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俺のかわいい妹がハッピーエンドをお望みだ~勇者志望の妹のため、兄は全力で裏方に徹する!なお、周囲の被害は気にしない~  作者: 結丸
俺のかわいい妹が

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5-2

 突然飛び込んできた勇者一行に宰相たちは戸惑った。

 とりあえず地面に倒れ伏した執務室の扉を見て、青の宰相が眉を吊り上げる。


「勇者ヨータロー! あなたは何回ドアを壊せば……」

「ウィルドン山の廃坑に行ってきた」


 葉太郎は青の宰相の苦情を遮り、話を始めた。

 フィーロが一歩前に出て、説明を続けた。


「廃坑になっているはずの山には、人が出入りした痕跡がありました。そして奥に進んだ俺たちは、洞窟の中でサンダーバードに襲われたんです」


 騎士団長が眉をひそめた。


「あ? サンダーバードが洞窟ん中にいたのか?」

「ええ。本来あの場にいるはずのない、人為的に召喚された魔物です」


 騎士団長は表情を引き締めた。

 鉱石が採れなくなり人の足が遠のいた鉱山。そこにさらに魔物を召喚して、誰も近づけないようにしていた。

 そんなことをする目的は決まっている。

 何かをその鉱山に隠しているのだ。


「フィーロ、その鉱山には何があったんだ」

「大量の武器と、金塊です」

「!!」


 その場の空気が一変する。

 隠された金塊と武器。その場にいた誰もが、同じ答えを思い浮かべた。


「戦争の準備か……」


 騎士団長が苦々しく答えを口に出す。

 国防のための蓄えであればそんなところに隠す必要はない。

 国の意志に反して、戦争をしかけようとしている者がいるのだ。


「お前らは、それを探しにウィルドン山に行っていたのか」

「そうだ。そして誰がそれを企てているのかを、だ。……王」


 呼ばれたアイヴィーは唇を噛み締める。今すぐ耳を塞ぎ目をつぶって、なにもかもを遮りたい。だけどアイヴィーは、葉太郎を真っすぐに見つめ返す。

 葉太郎は召喚石を懐から取り出し、魔方陣を見せた。


「──誰が描いたものか、分かるな?」


 ひまりはすぐに分かった。なら、彼女は当然分かるだろう。

 ずっと、その人に教わってきたのだから。


 手のひらサイズの石に描かれた魔方陣は、歪みの無い綺麗な円を描いていた。

 円の中に記された線も記号も、正確に。

 脳裏に蘇るのは、いつの日かの、穏やかな授業の記憶。


『青の宰相、あなたもうちょっとうまく描けないんですか』

『うるさい、大体なんであなたは全部同じ形になるんです。何か魔術を使ってるでしょう』

『いやー、ははは。職業柄ですかねえ』


 優しい穏やかな記憶だ。

 こんな形で思い出したくはなかった。

 アイヴィーはゆっくりと首をもたげ、彼を見る。

 前王から賜った赤い肩布を掛けた、魔術の師を。

 いつものんびりと自分を見守ってくれた宰相を。


「……赤の宰相。お前が裏切者だったんだな」


 穏やかで優しいあの日々は、きっともう戻らない。



 □□□□


 戦争を企てる裏切り者だと言われ、突き刺すような視線を受けて──、赤の宰相はひょいと肩をすくめた。


「おやまあ。まさか筆跡でバレるとは思いませんでしたあ。ええ、ええ。その通り。私が戦争を起こそうと、ウィルドン山にコツコツ物資を貯めていた張本人ですよ」


 なんてことがないイタズラが露呈した子どものように、赤の宰相は明るく笑った。

 その様子は、まるでいつもと変わらない。

 アイヴィーは口元を歪めて「なんで」と呟いた。


「何故戦争を起こそうとするんだ。前王が、たくさんの人が、……お前だって戦争でつらい思いをたくさんして、やっとつかんだ平和だろう」

「うーん。何故だと思いますか、王」


 赤の宰相は問いかける。普段魔術を教えるのと変わらぬ口調で。

 アイヴィーには本当に分からなかった。他の国ほどではなくとも、グラース国には十分な領土がある。大規模な災害も飢饉ききんもない。他国に戦争をしかける理由などないはずだ。

