎めないような笑顔が、印象的な男である。
たしか劉備と関羽が30歳ぐらいで、張飛が25歳ぐらいだったか。
そんな彼らを感慨深げに眺めていると、劉備がそれに気づいた。
「そちらはどなたさんで?」
「ああ、彼が荊州牧の孫堅どのだ。”白馬義従”を見にきたのだよ」
「ほえ~、あんたが孫堅さまか~。俺は劉備 玄徳ってもんです」
「孫堅 文台だ。よろしく頼む」
すると関羽と張飛も、名乗りを上げた。
「関羽 雲長だ」
「あ、俺は張飛 益徳です。よろしくお願いします」
関羽の名乗りはぶっきらぼうで、張飛は愛想がよかった。
関羽は目上に対して傲慢に振る舞い、張飛は上に媚びるというのは、本当なようだ。
それにしても、史実の蜀漢を代表する男たちと、こうもあっさり対面できるとは。
ちょっと感慨深いものがある。
そんな思いを隠して、公孫瓚に問う。
「彼らとはどういった関係で?」
「ああ、劉備とは昔なじみでな。その縁で面倒を見ている。今回の洛陽行きには、ぜひ連れていってくれと泣きつかれ、仕方なく連れてきたのだ」
「そんなこと言わねえでくれよ、公孫瓚さま。こんな時でもなきゃ、洛陽になんて来れねえんだ。絶対に役に立つからよ」
「本当にそうなら、いいんだがな」
公孫瓚が大げさにため息をつくと、誰からともなく笑いが広がった。
最初は不満げな劉備も、最後は一緒に笑っていた。
根は悪くない男なんだろうな。
こうして歴史的な出会いを終え、俺は公孫瓚の下を辞去した。
はたして彼らは、今後どのような動きをするのか?
そして俺は彼らと、敵対せずにいられるのか?
そんなことを考えながら、帰路についた。




