第一章 敗戦の残響
訳者より
本作は、ロシアの作家ドルミドント氏によって書かれ、ロシアで出版された小説です。この度、著者の快い許可を得て、私が日本語に翻訳いたしました。日本の読者の皆様にお届けできることを、大変光栄に思います。
物語が皆様の心を揺さぶることがあるかもしれませんが、本作はあくまでフィクションです。
感謝を込めて
訳者 田中 太郎
北海道の夜明けは、灰色の中から生まれてきた。それは訪れるのではなく、石狩湾の冷たい水面に広がる死斑のように、じわじわと滲み出てくるのだった。空気は濃く湿っており、火力発電所から漂う石炭の塵、濡れたコンクリート、そして共同炊事場の安物の煮物の匂いがした。その朝も、これまでのすべての日々と同じく、一日の始まりを告げるのは寺の鐘の音ではなかった。朝の静寂を引き裂く、甲高い工場のサイレンの咆哮。それが屋根々を転がり、家々の隙間に流れ込み、氷の粒となって肺腑に沈殿するのだ。
かつての商店街タヌキコウジ、現在のレーニン大通りに沿って、色彩を奪われた生活が続いていた。「伊藤呉服店」「松本菓子舗」「浦沢茶屋」――かつては優雅な筆致で描かれた看板も、無粋な灰色のペンキで無残に塗り潰されている。その侘しさの上に、ロシア語と日本語の二言語で、燃えるような赤色のスローガンが走り書きされていた。異質で角張った文字が、まるで看守と囚人のように、見慣れた文字と並んでいる。「万国のプロレタリア、団結せよ!」「我らの労働こそ平和の礎!」。灰色の綿入れや擦り切れた外套、同じ形の帽子を身につけた人々が、米の配給を待つ無言の列を作っていた。彼らの肩は丸く、顔からは表情が消え失せている。一人一人の吐く息が束の間の亡霊となり、冷たい空気の中へと溶けていく。彼らは互いに視線を交わさない。見ること、それは気づくこと。気づくこと、それは考えること。そしてここで考えることは、とうの昔に許されざる贅沢となっていた。
東京では、夜明けの訪れ方が違った。湿り気と金色を帯び、東京湾の潮の香り、屋台から漂う熱い油の匂い、そして昨夜の香水の残り香がした。銀座の最後のネオンの神々――キリンビールを宣伝する巨大な漢字や、「ピース」の箱に描かれた蠱惑的な芸者――が瞬き、本物の太陽にその座を譲って消えていった。「ブルーノート東京」と書かれた薄暗いジャズクラブの入り口から、完璧にアイロンがけされた制服のアメリカ軍曹が、笑いながらよろめき出てきた。彼はこの時間には派手すぎるドレスを着た日本の娘の肩を抱き、彼女の笑い声がサクソフォーンの最後の消えゆく音色と混じり合った。青い作業着を着た清掃員が、昨日の新聞をだるそうに掃き集めている。風が見出しを弄んだ。「日経平均、記録的上昇」「オハイオ州との新貿易協定」「ハリウッドスター、ジェーン・マンスフィールド京都訪問」。この世界は騒ぎ、商い、愛し、そして忘れていく。
札幌の郊外にある小さなアパートで、ハナエという名の老女が朝食の支度をしていた。その動きは緩やかで、何十年もの習慣によって磨き抜かれている。味噌汁を作ろうとしていたが、土鍋の中にあるのは発酵した大豆の香りがする本物の味噌ではなく、国のレシピ第四号に従った大麦とエンドウ豆の灰色のペーストだった。真っ白な米の代わりに、灰色で粘り気のある丸麦の粥。漬物の瓶が並ぶ棚の後ろには、人目から隠すように小さな仏壇が置かれていた。その中央には、帝国海軍の軍服を着て微笑む青年の、黄ばんだ写真が飾られている。彼女の息子、ケンジ。太平洋のどこかで消息を絶った。ハナエは箸でほんのわずかな粥をすくい、写真の前の磁器の小皿に置いた。まるでその薄い扉が、スローガンと監視人たちのいる世界全体を台所へ招き入れてしまうかのように、恐る恐る振り返り、唇だけで祈りを囁いた。それが彼女の日々の抵抗行為だった。勝利することはできないが、降伏する権利もない、彼女だけの戦争。
日本民主主義共和国の校庭に、子供たちの歌声が響いていた。その旋律は、どの日本人も揺り籠の中から知っている、優しく流麗な「さくらさくら」。しかし、歌詞が…歌詞が異質で、棘々しかった。整列した子供たちは、「友情の赤い旗」について、「偉大なる指導者スターリン同志の叡智」について、そして「解放者ソビエト人民との永遠不滅の友情」について歌っていた。若い日本人教師が、ぴくぴくと痙攣する瞼で、必死に合唱の指揮を執っている。彼の背後には、腕を組み、だぶだぶの背広を着たソビエトの「文化顧問」が立っていた。その顔は用心深さ以外、何の感情も浮かべていない。彼はリズムに合わせて満足げに頷いていた。後列の小さな少年が一瞬、歌につまり、その唇から古く、慣れ親しんだ言葉が漏れた。「さくら、さくら、やよいの空は…」。彼はすぐに口をつぐみ、教師からの重く、警告するような視線を受け止めると、恥と恐怖で真っ赤になった。旋律は一瞬たりとも途切れなかった。