 そんな少女の考えを見透かして、赤の宰相は目を細めた。


「分からないでしょう? 戦争は土地や資源を奪うために行うものだと思っているあなたには」

「……それ、以外に、なにが」

「簡単ですよ。戦争したいからするんです」


 あっさりと言い放つ赤の宰相の言葉が理解できなくて、アイヴィーは立ち尽くした。


「私はね、王。あなたの言う通り、戦争の真っ只中を生きた人間です」


 戦争の内訳は、殺戮さつりくと略奪だ。

 赤の宰相の青年時代は血でできていた。

 瞼を閉じると、戦争の記憶が昨日のことのように鮮明に蘇る。

 体から吹き出す鮮やかな赤と、鎧にへばりついた濁り固まった黒。

 その赤と黒を踏み鳴らし、戦場を歩く自分。


 眼前の敵に剣を突き刺し、魔術で遠くの敵を肉片にする。武器が尽きれば素手で絞め殺し、歯で相手の喉笛を嚙みちぎった。

 いつ敵に襲われるかも分からぬ夜を過ごした。あるときはかび臭い真っ暗な洞窟で、ひどい時は死体のフリをして紛争地の真ん中で死体の山と眠った。


 そうやって生き延びて、生き延びて。

 気が付けば大陸は3国に分かれ、和平条約が結ばれた。

 和平が結ばれた世界は、優しくて暖かかった。

 皆が太陽の光と共に目覚め、朗らかに笑い、畑を耕し、笑い合う。


 そんな世界に触れて赤の宰相は──、()()した。

 だって今さら、今さらだ。

 あれだけ人を殺して、奪って、今さらそんな世界に順応できない。

 絶望して赤の宰相は気づく。

「ああ。自分は生き延びたのではなく、死に損なったのだ」と。


 赤の宰相は、戦争中に何百人とみてきた。理不尽な悪意と災害に見舞われ、精神的におかしくなる人間を。

 ……そして自分もそうなってしまった。


「それからも私は先代の王に仕え続けました。あの王様なら、そのうち野心が出て新しい領地を奪りに戦争をしかけると期待してたんですよお」


 でも、と赤の宰相は心底がっかりした口調で続けた。


「あなたが生まれてから、王様はすっかり平和ボケしてしまいましてねえ。こうなったら自分で戦争の火種を生もうと、準備していたところだったんです」


 アイヴィーには、宰相の言っていることが理解できなかった。

 それでも彼女は自分なりの言葉で必死に伝える。


「戦争は人がたくさん死ぬ。民は飢えに苦しみ、文化の発展も遅れる。何もいいことはないと、そう習ったぞ。お、お前が。お前が私に教えたんだ」


 赤の宰相は苦笑する。


「そうですね。その通りです。でもね、そんな最中を生きた人間にとっては、そのロクでもない世界が生きやすいこともあるんですよお」


 赤の宰相は手に入らないものを求めて、何もない虚空を見つめる。

 幸福で安穏な暮らし。確かに欲しかった。でもそれは、戦争で家族と村を焼き討ちにされる前の話だ。


「もう私にはそんなもの──いらないっ!」


 赤の宰相が右腕を振り上げた。

 だがその腕が何かするよりも早く、騎士団団長が腰の剣を上に向かって振り抜いた。

 狭い執務室で振り上げられた剣は、あやまたず宰相の右腕の腱を切り裂く。

 青の宰相がすぐさま王を庇うように自分の元へ引っ張り、葉太郎達も赤の宰相を取り囲む。

 赤の宰相はだらりと垂れた右腕を見て、にっと笑った。


「……私を断定するためとはいえ、召喚石を壊さず持ち込んだのは失敗でしたねえ!」


 いち早く反応したイェルが、王の持っている召喚石を吹っ飛ばそうと魔術を発動する。

 だが、もう遅かった。


 王の持っていた石に描かれた魔方陣が、赤く光る。石から飛び出すように巨大な魔方陣が空に浮かんだ。


「うあ……っ!」

「王!」


 衝撃で王が後ろに飛ばされる。

 青の宰相はアイヴィーを引っ張ろうとした。だが次の瞬間、赤の宰相の左手の手刀が、青の宰相の首につきささる。


「があっ……!?」


 青の宰相の意識が飛んだ僅かな隙に、赤の宰相はアイヴィーの隣に降り立った。


 そして魔法陣が発動した。


 赤く輝く円の中から迫り上がってきたのは、血のように赤い巨大な岩──、否。

 岩のような鱗で覆われた体躯の魔物が、魔法陣からその全貌を現した!

 部屋中に亀裂が走る。魔物が背中から巨大な翼を広げた瞬間、執務室は崩壊した。

 崩れる足場。頭上から降ってくるがれきを避けながら、誰かが王の名を叫んだ。


 ルルルル、と魔物が唸る。

 背中には巨大な翼、前に伸びた鼻先と額に生えた鋭い角。

 太い2本の足は簡単に人を潰せそうな重圧がある。

 それが何の魔物か、異世界の人間である葉太郎とひまりにも分かった。

 実物を見たことはない。だが日本でも、あらゆる文献で語り継がれる伝説の幻想獣。

 誰かが震える声でその名を叫ぶ。


「レッドドラゴン──!」


 ドラゴンは翼を広げて、ルォオオンと雄叫びを上げた。



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