北海道の沿岸、大地が尽き、凍てつく津軽海峡の向こうに南を望む漁村では、夜は深く、暗かった。塩と干物の匂いが染みついた低い小屋で、老いた漁師が手製のラジオ受信機にかがみ込んでいた。彼はゆっくりとチューニングノブを回した。雑音の合間、壁の向こうで唸る風の音を突き抜けて、不意に細く、震える声が聞こえてきた。演歌だった。失われた恋、庭に咲く梅、二度と見ることのない故郷への郷愁を歌う、胸を締め付けるような感傷的な歌。老人は身動き一つしなくなった。皺だらけの顔は石のように硬くなったが、指は受信機の木製の筐体に食い込んでいる。この音楽は別世界からの亡霊であり、失われた故郷の囁きだった。突然、庭で犬が鋭く吠えた。老人の反応は瞬時で、長年の恐怖によって研ぎ澄まされていた。スイッチがカチリと音を立て――小屋は、打ち寄せる波の音と、彼自身の絶望的な心臓の鼓動だけが満たす静寂に沈んだ。
東京、浅草寺の境内。古い銀杏の木の陰に隠れた、目立たない壁があった。そこへ観光客が案内されることはない。壁は、張られた縄に固く結びつけられた、何千もの小さな白い紙切れ、おみくじでびっしりと覆われていた。しかし、それは運勢を占うものではなかった。誰にも届かぬ魂の叫びだった。「ケイコ、娘よ、生きているの?私たちは東京にいます。母より」「兄さん、帰ってきて。父さんが重い病気です。あなたを呼んでいる」「タロウさん、約束通り、今も橋のたもとで待っています。毎週土曜日に」。人々は近づき、黙って自分の紙を結びつけ、同じように黙って去っていく。ここに自らの痛みの一片を残して。それは、分断された国民の、自然発生的な嘆きの壁であり、引き裂かれた幾千もの人生への、無言の記念碑だった。
新宿の路地裏に迷い込んだような小さなバーで、タバコの煙を通して薄明かりがかろうじて差し込んでいた。壁にはコカ・コーラの鮮やかなポスターが掛かり、金髪のアメリカ人女性が眩しい笑顔で瓶を口元へ運んでいる。テーブルでは、洋装の二人の男が酒を飲んでいた。彼らは元将校で、今は貿易会社のしがない事務員である。
「彼は芭蕉の俳句を一つも知らん」と、一人が言った。その声は静かだったが、怒りに満ちていた。「一つもだ!だが、あの…あの『欲望という名の電車』なら、そっくり暗唱できるだろう。彼はジーンズを履き、彼らの音楽を聴き、彼らのガムを噛む。我々はただ戦争に負けたのではない、タナカさん。我々は我々の子供たちの魂を失ったのだ」
もう一人が、友の肩に手を置いた。
「静かに、ヤマダさん、静かに。それが平和の代償だ。自由の代償だよ」
「アメリカ人になる自由かね?」と、ヤマダは苦々しく笑った。「時々思うのだが、北にいる彼らの方が、少なくとも自分が何者であるかを知っているのではないか。我々はどうだ?」
夜。北海道最北端、凍てつく津軽海峡に突き刺さる宗谷岬。風が唸りを上げ、波から飛沫を引き剥がしていた。監視塔に設置された強力なサーチライトの光が、ゆっくりと、しかし容赦なく闇を切り裂き、水面を滑り、暗闇から沿岸の岩々と、彼方へと続く有刺鉄線の列を浮かび上がらせる。
塔の上、風からガラスで守られた空間に、日本民主主義共和国国境警備隊の濃灰色の制服を着た若い男が立っていた。ユキヒロ・タケシ中尉。計器盤の薄明かりに照らされた彼の顔は、石から彫り出されたかのようだった。彼は双眼鏡を規則正しく水平線に沿って、南へと動かしていた。そこには、視界の限界で、まるで燃え尽きかけた焚き火の熾火のように、本州の灯りが弱々しく瞬いていた。別世界の灯り。敵の領土。
彼は国境の番人だった。彼自身が国境であり、自国を分断する壁の、生ける化身だった。
一瞬、ユキヒロは双眼鏡を下ろした。そして、その誰にも見られていない短い瞬間に、彼の黒い瞳には、義務や規律よりも深い何かが映った。彼が一度も知ることのなかった、しかし彼の血の中に流れるものへの、寄る辺なく、秘められた憧憬。統一への。
その感情は、現れたのと同じ速さで消え去った。中尉の手は再び硬さを取り戻した。彼はもう一度、双眼鏡を目に当てた。国境は、すべて平穏だった。